新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側


第弐拾八話―偽神・覚醒―



誰もが負けを確信した。
クラゲのような使徒、『3A−601 13thミカエル』はすでに本部の近くまで接近している。
本部の職員は退避していて、皆回りでそれを見ているだけ。
今すぐにでも要請すればN2爆弾が投下される。
もちろん、第4一帯は吹っ飛ぶ。
シェルターも木っ端微塵だ。
それを考えているからミヨコやカズヒロは投下要請ができない。
「地下から反応があります……」
一人のオペレーターがそう言った。
皆、最後を覚悟した。
それはフォース・インパクトの初期の初期現象なのだろう。
しかし、次の言葉でその絶望は消えた。
「この反応は……!? SStypeです!起動しています!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
絶叫と共に本部の地下から白銀のエヴァが出現した。
射出の反動を利用して飛び上がりクラゲをに踵(かかと)落としの一撃を与えた。
ミカエルはカウンターする隙がなかったのか、轟音を立てて吹っ飛んだ。
そしてそこには敵意を露にした、白銀のエヴァSStypeが構えていた。
今、本部内には職員はいない。
逃げ遅れていたとしてもエヴァを動かせる人間はいない。
それにあのSStypeだ。生半可な人間じゃ動かすことなどできない。
じゃあ、一体誰が操縦しているのだろうか。
『逃がさない』
冷徹なこの声。
皆どこか聞き覚えがあった。
それは、真実を知った彼がカズヒロに向けた言葉と同じくらいに刺々しい言葉だった。
ミカエルはすでに体勢を立て直しSStypeと対峙している。
SStypeはジャンプしミハエルにパンチをかました。
しかし、ミカエルはカウンター攻撃をしてダメージを倍返しする。
『効くか!』
それを素早い身のこなしで避ける、SStype。
SStypeは肩のウェポンラックからプログナイフを取り出した。
それを構える。
だが、それを見たミヨコは
「!? SStypeと連絡取れる!?」
さきほどのオペレーターに駆け寄る。
「駄目です。回線が使えません」
ミヨコはまずいと思った。
あのままではナイフでおそらくミカエルを攻撃する。
そんなことをすればそれ相応のダメージのカウンター攻撃がSStypeを襲うに決まっている。
『このっ!』
SStypeが持つプログナイフはミカエルの胴体を切りつける。
その攻撃により悲鳴を上げてミカエルは仰け反った。
しかし、それも束の間、いきなりミカエルはビームのような攻撃を切りつけられた部分から発射した。
『っ!?』
ミカエルが仰け反った間があったためSStypeはそれを難なく避ける。
ユウキは額にさきほどから滲む汗をぬぐった。


戦闘による気分の高揚というのもある。
しかし、これほどまでに戦っていて清々しいことは今までになかった。
まるで体が“ここがお前の居場所だ”とでも言うように。
適材適所という言葉があるのならまさにそれなのだと。
さっきから手が震えている。足も痛む。
だが、この震えはきっと武者震い。
足の痛みはきっと大地を踏む痛み。
目の前の使徒を倒すために全身が動いている、頭の回転が加速している。
先ほど気づいたことだが使徒はこちらの攻撃を全てなんらかの方法で跳ね返しているだけだ。
パンチをしたらそれとほど同タイミングで触手による攻撃。
ナイフで体を切り裂いたらその傷口から発砲を行ってきた。
さっきの踵落としはいきなりだったのか、カウンターしてこなかった。
つまり、カウンターさせる隙を与えないように攻撃すればいいだけの話。
だが、そんなスピードを出せるだろうか。
いらない疑問だった。
さっきから今日のSStypeはどこか違っていた。
俺の思考を実行する誤差がまるで感じられない。
エヴァと俺は違うものだから前まではほんのちょっとだけ感じる誤差があった。
しかし、今日はない。考えた瞬間にエヴァが動いてくれる。
これなら……イける!
右から使徒を切りつける。
その切りつけた反動を利用して使徒のカウンターを避けさらに連続攻撃を加える。
カウンターが返ってこない。
やはり、隙を与えなければいいんだ。
そう思っていた矢先……っ!?
いきなり後頭部に激痛が走った。
人を気絶させるとき後頭部というか後ろの首のほうをうまく叩くらしい。
まさにそれを受けたような……。
「うぐっ……だ、ダメだ……」
顔から血の気が引いていく。
まぶたが落ちてゆく。
油断した後悔の念が駆け回る。
くそっ、走馬灯なんて見えやしない。
ああ、死なないからか……。
皆、ごめん……。
俺は今も固唾を呑んで見守っているであろう皆に謝罪しながら意識を手放してしまった。


「ユウキ!」
「ユウキ君!」
「ユウキさん!」
シズク、ミヨコ、ユメミの三名の悲鳴が響いた。
ミカエルは今までの攻撃をまるで溜め込んでいましたといわんばかりに攻撃を加速させていった。
最初は人間の弱点が分かっているかのように後頭部へ強い一撃。
おかげでSStypeの後頭部はかなり破損していて、出血もしている。
その次に腕。
折れているかのように腕が普通曲がらない方向に曲がっている。
ぐったりと目の光を失ったSStypeは敵の攻撃を受けている。
胸、手、指、腹、足、肩、次々と破損し、あたりは血にまみれる。
もう、さきほどの攻撃分のカウンターをし終わったのか再び何もしなくなるミカエル。
それを見たカズヒロはため息をつきポケットから携帯電話を取り出した。
どこかへと連絡する。そのどこかとは国連である。
「すまない、私だ。ああ、N2爆弾を……」
「総督!」
ミヨコがカズヒロを呼ぶ。
カズヒロは振り返る。
「もう、無理だ。戦えるエヴァはない……フォースインパクトを起こされるよりマシだろう」
「そうではなくて、あれを見てください!」
ミヨコだけではない。
皆血相を変えてSStypeの方向を見ている。
それも目線は地上よりもずっと上だ。
戦闘不能になっているSStypeは地上でグッタリしているはずなのに。
カズヒロも皆に倣い、その方向を特に上方向を見た。
「っ!?」
あのカズヒロでさえ血相を変えた。
そこにはまるで天使のような翼を持った“それ”が宙に浮いていた。
しかもご丁寧に神々しいような光を放っている。
見ているこちらが眩しくて目を細めてしまうぐらいの輝き。
中心には赤黒い球体が見えている。
カズヒロは一瞬ミカエルがフォースインパクトの前兆で変化したのかと考えた。
その考えによりミカエルがいるはずの方向を見る。
ミカエルは動かずその場に停止している。
じゃあ、一体なんなのだろうか。
「光学映像つながりました!」
さきほどのオペレーターがノートパソコンを操作しながら怒鳴った。
ミヨコやシズク、カズヒロなどがそのパソコンを囲み映像を見る。
“それ”は四肢の外見や背中の翼、雰囲気などは全然似ていないが顔は紛れもなくSStypeだった。
そして何よりミヨコはSStypeに翼が出現して宙に浮く瞬間を自分の目でリアルタイムで見ていた。
つまり“それ”というのは紛れもなくエヴァンゲリオンSStypeだったのだ。
皆唖然としている。SStypeはS2機関を作動させたときのように赤い瞳をしている。
よってS2機関が動いているということだ。
カズヒロは国連へのN2爆弾投下要請を取りやめた。
SStypeは手を左右に大きく広げた。
そして口を大きく開き、そこから空気が震えるような咆哮を上げた。
広げた両手の手のひらにはこれまたまばゆい光が溜まっていった。
そしてSStypeは両手の頭の上に持っていき近づけた。
それぞれの手の平に溜まっていた光は両手を近づけることにより一つに合わさる。
左手を下げて右手だけにその光は集まり球状になる。
まるでミカエルを威嚇するかのように咆哮した後、SStypeはその光の球をミカエルに対して投擲した。
その光の球はもちろん動かないでいたミカエルに激突する。
ミカエルはカウンターとしてビーム攻撃を浮いているSStypeに行う。
しかし、当たるはずビームをなんとSStypeはいとも簡単に片手で弾き飛ばしてしまった。
ミカエルにその弾き飛ばされた攻撃が当たる。
その攻撃に対してはカウンターしてこない。
「そうか!」
その攻撃を見てミヨコは叫ぶ。その顔にはさっきまであった絶望の色はすでになかった。
なんだかよく分からないが、皆、SStypeがミカエルを圧倒しているということだけは理解していた。
「何が分かったの!?」
シズクとユメミがミヨコの顔を見る。
「つまり、奴は攻撃に対してカウンターしてくるけど、そのカウンターをさらにカウンターした場合何もできないのよ」
『おそらくね』とその後に付け足す。
ミヨコの仮説は大当たりだった。
ミカエルは受けた攻撃に対してその威力のおよそ倍の威力を持つカウンターを行ってくる。
しかし、カウンター攻撃をカウンターしたものをさらにカウンターする技術はないということである。
その後SStypeが攻撃した光の球を事務的に跳ね返すミカエルのカウンター攻撃をさらに跳ね返すという攻防が続いた。
およそ20分ぐらい経った後、ミカエルはすでにボロボロだった。
もうすでに元気に攻撃を倍返しする力は残っていなかった。
SStypeは光の輪のようなものを作り出すと三つミカエルに対して放った。
その輪はミカエルに対して縦と×印に囲むと一気にその輪を収縮させた。
直後、皆の前ではなんとも形容しがたい水音が鳴り響いた。
見ているものは呆気に取られ、中には目を背ける者、口を押さえ込む者がいた。
ミカエルはその三つの輪に切り刻まれたのである。
血のような赤い液体を大量に残しながらミカエルは残骸へと姿を変えた。
さきほどのオペレーターのパソコンにはただ『パターン青消滅』と表示されていた……。


ここはどこだろう。
あっそういえば前にもこういうことがあったな。
真っ白に輝く空間。
そして、優しく暖かい感じ。
まさに、癒される。
そんな、空間だった。


そうだ一番最初に使徒と戦ったとき。
俺はここでROEの記憶と、ミノハルを見たんだ。
ってことはあの世じゃないってことは確かだな。
よかった……。
安堵したのも束の間、いきなり背後から気配を感じた。
振り返るとそこには……すっごい驚いた。
髪形はまさに綾波のようなショートカット。
顔は分からない。シルエットだけって感じだ。
「あ、綾波?」
思わず尋ねてしまった。
そのシルエットは表情は分からないが笑ったような雰囲気になった。
『そうね、その姿を借りればいい……』
そう聞こえたかと思うとそこには綾波に瓜二つの女性が立っていた。
どこから入ってきたなんて聞かない。
だって今目の前でシルエットが実体化したような感じだったから。
瓜二つといっても完璧に一緒ではなく、なんというか綾波がもっと成長したらこういう女性になるんじゃないかといった感じ。
「綾波と呼ばれていた頃もあったわ……今は違う。私は第二使徒リリス」
リリス……。
碇シンジの記憶で見覚えがある。
確かあのジオフロントの地下にいたっていう白い巨人だ。
人類を生み出したとかなんとか言っていたっけ。
「ここはエヴァの中よ。普通ならパイロットの近親者の魂が入れてある場所だけど……」
それは旧型のエヴァの話だ。
SStypeは元は使徒戦役時に作られた四号機を直した機体だ。
ということは元は旧型ということになる。
「じゃあ、なんで第二使徒リリスが入っているんだ?」
少し小難しい顔をしながらリリスと名乗った綾波に似ている女性は続けた。
「あの人を……碇君を止めて欲しかったから……」
それは使徒の顔ではなく、一人の女性としての、人間としての顔だと思った。
止めて欲しい? 碇シンジを?
意味が分からない。
認めたくはないが、そもそもあいつのおかげで俺はエヴァに再び乗る決心がついたんだけど。
「彼の本当の目的は、人類を再び補完することよ」
!?
つ、つまりサード・インパクト級の何かをもう一度起こそうと?
そういうことか!?
世界を壊そうってそういうことか……。
「……奴は、もしかしたら消えてしまった皆のところへ行こうとしている?」
恐る恐る、聞いてみた。
あいつの記憶があるから分かる。
碇シンジには仲間が、家族がいた。
葛城ミサトや、惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイ他にも大勢。
でも、サード・インパクトが起きてからの明確な記憶は俺にはない、奴にはある。
たぶん、皆戻ってこなかったんだろうな。
「その通り、やっぱりあなたに碇君の力の1%を与えたのは間違いじゃなかった……」
「ど、どういうこと!?」
「碇君の記憶があったり、動かせなかったSStypeを動かせたのはそういうことよ」
変じゃないだろと言うような口調で言う。
確かにそう考えれば、石碑や碇シンジの記憶、シンクロ率、色々なことに説明がつく……。
自分でも不思議に思う。
彼女……リリスはきっと嘘を言っていない。
全ては真実だ。
と頭がそう訴えてくる。
「止めるったってどうすればいいんだ?」
とりあえず方法を聞いてみることにする。
急に覚悟を決めたような顔をする、リリス。
「簡単だわ……彼を……殺せばいい」
……殺す。
人間をこの世から消す。
当然死んだら何もできない。
世界を壊すことも、サード・インパクト級の何かを起こそうとすることも。
殺すなんて悲しすぎる。
「分かった、とりあえずここから出してくれ」
死んだら、償うことも、謝ることもできないんだ。
そんなの絶対に嫌だ。
俺にはあいつの記憶があって、水島ユウキとしての記憶もある。
だけど、あいつにはあいつ自身の記憶しかない。
二人分の、それもかなり重い記憶があるから俺は死ぬことが悲しいことというのが分かっている。
でも、あいつは……。
あいつは、きっと死を恐れてない。
きっとこう思っていることをリリスは分かっている。
だから、リリスは普通に言い返した俺に何も言ってこない。
死を極端に嫌っている俺に。
「今すぐにでも出してあげたいけど、ごめん。四号機を覚醒させてもらったわ」
いきなり話が変わったから俺は話についていけなかった。
覚醒って?
どういうことだよ。
「つまり、あなたが気絶したときにあの使徒を排除するために強化させてもらったというわけ。今のあなたが戻って再び乗ればたちまちエヴァに取り込まれてしまうわ」
「そ、それはリリスがここからいなくなるということか?」
別段悲しくないといった顔で淡々を俺の問いに肯定の答えを出した。
「もともと何も入ってない四号機に勝手に入ってきたのは私のほう。消えるのは当然、でもその前に私の力をあなたに譲るわ。そうすれば私が消えた覚醒した四号機にもこれまで通り乗ることができる」
あなたしか乗れなくなるけどねと付け足してくれる。
理屈は分かったが力を譲る。
第二使徒リリスの力。それはつまりリリスの力ということだ。
使徒は永久に活動することのできる聖書で言うと生命の実を持っている。
それはどうなるのだろうか。
「もちろん、ちゃんと寿命というものはあるから安心して。特にその辺りは変わらないわ。今の私にもそれだけの力が残ってないの」
聞こうとしたことを先に答えてもらってしまった。
ちょっと待てよ。
「よく考えたら、その残っている力を俺に渡したらリリスはどうなる?」
悪い予感がエヴァに乗り始めてから的中するばかりである。
「察しの通り、消えるわ。文字通りね」
「そうか……」
「でも、これでやっと皆の下へ行ける……」
その表情は消えることを恐れている者の表情ではなかった。
活き活きとしていて笑顔でいるとも見て取れる。
まるで消えることが嬉しい、消えたいと願っているような顔だった。



To be continued


リリスの力を受け帰還するユウキ。
新たに計画を練り直すシンジ。
ついに、物語は二人の対決へと幕を進める。


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後書き
微妙に短いかも……。
ちなみにサブタイトルの偽神は“にせかみ”ではなく“デウス・エクス・マキナ”と読んでください。
意味はラテン語で『機械仕掛けの神』という意味です。
このキノコみたいなクラゲみたいなカウンター使徒君。
設定上ではミハエルでした。でも、男性キャラで同名キャラがいたので没に。
別名とも言えるミカエルで登場させました。
いや、ミカエルとミハエルの関係はありません。
ミハエルは男性キャラでミカエルは今回殲滅された使徒のことです。
ミカエルは神の守り手。四大天使のうちの一人です。