新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側


第弐拾四話―冷めない過去の灼熱―



『敵の体内の熱が以上に高いわ。注意して』
レンからそうエヴァパイロット全員に伝わる。
敵の体温が異常に高いのは見て分かる。
空気のほうが冷たいから、まるで蒸しているかのように湯気が立っているのだ。
スライムのような体でゆっくりと本部に近づいて来るウリエルの目の前に四機のエヴァが立ちはだかる。
SSおよびBtypeはサブマシンガンと槍状の武器グングニルを持っている。
Stypeはサブマシンガンにハンドマグナム、Gtypeはスナイパーライフルを所持している。
『レイは後方から支援。ほかの各機は射撃で応戦。可能ならば接近戦を狙ってみて』
敵の攻撃方法が分からない以上、下手な突進はできない。
ここは慎重に敵を戦いながら分析するのが筋である。
Gtypeを除く各機がウリエルを中心に三角形に散らばる。
そこからサブマシンガンによる砲撃を行う。
しかし、シズクがある異変に気づく。
「変ね……ユメミ。ここはATフィールドの中和領域よね?」
すぐ前に座っているユメミに確認を取る。
ユメミのコクピット側に備わってい様々な計器がATフィールドはすでに中和されていることを示しておりユメミはシズクに向かって頷いた。
「ミヨコさん!まったく効果がないようだけど…」
サブマシンガンを撃ちながら通信を入れる。
『各パイロットへ砲撃は無駄よ!敵はその熱で弾が当たると同時に弾そのものを溶かしているんだわ……』
レンが分析した結果をミヨコが命令として下す。
各エヴァの持つサブマシンガンからの弾の放出が止まる。
それをいいことに今までゆっくりとした進んでいなかったウリエルの進行スピードが少しだけ速くなる。
『じゃあ、どうすれば……』
ユウキが叫ぶ。直後Btypeが前に出る。
『シュリどうするつもりだ!』
『格闘戦を仕掛ける。射撃が効かないのならば直接叩くまでだ!』
射撃が効かないのならば、格闘で戦う。
至極当然のことなのだが、このときシズクにはそれが間違いだという勘が働いていた。
「姉さん、接近戦を仕掛けるのなら近接戦闘用の武器を出してもらうように……」
「いいわ、このまま援護に回りましょ!なんか、いやな予感がするわ……!」
ユメミはそう強く言うシズクに多少戸惑いながらも頷く。
Stypeはサブマシンガンとハンドマグナムでウリエルをけん制する。
その隙にSStypeとBtypeはウリエルを挟み撃ちにし、その手に持つグングニルをウリエルに振るった。
しかし、それはまるでスライムをえぐるかのようなことをしただけでウリエルにはまったく効果がなかった。
グニョグニョと震えるだけで攻撃を吸収するウリエル。
『接近戦も通用しないか……坂中作戦司令!どうすれば!?』
『ちょっと待って!今考えてるから!』
そう返すミヨコだったが、考える余裕がたくさんあるほど現在の状況はいいものではなかった。


モニターには苦戦するエヴァチームが映っている。
シュリからどうすればいいかとあおられた。
敵はスライム状態、高熱の体。下手に接触すればその熱で、エヴァであったとしても痛手は免れないだろう。
どうすればいい!?
私は目の前にある計器を睨み付けた。
スライム状の使徒は高熱状態を維持している。
通常のスライムを処理するのならゴミ袋に入れれば済むことだが生憎人類に牙を向く使徒にそんな優しい方法は通用しない。
そもそも、あんな高熱のものを入れる袋なんて作ってる暇があったら人類は滅亡するし、敵だって抵抗するだろう。
誰が袋の中に入れるというのだ。
「どうするの、敵は確実に本部に向かって足を進めているわ。このままじゃ」
こんなときでも冷静なレンを関心しつつ私は対抗策をずっと考えていた。
それは通じたのかレンも黙った。
スライム状ということ以外に敵の特徴はないだろうか?
この前の使徒ほど速いわけではないがスピードは速い。やはり流動性に優れるからだろうか。
そしてあの熱。あれのおかげで気軽に近づけない。近づいて接触しようものならそれこそ自殺行為。
熱を無効化させるには冷やすか、その熱を奪うほかはない。
ふむ、冷やすか……。
「レン、冷却液なんてないわよね?」
「事務用のであれば貯水があるけど……まさか!?」
「ええ、そのまさかよ。使徒に対してその事務用の水を大量発射して、やつの動きを見るわ。大型ホースもあったはずよね」
「はぁ……分かったわ。レイ、少し後方に下がって。作戦司令さんが何か思いついたらしいわ」
レンは無線でGtypeに乗りライフルで敵を攻撃しているレイに連絡を入れる。
首をかしげるレイだったがすぐさま指定された近くのポイントまでGtypeが下がった。
「準備までどれくらいかかる?」
「30分もあれば用意させてみせるわ」
レンから頼りになる言葉が飛び出る。有限実行型であるレンのことだ。なんとしてでも30分でなんとかするだろう。
それを信じるだけだ。
「ユウキ君、シュリ、シズク、ユメミ。貴方たちは準備が整うまでおよそ30分。敵の侵攻を防いで!」
四人の威勢のいい返事が来る。
この雰囲気はいい。希望に満ち満ちているかのようだ。


モニターに映るスライムは見るからに熱そうだ。
というよりもやつのせいで周りの温度が上がっている。
地球温暖化がより悪化してしまうではないか!ただでさえセカンド・インパクトとか南極の氷が解けるとか危ないのだから。
ミヨコさんの言っていた30分、必ず守ってみせる。
SStypeが持つ右手のグングニルを強く握り直す。
今まで攻撃らしい攻撃を行ってこなかったスライムが初めて攻撃に転じてきた。
標的は……シュリか!?
すぐさまサブマシンガンでシュリを覆いかぶさろうとするスライムを撃つ。
シズクとユメミちゃんの乗るStypeも銃撃を行ってくれているようだ。
『くっ!』
シュリは寸前のところでその攻撃を横に飛び避ける。
シュリの乗るBtypeがいたところはスライムの溶解液のような攻撃により完全に溶けてしまっていた。
そこには……まずい装甲盤か!?
AB本部を守る装甲盤が見え隠れしていた。あそこにさっきの溶解液が降りかかったらたちまち溶けてしまうだろう。
「シュリ!まずい!敵があの装甲盤を攻撃したら!」
『分かってるいくぞ!Stypeは援護を頼む!』
『分かったわ!』
俺が一番早くやつの近くまで来たようだ。
熱にかまわずグングニルを敵に刺した。
どうだ……!?
やはり、効果はなくただ槍がぐにゃりと敵の体に衝撃を吸収されて刺さっただけだ。
スライムにダメージというダメージは見られない。
反対側からシュリが同じくグングニルで突き刺した。
『このまま投げるぞ!』
「ああ!」
見るとスライムはStypeの二丁の射撃武器による攻撃によって俊敏な動きができないようであった。
力をこめる足をぐっと開き一気にグングニルを上の方向に振るった。
上手くシュリとタイミングが合いスライムが吹っ飛んだ。
しかし、吹っ飛んだからといってダメージがあるようには見えない。
再びのそのそとこちらに向かってきている。
それにしても熱い。
俺が額の汗をぬぐったほんの一瞬だった。
『ユウキ、前!』
「しまったっ!」
その隙にスライムは大きく跳んでいた。弾むといったほうが正しい。
俺はスライムにサブマシンガンによる攻撃を行いながらすぐさまそこから飛んだ。
ギリギリ間に合った。しかし、すぐ近くにこれまでにない熱気を感じる。
サウナの中にいるようだ。
『ユウキ!早く体勢を立て直しなさい!』
StypeとBtypeが援護射撃してくれている。
俺はそのまま振り返らずに少しだけSStypeを走らせる。
振り返ったころにはスライムはこちらを追うのをやめたのか、二機の方へと向かっていた。
「このままじゃ消耗戦になる……まだなのか……」
愚痴をこぼしたまさにそのときだった。
俺の乗るSStypeが立っている近くの地面から巨大なホースをライフルに直結したものを持っているGtypeが出てきた。
さながら消防隊の消火活動。
『皆お待たせ〜今回のとっておきの武器よ!名づけて……スナイパーホースよ!』
…………、いくらか温度が下がったようだ。
それを持って構えている綾波がえらい。
『これはホースより供給される水を強い圧力で飛ばすライフルよ。ものすごい水鉄砲と思ってくれていいわ』
レンさんからツッコミに似た説明が入る。
でも確かに溶岩みたいに熱い今回の使徒にとっては効果大かもしれない。
『他三機は敵から距離を取りつつ援護。レイはそのホースで敵を撃って!一応水はかなり確保したから』
ホースは見ると地下へとつながっていた。
どれくらい水を用意したのだろうか、想像絶するぐらいの水に違いない。
敵がこちらに気づいたのか、方向転換したときだった。
そのスナイパーホースから水が飛び出した。
こ、これはすごい。想像以上の速さでスライムに飛んでいった。
咄嗟に避けられないスライムはその攻撃を受けるしかない。
すると、見る見るうちにスライムは硬くなってしまい、スライムではなくなった。
かなり効いているようだ。
だが、スライムの形状が変わっている?
『放水止めて!』
ホースから水が止まる。スライムは赤かった体色を青に変えた。
そして起き上がった……?
人型をしている。計器を見るとさっきの熱は感じられない。
形状が変化してしまったのだろうか。
『皆取り囲んで殲滅して!』
だが、四機が行くまでもなかった。
人間で言う両手のようなものを上げて存在をアピールしていたスライムだったがその体に大きな風穴が六つほど空いていた。
弾の飛んできた方向を見るとStypeが得意げにハンドマグナムをクルクルと回していた。
『どんなもんよ!』
「やるな、シズク」
体に風穴を開けられた使徒は倒れこんだ。
どうやら撃たれた六ヶ所のどこかにコアがあったらしい。
発令所が歓喜にあふれたのが無線で聞こえて、ようやく安心することができた。


「姉さん、びっくりしたよ。いきなり銃で敵を撃ってるんだもん」
更衣室で着替えているとユメミにそう言われた。
あれは、しょうがない。
だってレイのあの水攻撃で形状が変化していた使徒のコアがちらっと見えたから。
撃たないわけにはいられなかった。
「確かに。よくあの距離で敵のコアが見えたな」
珍しくシュリが賛成している。
出会い当初いきなりユウキに掴みかかっていたからどんなやつかと思っていたらそれほど変なやつでもなかった。
目つきは悪く、言葉遣いも女性っぽくないけどなんとなく頼れるような存在だと思った。
それに流れるような銀髪は見ていて飽きない。
「たまたまだって。運と視力と射撃には自信あるから」
愛想笑いを浮かべてみる。
「運も実力のうちだ。これからはもっと頼ることにしよう」
そう言って笑って更衣室を出て行った。
ってよく考えていたらこれからはってことは今まであんまり頼りにされてなかったってこと!?
ち、ちょっと待ちなさいよ!
「あ、姉さん、そんな格好じゃ!」
私は自分の格好も省みず更衣室の外に出てしまった。
だが、すでにそこにシュリの姿はなく。
代わりにびっくりして目をパチパチさせて口をあんぐりと開けているユウキがいた。
何よ、口までパクパクさせちゃって本当に馬鹿っぽく見えるわね。
でも、そんなやつに私は……。
って何考えてんの?私は!
「あ、あのぉシズクさん?そろそろ更衣室に戻ってくれるとありがたいのだけれど」
気づくともうユウキは目を閉じていた。
頬を赤くしてそう言う。
えっと、更衣室に戻れというのは服がどうにかなっているわけで……。
ふと、自分の格好を見ると……あっ……。
プラグスーツを腹部ぐらいまで脱いだあたりだった。
…………。
見る見るうちに恥ずかしさがこみ上げてくる。きっと赤面しているんだろうな。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
叫び声を上げてしまい思いっきりユウキの頬を引っ叩いた。
そしてすぐに回れ右をして更衣室へと戻る。
そこにはしょうがないなといった顔をしている我が妹ユメミ。
気づいていたなら言ってくれればいいのに。
そう言えば飛び出すときになんか言っていたような……。


いや、しかしまいったな。
不可抗力とはいえシズクの……その全裸を見てしまった。
一瞬のことだったんだが……顔が熱いぞ。
うぅ、この後一体どんな顔して会えばいいのやら。
い、いいや。こ、これは俺の所為ではない!
つまり、何食わぬ顔で会えばあちらも特に気にしなくて済むのでは!?
俺にとって別の意味の悪夢が今始まる!
こういうときに限って何故シズクと二人だけで帰らなければならんのだ!
シュリは先にどこかへ行ってしまったし、綾波は先に帰ったようだし、ユメミちゃんは遠慮したのかいないし……。
訳が分からない。いや、分かってるんだけどそれを認めたくないというか。
なんというか、もうっ!
「どうしたの? 急に黙りこんで」
「うぇっへっ!?」
い、いかん! 変な声が出てしまった。
いや、たぶん今俺がどんながんばっても浮ついた声しか発生させることができないような気がする。
「その……し、シズクと二人だけで帰るのって意外と初めてだなぁと思ってさ……」
これは事実だ。
いつも、シズクの隣には妹であるユメミちゃんがいたし、ユメミちゃんがいないときでも綾波が俺の隣にいた。
しかしユメミちゃんは何を思ったか遠慮(?)をし、綾波はどこかへと消えてしまった。
シュリは元々地下に住んでるし、地上へは帰らない。
というより、さっきあんなことがあったから俺は気まずくなっているんだ、うん、そうに違いない。
まるで連続で爆発を繰り返しているような心臓の音がやけに響く。
ついに家までたどり着いた。
な、長かった。たぶん今までで一番長い道のりだ。距離変わらないのに。
俺が早くエレベーターに乗ろうと前へ足を出したときだった。
手にぬくもりを感じて振り返る。
シズクは一歩も動かずに俺の手を握っていた。
というより俺が前へ出るのを止めたかったような気もする。
「ど、どうした?」
心臓の音は全然衰えを見せない。むしろ、強くなった。
息をするのさえ少し苦しい気がする。
「この前さ……レイと一緒に下校してたじゃない?ほら雨のとき」
雨の日。
ああ、相合傘をして帰ったときか。そのときはこれからどう動くか大まかに説明するために相合傘どころの話じゃなくなったのだけれど。
他の人間にはあたかも俺と綾波が恋愛的な意味で相合傘をしていたと映ってしまったのだろうか。
「ずばり聞くけどさ……好きなの? レイのこと」
シズクの言葉が最後が震えていたのが分かった。
出撃前のシズクの俺に見せた何か言いたそうな顔はこれのことだったのだろうか。
綾波が好きなのか?
よく分からない。好きと言えば好きなんだと思う。
でもそれがライクなのかラブなのか。気に入っているの好きなのか、愛しているの好きなのかは自分でも区別できない。
黙っていたのがいけなかったのだろう、シズクは伏せていた顔を上げた。
その顔は戦闘時よりも真剣な顔に見えた。
「わ、私は……ユウキが……その、お、男として好き……」
頬に衝撃と冷たさが走った。それは雫だった。
いつのまにか太陽は隠れてしまい、澄み切った大空は暗雲に包まれていた。
最近、どんよりな天気が続くよな……。
そんなこと考えている場合じゃないのに考えてしまう自分がひどくうざかった。
「シズク……頼むから冷静に聞いてくれ。決してお前が嫌いというわけでも綾波が好きとかそういう意味じゃないんだ」
一呼吸置く。
俺は心にもないことを口にした。
「今は、恋愛とか友情とかそれ以上に大事なものがあるんだ……だから答えを出すことはできない」
何言ってんだよ、俺。
こんなに慕ってくれてるんだぞ?
俺が会ってきた女性の中でおそらくベストスリーに入るぐらい可愛い顔をしている。
何度も戦闘でピンチを救ってくれた子だぞ?
今、自分がもう一人いたらすぐさまこのろくでもない俺をぶっ飛ばしている所だ。
大事なもの……それは自らの命を証明すること。
あの犠牲の上に俺は生きている。のうのうと。
そう思うと申し訳なく思ってしまう。俺を慕ってくれている全ての人間に。
俺の前でいいよ、いいよ、こっちこそごめんとか謝っているシズクに俺が一つだけ真実を話すことにした。
「俺さ……」
雨がざあざあとうるさい。
早く帰って着替えなきゃ風邪を引く。
「人を……」
遠くから姉さんと呼ぶ声が聞こえる。
たぶん、ユメミちゃんだろう。俺とシズクが話しているのを見て近寄ってきたと思う。
冷やかすためだろう。
ユメミちゃんの足音が止まる。傘を持っているのだろうか、俺の耳に入る雨音が変わる。
濡れる感覚もなくなる。
「殺したんだ……この手で……」
「……えっ……」
今にも消えいりそうな声と、ユメミちゃんが息を呑む音がかすかに聞こえた。
そう、生きるためとはいえ、実弾が装填されていた銃を使い俺は候補者を殺した。
当然国連が実施していることだ。勝ち残ったことを褒められる。
罵倒して欲しかったのに。
罰して欲しかったに。
罪を償えと命令して欲しかったのに。
仇と銘打って殺されたかったのに。
そんな人間は一人もいない。よくやりましたね。あなたが勝利者だ。
と褒める人間しか俺の周りにはいなかった。
もう、二人の声は聞こえなかった。
俺は踵を返して宛もなく街をさまようことにした。
この雨だ。
体を崩して倒れるのは時間の問題。
死んでもよかった。
皆死んだのに俺だけ生き残るたんて虫が良すぎたんだよ。



To be continued


奪われたのは“人形”
しかし、創造主に牙を向いたのもまた“人形”
暴かれる過去の真実。
全てを知ったとき彼は……



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後書き
ウリエルとの使徒戦を中心に描きました。
後半は人間模様とは名ばかりのギャルゲみたいな展開www
ユウキ君の過去がいよいよ暴かれてきました。
ウリエルというのは四大天使のうちの一人で神の炎と呼ばれています。