新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側


第弐拾弐話―探究心:絆―



ミハエルに連絡を入れた次の日には退院する事ができた。
まだ、腹に包帯を巻いていたが少し気になる程だ。
AB本部にあるミハエルの執務室に来た。
コンソールのコールボタンを押す。
入室の承諾を得て部屋に入る。
奥に大きな机がありその上にパソコンが二台、コーヒーの缶。
そしとあまり離れない所に冷蔵庫らしき物が一つと結構簡素なものだった。
その机の備え付けだと思われる椅子にミハエルは座っていた。
「よっ、傷はもういいのか?」
この前病室に来たときにも同じようなこと言ってなかったか?
「ああ、傷は全然痛くないから。包帯が巻かれて不自然な感じはするけど」
「なら問題ないか……」
ミハエルは屈託のない笑みを浮かべながら頷いた。
しかし、気づいた時には真剣な表情だった。
「例の話だが、命を懸けることになるぞ?」
「それは……ABから命を狙われるってことか?」
ミハエルは何も言わずに頷いた。
俺はとっくに覚悟は決まっていた。
だが、それ故ふと疑問に思うことがあった。
「お前はどうなんだ?まさか、俺の為に自らの立場を犠牲にするつもりなのか?だったら……」
断ろうとしたとき
「落ち着け。俺も時が経てば行動を起こしていただけだ。お前が現れたのは偶然だ」
まるで諭すような言い方だった。
偶然。
果たして今の俺にそんな言葉が通用するだろうか、こんな言葉……。
第4新東京市に来る前だったらその一言で全て終らせることができた。
しかし、今は変な運命めいたものを感じる。
その謎を解明できるだろうか。
やるしかないのだと思った、というのは真赤な嘘。
運命めいたものより、現実を見なければ。
「分かった、なら俺はもう遠慮しないからな」
「……とは言ったものの、俺が教えることは少ない、ハッキングの方法ぐらいだ」
ハッキングという単語が俺の決心をなお、ゆるぎないものとする。
ふところからミハエルに先日渡された拳銃を銃身を持って取り出す。
物が物であるからあまり相手を挑発してはいけないだろう。
「これはどうするんだ?」
「銃を撃ったことがないのか?」
「まあ……な」
あるにはあるが、覚えてなどいない。体が覚えているということがあるような気がしないでもないが。
「Btypeのパイロットにでも教わるといい、俺よりも射撃が上手いはずだ」
「分かった」
「あと、分かっているとは思うが調べられていたところとかを見られたら……」
そこで俺は拳銃を普通の握り方に戻し、ふところに戻した。
「分かってる、撃てってことだろ?」
「ああ」
その日一日はミハエルからハッキングの方法を教えてもらったりてすぐに日は落ち、気がついたらミハエルの部屋で眠ってしまっていた。


翌日気がつくと自分の部屋のベッドの上に横になっていた。
時間はいつもより少し早い時間、学校には余裕で間に合う時間だった。
ミハエルが送ってくれたのだろうか、悪いことしたな……。
今度お礼でも言っておこう。
ベッドの脇にはご丁寧にメッセージまであった。
なんだろうか……。
一枚の携帯端末用メモリーと置手紙。
読むと自分が調べたエヴァについての情報が入っているから携帯で暇なとき閲覧しておけとのことだった。
なおさら悪いことしたなぁ……。
俺は携帯にそのメモリーを取り付けた。後で見ることにしよう。
ゆっくりと朝の支度をしてから俺は家を出た。のんびり支度したというのにいつもより早かった。
当然、道行く人間は知らない人ばかり。
俺が通っている学校のと思われる制服を着ているがどれも見たことない人物ばかり。
トシヤでもいれば、盛り上がるのだが。生憎あいつはもっと遅く来る人間だ。
仕方ない、考え事でもしよう。
そういえば、ミハエルにハッキングの仕方を教えてもらっているとき執拗に『見つかったら口を塞ぐか、何かしろ』と言われていたな。
敵はABや政府、国連の中にいるってことなのだろうか。
妙にふところに入れておいた拳銃が重かった。
授業がやっと終った。
「ユウキ君、お昼ご飯は?」
綾波にそう言われた。後ろに皆控えているから誘ってくれているんだろう、いつもそうだから。
だが、今の俺にそれはいらぬ厄介だと思えていた。
とにかく、早く事実を知ってスパイまがいのこの行為を終らせたかった。
「悪い、ちょっと用があって……あ〜職員室に」
「えっ?……うん、分かった。無理しちゃダメだよ?まだ退院したてなんだから」
「ああ、ごめん。誘ってくれてありがとう」
俺は片手を上げて返事をして居心地の悪い教室から出て行った。
向かうは屋上。普段は鍵が掛かっていて生徒は立ち入り禁止の場所。
扉のコンソールに俺のABのIDカードを通すと鍵が開いた。
やはり、こんな関係のない場所のロックは俺みたいな一パイロットのIDでも開くのか。
屋上へ出てそこからの景色を眺める。
場所の関係もあってか、第4新東京市を一望とまではいかないけど結構な眺めだった。
俺は携帯を取り出し、さきほど取り付けたメモリを呼び出す。
そこには題名としてなのか『E計画とその後』と表示された。
『使徒戦役時代のエヴァのコアユニットにはパイロットの近親者の魂と呼べるものが入っており、それを介してパイロットはエヴァとシンクロすることができる』
『また、A10神経という特殊な要素が絡んでくるため使徒戦役時のエヴァに乗れる者は特殊な場合を除いて中学生から高校生に限られる』
『新型にはその要素はなく……以下機密レベルSSのため表示できず』
頭にある微かな碇シンジの記憶を辿ると確かにシンジはエヴァの中に何かを感じていたらしい。
それが、母親の魂というわけか。
「こんなところにいたのか?ユウキ」
後ろからトシヤが俺の肩を掴んだ……!?
しまったっ!
すぐに俺は携帯の電源を切りポケットにしまう。
当然純粋で鈍感なトシヤもそれに気づいたようで
「どうしたんだ?まさか、ラブレターとかか!?」
まったくこいつは……今の時代そんな古びたものは誰も書かん!
と、いつもどおりツッコミを行ったのは本当に癖で……。
それを聞くと急にトシヤは穏やかな顔になり、フェンスにもたれかかった。
「よかった……最近のお前なんか思い詰めているような顔してたからな……怪我もしてるみたいだし〜騒ぎでも巻き込まれたか?」
とイタズラな笑みを浮かべながら俺の腹を見る。
大方綾波とかにでも怪我をしたことを聞き出したのだろう。
そんな笑みを見た後だっただろうか、俺は自然と握っていたふところの銃のグリップから手を離した。
「実はな、トシヤ。綾波やシズクたちがあのエヴァのパイロットだっていうのは知ってるだろ?」
「ああ、夕暮が口を滑らせたときに……な。お前はあの時いなかたけど……」
「俺も実は……エヴァのパイロットなんだよ」
トシヤが一瞬だけ驚きの表情を浮かべたが、すぐに知っていたかのような顔をした。
「薄々感づいてはいたぜ。警報が鳴り響く数秒前にお前たち三人は俺たちの前から姿を消すんだからなぁ」
にやっと白い歯を出して笑う。
確かにその通りで警報が鳴ることを知っていなければ、使徒が現れることを予測していなければそんな芸当はできない。
「まあ、人類の運命を左右するパイロットさんと友人だからといって特に何が変わるわけでもないだろ?」
その屈託のない笑みでそいう言われるとこちらも反論ができなくなってしまった。
パイロットの友人、それがどんな社会的地位なのかは分からないが確かによく考えれば何事もないような気もする。
しかし
「さっき、お前がここに来る前俺が何をしていたか分かるか?」
と聞くと何を言ってるんだといった顔をしたトシヤは続けた。
「未来予知とか、監視とかでもしない限り無理だろうが……!」
軽く頭を叩かれる。まったくもってトシヤの言うとおりである。
「お前、結構いいやつだよな……」
独り言のつもりで呟いた。
しかし、当の本人にはしっかり聞こえていたようで
「フハハ、もっと褒めるがいい!」
と有頂天にトシヤはなったりもしていた。
そんなトシヤの性格がこのときばかりはうらやましく思えた。
この会話を聞いている第三者が扉の向こうに居たことはこのとき気づかなかった。


その日はエヴァのシンクロテストがあった。
さきほどの情報によると使徒戦役時のエヴァには近親者の魂が入っているようだ。
それを意識していつもはやらないこと、エヴァに意識を向ける。
何とも言えない気分になる。言葉で言い表すとすればおだやかとかのんびりとかそういう感じである。
ずっとそんな清々しい気分だった。
「四人とも特に問題はないわ。今の調子でオーケーよ。えっと、それからユウキ君?」
「はい?」
テスト結果を言い渡された。
結果は面白いぐらいに俺が他の三人を追い越していた。
これで、エヴァの中に魂があるというのは少なくともSStypeは実証された。
あの情報が本物ということか……、確かSStypeの元はW号機、つまり使徒戦役時に使われていた四号機ってこと。
「この結果の通り、あなた他の三人よりかなり上よ。どうしたのかしら、急にね」
レンさんにまで疑問を持たれる始末。
おそらくレンさんはこの情報のことはすでにご存知だろうな。
「調子がよかったんだと思いますよ」
下手な言い訳をすると返って事を大事にしかねないから注意しなくちゃな……。
俺はテストが終った後部屋に戻るシュリを呼び止めた。
「どうかしたか?」
相変わらず無愛想で無表情なシュリは静かにそういった。
初対面の人間だった喧嘩を売られている気分になりそうなくらいだ。
「ちょっと頼みがあって……白兵戦について色々教わりたいんだけど、ああもちろん戦闘のためなんだけど」
シュリは俺の理由に表情を一瞬だけ変えた。
目つきが鋭くなったあたり疑っているのだろうか……。
「私の攻撃を全て避けた挙句反撃してきた……私を挑発してるのか?」
別の意味で不機嫌になっていたようだ。
これはまずい、こんなところで機嫌を損ねられたらアウトだ。
「ち、違うって!……白兵戦って言っても射撃訓練の方で」
またシュリは表情を変えた。慣れていない人間には分からないぐらいの変え方だったが。
弱冠目つきが元に戻ったか。
「そういうわけか……まあ、いきなり発砲するより先に武器を投げるあたり少々問題ありか……」
くっ、この前の戦闘のことを言われるとは思ってもいなかったぜ。
しかし、シュリもこのように人をからかうこともあるもんだな。
少しだけ驚いていた。といってもこれは本人とって失礼だから言わないでおこう。
「これから練習するか?」
「ああ、早いに越したことはないからな」
「なら、職員用の射撃訓練場があったはずだ、行くぞ」
俺の返事を待たず早歩きで先に行ってしまった。その後を追う。


シュリと会話した後に一緒にパイロットの待機室から出て行くユウキ君を見て私はため息をついた。
どうしてだろう、ユウキ君が誰か私以外の女性と話してると胸がもやもやする。
これは嫉妬であり、たぶん私はユウキ君のことを好意的に想っていると最近よく考えてしまう。
「どうしたの?レイ」
シズクにそう呼ばれる。一緒にいるユメミちゃんも少し心配そうな顔をしていた。
別にどうもしてないのだけれど。
「浮かない顔してましたよ?レイさん」
ユメミちゃんにそう言われて、顔を触ってみる。
そんな変な顔してたのだろうか。今度から気をつけよう。
シズクとユメミちゃんとともに地上へと向かう。
地上へと続くエレベーターに乗っている最中のこと。
「最近、ユウキのヤツ付き合い悪くない?」
こんなことをシズクが言い出した。
前の私ならそんなことないよ、と否定できたけど今はできない。
先日だって昼食に誘ったら職員室に用があると言って逃げられてしまった。
あの曜日のあの時間に職員室で会議があって、行っても返されてしまうのは学校の生徒ならほぼ誰でも知っているはずなのに。
「姉さんの勘違いじゃないの?だってシュリさんとは普通に話していましたよ?あとミハエルさんとも」
「親しげに、いつも通りに会話していた人ってそれぐらいでしょ?う〜ん、やっぱり避けられているんだわ」
半ば確信めいたようにシズクは言う。
何故避ける必要があるのだろう?後ろめたいことでもあるのか。
「私がそれとなく聞いてみようか?」
気がついたらこんなことを言っていた。
というのも、ユウキ君がシズクの前で碇シンジの容疑をかけられて連行されたあの一件からシズクはなかなかユウキ君と話してない。
それで避けられているって言ってるんだから少し理不尽だとも思った。
「う、うん、お願い……」
俯いて、しかしどこか期待しているような表情でシズクは返事をした。
まったく恋する乙女の顔そのものではないか。
ユメミちゃんもそう思ったらしく私にいたずらっぽい笑みを浮かべてきた。
私は同じような笑みで返した。


シンクロテスト、シュリとの射撃訓練、ミハエルとのハッキングの練習で疲れた俺は待機室で休んでいた。
「ふぅ……」
深呼吸を一つする。
全身に疲れが溜まっているのが分かる、若いというのに情けないもんだ。
手ががくがくする。それほど銃を扱う場合体力がいるってことか……。
俺はポケットから携帯を取り出してさきほど再びミハエルから受け取った携帯端末用のメモリを取り付ける。
そしてそれを呼び出し開く。
タイトルは『使徒について』
そもそも、自分たちが戦っている者達について戦っている本人たちが何も知らないというのは少しおかしいよな……。
まっ人類全体があの使徒のことを全て分かっているとも思えないけど……。
そんなことを思いながらその情報を読んでいく。
『使徒は人類に対して侵攻してくる謎の生命体である。その理由は謎に包まれている』
これは一般情報。
その下に非公開の情報が記してあった。
『これは使徒戦役時におけるデータであるが、使徒はサード・インパクトを引き起こそうとして侵攻してきたのである』
う〜ん、これは使徒について碇シンジが知っている知識。
つまり、今の俺にもその記憶と知識は少しだけあるわけで。
すでに知っていた情報しかないのかと少しだけ落胆しながら続きを読んだ。
『しかし今期の使徒襲来の理由はまったくもって不明であり、予測ではサード・インパクトに続きフォース・インパクトを起こそうとしていると思われている』
ん?フォース・インパクト?
この前のエヴァについての情報にはサード・インパクトを阻止するためみたいなことが書いてあったな、新型エヴァの項目に。
ってことはこの情報はエヴァについての情報より機密度の深い情報というわけか……。
えっと、つまり、それは……ああ、なって、こうなって…………ぅ
……………………。
俺は物音で目を覚ました。
ってか俺ってば寝てたのね。
しかし、片手に持っていたはずの携帯がない。
片手でベンチの下の探すがそれらしいものはない。
まさか誰かに持って行かれたのか!?
さっきの物音と照らし合わせるとすぐ目の前に……っ!?
視界に入った困惑の表情、動揺する真赤な瞳、揺れる水色の髪。
一番見られたくない相手だった。
「綾波…………!」
俺の携帯を握り締めたまま俺をじっと見つめていた。


シズクに頼まれたことを翌朝ユウキ君に聞くため私はユウキ君の住むマンションに向かった。
早朝だったしきっとまだ寝てると思った。
だけど、いくらチャイムを鳴らしても出てくる気配はない。
ミヨコさんに事情を説明して何かあったら困るため開けてもらう。
見事に誰もいなかった。寝室にもユウキ君の姿はなかった。
ミヨコさんが昨日AB本部から帰ったのを見てないといっていたので私はAB本部に向かうことにした。
どうせまたいつの日かみたいに待機室のベンチかどこかで眠りこけていると考えた。
それは的中。
ユウキ君は携帯片手に待機室のベンチに寝ていた。
覗き込むと少々難しい顔をしていて、眠っている最中の顔としてはそんなに相応しいものではないなと思った。
普段の素振りから似合わず考え事でもしていたのかなとその携帯をそっと取り上げた。
少し物音がしてしまった、起こしてしまったのかな。
携帯のディスプレイに表示されていた内容を見る。
「なになに……『使徒について 機密レベルS』!?……これってまさか……そんなっ」
機密レベルSなんて相当階級が上のものでなければ知ることはできない。
それを知っていたとなると、ユウキ君は本当に階級が高いのか、あるいは嗅ぎまわっているとしか考えられない。
この前病室で疑問を持っていると言っていたことを考えるとどうしても後者だと決め付けてしまった。
そのときユウキ君の目が開かれる。
寝ぼけ眼で私を見る。
その黒い瞳は瞬時に、申し訳なさそうな色へと変わった。
「ユウキ君……・あなたは……っ」
私は信じたくなかった。

ユウキ君がこんなスパイまがいのことをしていたことを。

私のために必死になって作戦に抵抗したユウキ君のことを。

シズクが好きになった少年がこんな期待を裏切ることを。

私と同じエヴァのパイロットで、一緒に戦う仲間がこんなことすることを。

いつもムードメイカーだったクラスメイトが……。

私自身好意を持ってしまった男の子が。

こんなことを…………っ!


To be continued


次回予告

惹かれあう心。
裏切られた関係。
決意。
天から降り注ぐ水はこの全てを洗い流すものとなるのか、それとも。


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後書き
今回は使徒戦はありませんでした。
いや果たしてSStypeの中には誰が入っているのでしょうか?
そんなもん分かりませんよww
サブタイトルの『:』は数学の『比』などで使うあの記号です。
ですから読むときは『たい』と読んでくれれば幸いです。