見渡す限り青い景色。
曇りなき澄み渡る晴天。
真夏の太陽が照りつけるこの場所は……。
海である!
学生の楽しみの一つでもある修学旅行だ!
当然、俺の通う第壱中学校も例によって例のごとくこの季節がやってきた!
綾波は使徒がいつ来るか分からないから待機かもしれないと言っていたが……。
なんと、許しが出たのだ!
何かあったらすぐにヘリでABに戻るという条件つきで。
まあ、そのぐらいしないと許しも出ないと思う。
しかし、本当の理由は後々知ることになる。
ちょっと暗い話題になるのでそんなことは後だ!
今は修学旅行を満喫しようじゃないかっ!
「って言ってるが、大丈夫か?実行委員さん?」
隣に座っているトシヤが冷やかしの目で見てくる。
現在ビーチにいる。
どこの海かと言うと……こんな綺麗な海が今では沖縄ぐらいでしか見れんと思う。
話がそれてしまった、そう俺は実行委員に任命された。
というのも俺の隣にいるこのトシヤこそが俺を推薦した張本人であり、それに皆(特に男子が)賛同したのだ。
どうも、夕暮のあの発言以来俺はクラスの男子の憎まれ役になってしまったらしい。
「お前が実行委員なんて世も末だよなぁ〜」
お前が言うな、お前が。
推薦人だろ。
それにしても我が班の女性陣は遅いな。
まあ、男子は全部脱いで海パンはくだけだもんな。
「く〜、待ち遠しいぜ!」
「なにがだよ?」
「おいおい!お前は本当に男か?見ろよ、このビーチを!」
と言われても、普通のビーチにしか見えない。
パラソルがなかったら俺たちはとっくの昔に干からびているだろうよ。
「お待たせ!」
大きな、ハイテンションな声が横から聞こえた。
俺とトシヤはその方向を見た。
そこには、その格好以外は見知った女性二人がこっちに近づいてきていた。
夕暮と綾波だった。
綾波はその髪の毛の色とほぼ同色の水色の露出が抑えられた水着であり、それとは対象的に夕暮はエメラルドグリーンの少々露出が多い目のやり場を困らせる水着だ。
まるで、二人の雰囲気、性格などを現したかのようなファッションだな。
って、俺はファッションデザイナーでも、ブティックの店員でもないので詳しいことはわからん。
見て思ったことそのままだ。
「よぉし!泳ぐわよ!」
ずいぶん気合の入った声で夕暮は腕を高く上げて叫んだ。
泳ぎますか!……泳ぐ?
「あ、ははは……はははは……なんとかしてくれユウキ」
そんなこと耳打ちされても。
トシヤは泳げないのである。常夏の日本に住んでる人間としては致命的だな。
「ねえ、三沢君どうしたの?」
今度は綾波が聞いてくる。
教えても平気だろう。
綾波のことだ。張り切ってる夕暮を止めてくれるかもしれないな。
「実は、こいつ泳げないんだ」
指でトシヤを指す。
本人はバツの悪そうな顔で苦笑している。
「なるほどね」
そう一言言うと、綾波は今にも海に突撃しそうな勢いの夕暮の近くに行くと
「ねえ、シズク。私ビーチボール持って来たけど、使わない?」
「う〜ん、そうね……じゃあ、ビーチバレーでもしましょうか!」
そういうと、勢いよく戻ってきた。
チームを決め、急遽ビーチバレーをすることになった。
ネットは海の家から借りてきた。
それを設置し、いざ開始!
チームは俺と綾波、トシヤと夕暮。
「へへん、ユウキ、砂浜のスナイパーと呼ばれた俺の腕前を見せてやるぜ!」
泳げない人間がそんなふうに呼ばれるわけがない。
しかし、運動神経なら俺だって負けん!
トシヤのサーブでビーチバレーは始まった。
その後散々――トシヤが疲れてばてるまで――ビーチバレーで勝負した挙句、結果は15対2という大勝利を俺と綾波は勝ち取った。
夕暮以外の三人は疲れてパラソルの下で休んでいる。
今日の活動が自由行動だけでよかった、これで皆で寺を見学とかだったら疲れて死んじゃうぜ。
「まったくね……それにしてもシズクは元気よね。私も疲れちゃった」
と俺の隣に一つ間を空けて座っている綾波がほかの女子と海で遊んでいる夕暮のほうを見ながら言った。
海で遊んでいる夕暮の様子はまだまだ元気いっぱいといった感じをしていた。
反対に綾波は本当に疲れている様子だ。
あっ、そういえば……。
「綾波って……運動とか苦手なんだっけ?」
少し前に体育をやらずに見学していたような覚えがある。
「確かに……ね。でも、今日はなんだか大丈夫って気がしたから」
案の定大丈夫だったけどねと綾波は微笑んだ。
トシヤはちなみに、夕暮の願い(命令)で四人分の飲み物を買いに行かされている。
ご苦労様である。
「こうやって穏やかな海とか、楽しそうに遊んでるのを見ると使徒が攻めてきてるなんて思えないよね……」
綾波はどこか遠くを見るような目でつぶやいた。
確かに、周りを見ればよく晴れた空の下、子供やら大人やらががやがやと楽しそうに遊ぶ姿がたくさん見える。
まるで自分たちが使徒と戦うパイロットだなんて嘘のようにも思えてくる。
「おーい!買ってきたぜ!!代金はちゃんと払えよ!?」
トシヤが飲み物を両手に持って俺たちのパラソルへと戻ってきた。
「おーい!夕暮!お前の分もあるぞぉ!!」
トシヤがかなり大きな声で叫ぶ。
ほかの観光客の目線も気にしつつ、俺はトシヤが買ってきてくれた飲み物を口に含んだ。
……冷たくてうまい。
ブルーハワイというやつだった。
俺は少しの間、空や海と同系統の色のこの飲み物をじっと見ていた。
それは夜のことだった。
ひとしきり、同室の男子連中と騒いだ後、寝ることになった。
まあ、正確に言えば、寝る体勢になったと言ったほうがいい。
修学旅行は皆なぜだが寝ずにトランプやら話やらで盛り上がる。
うちの学校もそれと同じであり、やはり盛り上がっていた。
そしてトイレに行きたくなり行って来た。
俺は用を足し終わり手を洗って部屋に戻ろうとすると誰かに呼び止められた。
その誰かは声ですぐにわかった。
「どうしたんだ夕暮?」
振り返るといつものポニーテールを解いた見慣れていない夕暮がいた。
仁王立ちをして腕組をしている。
少々表情はさえない。ふくれっつらっていう表現が正しいかな。
「ここじゃ……声が響くわ。そうだ!」
何を思ったのか、夕暮は俺を自分がいた側の……つまり女性用トイレに引っ張った。
な、なにぃ!?
「ど、どういうつもりだ?」
俺は夜だから声が響くとまずいと思い静かにだが、怒った声で言った。
「だって、私男性用に入るのやなんだもん」
そりゃあ、俺だって女性用のトイレ入るのはいやなんだが。
誰かに見つかれば即、変態扱い。
さらに、夕暮と一緒にいたからという理由で二人そろって生活科に呼ばれる。
挙句の果てには、男子連中から毎日、毎日殺気を感じ続けなければならない。
さらには、特別指導などといったら俺はエヴァに乗ることしかなくなってしまう。
それは、さすがに避けねばならない。
なぜなら、そんなことになったら使徒と戦う前にストレスで精神が病んじまうよ。
とりあえず
「一体、俺に何の用なんだよ。いきなり首根っこ掴みやがって」
部屋に帰ろうとしていきなり後ろから、がばっと。
少々痛いから首を摩っていたら、夕暮れは控えめに言った。
「前々から言おうと思ってたんだけど…なんで私のこと名前で呼ばないの?」
「へっ!?」
俺は、前々から言おうと思っていてさらには部屋に戻ろうとする俺をとっ捕まえて言うのだからもっと重要なことかと思えば……。
そんことですか。
「なんでってそりゃあ、親しい間柄でもない男女がお互いの名前を普通呼び合わないだろ?」
親しい間柄でも、君やさんをつけたりするらしいが……。
とりあえず、俺たちは一応会ってまだ二週間と少ししか経ってないんだぞ。
そんな、関係のしかも女の子を呼び捨てにできないだろ。
「それはそうだけど……と、とにかく呼び捨てにしなさい!」
声がでかい。
俺は口に人差し指を立てて当てる。
もう、消灯時間は過ぎてるんだぞ。
「そ、そうだった、ごめん」
素直に謝ってきた。
どうも、こいつらしくないなぁ……。
こちらの調子が狂う。
「わかったよ、次から呼べばいいだろ?」
「う、うん!」
なんか、とてもうれしそうに頷いている。
頬も赤い。
なんだというのだろうか。
そこで俺は大きなあくびをした。
そういえば、トイレに来ただけだったっけ。
俺は、部屋の連中とトランプの途中だったことを思い出した。
「もう戻っていいか?シズク」
「えっ、ええ。私も戻るわ。じゃ」
なんだよ、自分から呼べとか言っといてうろたえるなよ。
俺は、今尚頬を少々赤く染めているシズクに向かってそう言った。
そう言うと、今度は俺のことを弱く睨んだ後「じゃ!」と静かに怒声を聞かせて行ってしまった。
俺、何か悪いことしたのか……?
部屋にこそこそと戻る間それだけが疑問だった。
訂正、トイレに行くだけでどうしてこんなに遅くなるのかという言い訳を考えなければならなかった。
最終日。
最後に博物館を見て、この修学旅行というイベントは終るのだが……。
そこで意外なものを発見してしまうことになるとは。
博物館に到着し、教師から色々な説明を受けた後、班別の自由行動となった。
発掘物や昔の資料などとは縁のなさそうなトシヤを置いて俺と綾波、シズクの三人は見学していた。
だが、俺は引き付けられるようにある場所へと向かっていた。
もちろん、沖縄のここの博物館に来るなんて生まれて初めてで、中の構造や展示物の種類などは案内を見ないと分からない。
では、なぜなのだろうか……、俺にも分からない。
そこの展示室の前に黄色のカラーコーンが二つ置いてあり、黒と黄色のロープもあった。
ご丁寧に『関係者以外立ち入り禁止』という紙まで貼ってあった。
俺はそれをまたいでその部屋に入った。
綾波とシズクが止めているがなぜか足が止まらない。
体は止めようとしているが止まらなかった。
本能的に、その部屋に展示されているものが見たかった。
ガラスケースに入れられた『それ』は巨大な石碑のようなものだった。
人が動物のようなものを殺している絵や、男一人と女二人で荷物を持っているような絵もある。
さらには、女性が横なりその上に鳥のような動物が群がっている、少々グロテスクな絵もあった。
それらとは一線を画する大きな絵には天使のような羽のある人間が丸い物体を両手で包み込むようなのもある。
それを目の前にする。
突如呼吸が速くなり、息が苦しくなった。
石碑に書かれている絵、文字その全ての意味が分かる。
――オマエハナゼ、ソコニイル――
石碑を睨みつけるかのように見ていた俺は急に視界がぐらついた。
世界が歪む。
思わず膝を着いた。
そんなことより、頭に響いた声の方が重要だった。
俺が膝をついたのを見て後ろから綾波とシズクの叫び声が聞こえた。
お前ら少しは静かにしろ、ここは博物館だぜ。
と、さっき聞こえた声を錯覚だと思いたい自分がそんなことを考える。
「大丈夫?」
綾波が横で支えてくれる。
対してシズクが腕を組み難しい表情でその石碑を見ている。
「なにこれ?この石碑がどうかしたの?」
俺は気になり、シズクに質問した。
「シズク……お前にはこの石碑の意味が分かるか?」
シズクは難しい表情を崩し、呆れたような表情になった。
「あんた頭大丈夫?昔の石碑のことなんて分かるわけないでしょ」
それはそうだ。
やはり、俺の頭がおかしいのだろうか。
そう思い、もう一度石碑を見た。
一つの石碑から頭が痛くなるぐらいの情報量が見えてくる。
激しい目まいと嘔吐感、頭痛、体のだるさに襲われた。
気づいたときには意識を失っていた。
目を開けるとそこは医務室のベッドの中だった。
というか、医務室と説明されたからここが医務室だということが分かった。
時計を見たら解散時間はとっくに過ぎていた。
横を見ると、綾波とシズクがいた。
「あ、気がついた」
「ったく、いきなり倒れないでよねぇ〜、私達結局ABのヘリで送ってもらうことになっちゃったんだから」
頭がはっきりしない。
だから、シズクの文句を理解するまで数秒が掛かった。
「あ、ああ。ごめん」
「まったく、しっかりしてよね」
やはり、シズクは呆れた表情でそう言う。
でも、目覚めた時がこんな平和的な会話でよかったと思った。
?
なんで、そんな風に思ったんだろうか。
倒れたのは博物館、しかも修学旅行中。
そりゃあ、使徒が来ていたのなら平和的な会話ではなかったと思うが。
あの石碑を見てから何か頭に引っかかるようなものが出来ている。
思わず片手で頭を抱えた。
「どうしたの?頭でも痛いの?」
綾波が心配そうな顔で俺を覗き込む。
「ああ、いいや。なんでもない、大丈夫」
作り笑いを浮かべる。
考えるのは帰ってからにしよう。
これ以上この二人に迷惑をかけるのはやめよう。
そう思い、俺はベッドから出た。
軽い立ちくらみに襲われたがそこは意地で我慢する。
その後、俺たち三人は迎えに来てくれたABのヘリで第4新東京市へと帰ることになった。
後から聞いた話しになる。
これを教えてくれたのはレンさんである。
エヴァとのシンクロテストのときに、調子が悪いと言われたのでその博物館でのことを話した。
「博物館って沖縄にあるもの?」
「はい、あの……そこで変な石碑を見て、それから急に気分が悪くなって……」
レンさんは机に置いてある缶コーヒーを手に取り少し口に含んでから
「あの石碑は小笠原諸島で発見されたものよ」
「でも、なんでそんなことレンさんが知っているんですか?」
俺がそう質問するとレンさんは複数のディスプレイにある絵を表示させた。
それは、あの石碑に書いてるあるものと同じものだった。
画面に解析中データと表示されていた。
「これは極秘データだから口外しないように」
と口を刺された。
そして、絵が表示されているウィンドウが小さくなり、別のウィンドウにある画像が出てきた。
「!!」
見たとき、それが見たことあるような感覚に見舞われた。
「これは、第三新東京市跡のコンピュータ内で発見されたデータの一つなの。たぶん、これは私の推測なのだけれど使徒戦役時代のデータだと思われるわ」
「使徒戦役……」
2015年、使徒が現れその後一年間ネルフと使徒の戦いのことだと公には伝えられている。
だが、今そのネルフという名前はすでに過去の名前。
現在は存在しない。
なぜ、人類の敵である使徒を撃退していたいわばヒーローのような立場の人たちの名前は語り継がれていないのだろうか。
それを俺は質問してみた。
「……すまないけど、それは機密事項に引っかかるから教えることはできないけど、これだけは言えるわ」
レンさんは一つ呼吸をしその続きを答えた。
「ネルフという組織は……綺麗な正義の組織ではなかったということよ」
……。
確かに、正義の味方だった組織なら今後も続いているということになる。
しかし、その組織が続かず、潰されたあるいはどこかの組織に吸収された。
一体何があったのだろうか……。
「あの石碑の話に戻るわ。これを見て」
複数のディスプレイをより分かりやすいように俺の方に向けてくれた。
小さいウィンドウには人が動物のようなものを殺しているような絵があり、大きいウィンドウの方には紫色の……これ
「エヴァ……ですか?」
「ええ。エヴァンゲリオン初号機。使徒戦役時、最多数の使徒撃滅数を誇るエース機。そして、敵は使徒よ」
「これがエヴァ初号機……」
「次にこれ、人間のようなものが三人で荷物を持っている絵、これに相当するデータがあるわ、これよ」
見ると、それは上から何か巨大な物体が落ちてきていてエヴァ初号機を含む、三機のエヴァがそれを下に落とすまいと支えている。
「これも使徒ですか?」
「その通りよ。どんな使徒かは分からないけど、地上に落ちてくるのを防ごうとしているのね、最後に」
最後、石碑の絵の中でも少し見る者を不快にさせるようなグロテスクな女性の体の上に鳥がたくさん群がっている絵だった。
そのモチーフになったような映像が表示された。
破損しているのか、少々画像が乱れている。
だけど、複数の白い奇妙なエヴァと似ているものが赤いエヴァに攻撃を仕掛けているような画像だということは分かった。
「これについてはよく分かっていないわ。ただ、それっぽい画像データがあるだけなの」
「そうですか…………教えてくれてありがとうございます」
俺は頭を下げた後、レンさんの部屋を後にした。
小笠原諸島で発見された謎の石碑……
使徒戦役の戦いのときの記録……
エヴァと使徒……
そして、俺。
一体何が起ころうとしているのだろうか……。
待っていてくれた綾波、シズク、ユメミちゃんとともに地上へと戻るが俺の頭はまったくスッキリすることはなかった。
To be continued
次回予告
敵の攻撃。
それは自分達が作り上げたもの。
コピーするかのような攻撃を行う使徒。
次へ
一つ前へ戻る
予定していた拾六話とは違うものになってしまいすいません。
次の使徒が来てからこの修学旅行の話を入れようかと思いましたが逆にしました。
まあ、逆にした深い意味はあまりないですwwww
これに伴い掲載されていた拾伍話の次回予告を修正しました。