新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側

第拾伍話―戦う理由を持たぬ者、それは死者―




こんな、夜遅く――十二時半ほど――俺の部屋を訪ねてきたのは夕暮だった。
その顔は、こいつの性格からは考えられないほどひどく暗いものだった。
いや、これは弱っている、参っている、といった類のものかもしれない。
「どうした?……こんな夜中に」
できるだけ、静かに聞いた。
ABの廊下は未だに光がともされている。
まあ、消灯時間などありはしないと思うが。
「……ちょっと、入ってもいい?」
夕暮は俺の顔も目も、表情も変えずにそう呟いた。
その様子に非常に驚きながらも俺はその申し出を了承した。
やはり、普段とは何かが違うようで入ってきても無言で俺が寝ようと思っていたベッドに腰掛けた。
俺、寝れねぇじゃん。
「何か……飲む?」
話題を振ってみる。
「ん」
日本言語の五十音順で――悲しいかな――仲間はずれの文字で会話を成立させたのはすごいな。
俺は、備え付けてある小型の冷蔵庫――旅館とかにあるやつ――からジュースを一本取り、コップを二つ持っていった。
ベッド付近のテーブルにコップを置き、注ぐ。
近くの椅子に俺は座った。
気まずい雰囲気である。
「おい……」
「何よ」
「俺、まだお前がこの部屋に来た理由を聞いてないんだが」
最もなことを言ったつもりだ。
理由もなしにこいつが俺の部屋に来るなんて思えない。
もし、理由がないんだったら俺をおちょくりにきただけということになる。
だが、その空気がこの部屋にはなかった。
「……ユメミが寝ちゃったから、うるさくしちゃ悪いと思ってさ……」
そう言う、夕暮も何故かブルーな感じである。
俺が持ってきたジュースを飲む。
一気に空にして、注げといわんばかりにコップを俺の近くに置いた。
いつもなら“自分で注げ”とか言うと思うがこのときの雰囲気から無言で俺はそれに注ぎ足した。
「本当に使徒に勝てるのかなぁ……って思ったの」
「怖気づいたのか?」
俺は明るい声で言った。
いつもなら“違う。バカ”とか言って俺を罵倒するに決まっていた。
だけど、このとき違った。
夕暮はそのか細い手で自分の額を押さえ、少し俯きながら
「……実は……そうなのかな……あはは」
全然、笑い事ではなかった。
今の夕暮は見ていてつらかった。
いつもはハキハキしていて、喜怒哀楽が激しく常にしゃべっていたようなイメージが俺にはあった。
「どうしたんだよ……いつもの夕暮らしくないぜ」
「なんかさ……こ、怖くて」
俺と顔を合わせたくないのか目を逸らながらそう呟いた。
誰かが喉をならしているのか?
と思うぐらい俺の心臓の音はうるさく、心拍数は跳ね上がっていた。
不謹慎だぞ、俺の心臓よ。
だが、俺の心臓の音を見習ってもいいぐらい今の夕暮はか弱く、保護欲が湧いてくるほどだった。
額を押さえていた夕暮の手は自分の肩を掴み抱きしめていた。
瞳からは涙が溢れそうだった。
いつも、ポニーテールにしている赤みがかった茶髪はとかれており、雰囲気と相まって少し不気味なイメージをもかもし出している。
ちょっと、でも触れたら砂の城のごとく崩れ去りそうな気さえした。
「あんたは怖くない?戦ってて?」
今度は俺の瞳を見ながらそう言った。
その瞳からは、普段想像もできないものが、涙が一筋流れていた。
「そりゃあ……怖いけど、皆のために戦うっていう想いのほうが強いかな」
俺もこれには自信がなかった。
「強いね、ユウキは」
その強いねという言葉とともに俺の思い出したくない記憶が少しだけ掘り起こされた。
訓練をクリアし、強いものだけが勝者になれると証した残酷なゲーム。
「あんたも……ROEを受けたの?」
ROE。
その残酷なゲームの名前。
なんの、略かは知らないが。
「ああ、受けたよ。あんたもってことはお前もか……」
夕暮は静かに頷いた。
俺は、立ち上がりゆっくり夕暮の肩をベッドに倒した。
抵抗することなく倒れこんだ。
「ち、ちょっと……どうしたの?」
まるで、俺を挑発するような目と表情で俺を見つめる。
こんな空気ではそんな気さえも俺には失せていた。
何より、女の子が泣いているのをこれ以上見たくなかった。
「もう寝ろよ」
俺は冷静に言う。
視界の下のほうで俺を見つめているエメラルドグリーンの瞳を持つ少女はこういった。
そんな、夕暮が俺には何故か、幼く見えた。
「……優しいなぁ、ユウキは」
小さく微笑む。
その表情を見て、俺は安心した。
用意されていた掛け布団をゆっくりかけてやる。
俺は何も言わずにその部屋を後にした。
時計を見るとすでに一時半。
どうしよう。
迷った挙句、俺はAB内の休憩コーナーのベンチで就寝することにした。


ベンチというのは滅茶苦茶硬いもんである。
そりゃあ、人が座るのだからそうなのだが。
「キ君!ユウキ君!?」
誰かが俺を呼ぶ。
その重いまぶたを持ち上げ、目を開いてみた。
横から綾波が俺を覗き込んでいた。
「こんなところで何してんの?」
綾波が聞く。
俺はそこら中痛い体をなんとか起こした。
そして、時計を見る、八時か……。
ここで大きな欠伸を一つ。
「見て分からないか?寝てたんだ」
綾波はあきれたようにため息をついた。
そ、そりゃあありのままを話しただけだけどさ……。
「質問を変えるわ。なんでこんなところで寝てるの?」
休憩コーナーには自販機がいくつか置かれている。
俺はその自販機から缶コーヒーを一本買い、ベンチに座って飲んだ。
その隣に綾波が座る。
寝起きのコーヒーは頭に効く。
俺は、コーヒーを半分くらい――感覚だけだが――飲んでから綾波の質問に答えた。
「実はさ、昨日寝る前に夕暮が俺の部屋に来たんだ」
「シズクが?」
まあ、正確には十二時を回っていたので今日なのだが、それはよしとしよう。
綾波と夕暮は呼び捨てで呼び合っている。
まあ、それだけ仲がいいということだと思って俺は安心していた。
「なんか、その……落ち込んでるっぽかったから部屋譲ってさ。それでこんなところに寝てたってわけ」
「ふ〜ん、だから部屋に行ったらシズクがいたのか」
ってすでに部屋に行ってたのかよ……。
俺は少しジト目で綾波を見た後、飲み終わったコーヒーの空き缶を自販機の横にあるゴミ箱に捨てた。
そのとき、アナウスが響いた。
『パイロット四名は作戦室まで……繰り返すエヴァパイロット四名は作戦室まで』
ミヨコさんの声だった。
なんなのだろうか……もしかするともう作戦ができたのだろうか。
だとしたらすごいな。
少し感心した。
俺は綾波とともに作戦室へと急いだ。


作戦室
作戦室にはもう夕暮姉妹がいた。
夕暮は入ってきた俺を見るなり頬を赤くしそっぽを向いてしまった。
対するユメミちゃんは俺に会釈した。
俺も微笑む。
中央には大きな机が置いてあるのだが、そこには前見たときとは明らかに違う、場違いなものが置かれていた。
あれは、紐と独楽(こま)だろうか?
そして、その横には少し大きめのガラス板。
ビンのようなものには『強力!ローション!』と書かれていた。
さらにはバケツ状の入れ物のようなものが置いてありそこには『ぶよんぶよん・スライム君』と書かれている。
なにやってんだ、この人。
まったく分からない。
ただ一つ分かったことはそれと一緒にヤジロベエの模型があるから今回の使徒を倒す作戦を考えていたのだろう。
「今日、貴方達にあつまってもらったのは他でもないわ」
しかし、ミヨコさんの表情は真面目であった。
それを見る全ての人間の気持ちを引き締めるのようだった。
皆もそれを感じ取ったのか、俺の両隣からも真面目な空気が漂ってくる。
スクリーンにこの前の使徒との戦いが映し出されていた。
やはり、どこからどう見てもヤジロベエである。
「このヤジロベエをどう倒すか……昨日、寝ずに考えたわ!」
ミヨコさんが微笑して机を指差す。
ってかヤジロベエってそりゃあ見たまんまだけど。
スクリーンに映し出されている映像が変わり、足のような針のようなものを軸にして回転している場面に変わった。
「このグルグル回転している厄介な攻撃方法を私は独楽に例えたわ。言うなれば永遠に回転し続ける独楽ね」
確かに。
だから、独楽か……。
あながち間違ってはいないな。
ただ、一つ訂正するとすれば使徒の意思であれを止めることができ宙に浮いて体制を整えることができるということだけだ。
「そして、ガラス版にローションを塗り、その上で独楽を回してみたわ」
と言い、ミヨコさんはそれを実践する。
独楽は通常の床でやるより勢い回る、回る、回る。
いや、こりゃあ回りすぎだ。
と思うとやはりすぐに独楽はその体を板に倒してしまった。
「まあ、このように独楽はすぐに倒れちゃうわ」
倒れちゃうわってそんなこと分かりきってる。
ミヨコさんはガラスの板を横にどかして今度は普通に独楽を回す。
その回した独楽を紐で軸を救うように接する。
当たり前のことだが軸のバランスを失い、独楽は転倒する。
この回りくどい説明についにしびれを切らした夕暮が怒鳴った。
「もう!ミヨコさん!一体どんな作戦なの!?」
ミヨコさんは自分の作戦の説明の重要な部分を言われむすっとした顔をしたが、続けた。
「分かったわ。今回の作戦の説明をします。まず一機が射撃攻撃で敵を撹乱、もう一機が近づき、接近戦を行う。回転しだしたら攻撃をやめすぐに離れる。
すかさずもう一機が相手の軸をワイヤーで薙ぎ払います」
確かに口で言われイメージするのは簡単だが……。
そんなにうまくいくかね……。
相手はそれ対策とは言わんばかりに宙に受ける。まあ、浮くまでの時間は早くなかったが。
「地上との関係でローションみたいにすべりやすくできないけど、そこはこのスライムに役だってもらうわ」
ドンとみんなの前にバケツ状の入れ物に入ったスライムを置いた。
俺はそれを手に取り開けて手のひらに落とした。
うん、どろどろしてますね。
スライムという名は伊達ではなかった。
「で、このスライムで何を思いついたんですか?」
綾波が質問する。
確かに、ぶよぶよして手触りはよいが。
「トリモチ弾よ」
「「「「トリモチ弾?」」」」
四人の声が見事に揃った、すごいな。
トリモチってよくアニメやマンガなんかで人を捕まえるために使うあの棒みたいなやつじゃないのか?
「正解よ、ユウキ君。粘着性のある弾を使い、敵の軸の動きを鈍らせます」
って、俺声に出てたのか。
確かにそれなら少しの間だけでも動きを止めて接近することができそうだな。
うん、なんか成功しそうな気がしてきたぞ!
「ミヨコさん、作戦はいつなんですか?」
ユメミちゃんが俺の手元で形を変えるスライムを眺めていたかと思うとミヨコさんに質問していた。
その質問内容に俺も、皆もミヨコさんに注目するが答えは別の人間から帰ってきた。
「StypeとGtypeの修復があるから最速でも三日後くらいかしらね……」
それは、後から入ってきたレンさんだった。
疲れでも溜まってるのだろうか。レンさんの顔はあまりすぐれたものではなかった。
顔色は普通なのだが、なんというか雰囲気が不機嫌というか……。
「作戦開始までは待機とします。あっ、でも本部内から出ちゃだめよ?」
各人返事をし、作戦室を後にした。
だが、そのときだった。
綾波、ユメミちゃんと部屋を出て行き、俺も揃って出て行こうと思ったら。
「っ!?」
いきなり首根っこをつかまれた。
後ろを見ると多少不機嫌そうに俺を見ている夕暮がいた。
「な、なんだよ!……」
首根っこを掴まれたままだったので少々乱暴に言葉を発してそれを解いた。
夕暮は俺の耳元で『昨日の夜のことは内緒ね』とささやいた。
昨日は何もなかった。
今日ならあったが。
夕暮にそのことを言ったら、どうやら怒らせてしまったらしく思いっきり足を踏まれてしまった。
い、イタイ……。
俺がその激痛に耐えている頃、夕暮は一人とっとと出て行ってしまった。
どうやら、声が聞こえるってことは合流してしまったらしいな。
俺はその痛みをなんとか乗り越えて、作戦室を後にした。


時間はあっという間に過ぎていく。
といっても、学校にも行けないからエヴァとのシンクロテストや射撃、格闘訓練するだけである。
まあ、夕暮や綾波はレンさんやミヨコさんに次の作戦への準備の手伝いや、始末書の手伝いなんかを頼まれているようであるが……。
保健・体育以外、平均成績2の凡人である俺には関係のないことである。
そして、今日ミヨコさんにパイロット達は呼び出され、明日準備が終りしだい作戦決行ということになった。
ただ、急いでも明日になってしまうため今日だけはゆったりと休むことができた。
張り切りすぎて怪我でもしてエヴァに乗れなくなったら大変であるな。
しかし興奮してかどうにも寝付けずにいるとドアがノックされた。
……う〜ん、なんかデジャヴって言うんだっけ?前にも見たことがあるようなときって。
俺はドアに近づき、ドアを開けた。
そこには、俺より身長の低い赤みがかった茶髪のツインテールが目に入った。
よく見知っている人物であり、先日俺の部屋に訪問した挙句部屋を横取りした――俺が勝手に放棄したんだが――人間の妹だった。
「ユメミちゃん……どうしたの?」
「えっ、あ、あのぅ……うぅ、そのぉ……ね、姉さんが先に寝ちゃって、お、起こすのも悪いかなと思いまして……」
かなり、おどおどしていた。
夕暮が先に寝たのか……。
ん?待てよ……。
じゃあ、さっき俺に来たメールの内容を明かそうではないか。
『レイの部屋に泊まるからユメミに伝えておいて!』
というのがさっき届いたメールの内容である。
そのときは一緒に連れて行けばいいのにと思ったのを覚えている。
っていうか伝えておいてという伝言を俺は完全に無視してしまった。
とまあ、このメールの内容のおかげでユメミちゃんが言った「姉さんが先に寝ちゃった」というのは嘘ということになる。
あえて、俺はそれを言わなかった。
夕暮のときよりかは軽そうだがなんか重苦しい話題になりそうな予感がする。
「えっと……まあ入りなよ」
とりあえず話しを聞かないと分からない。
ユメミちゃんは控えめに入ってきた。
やはりそこは姉妹なのか、俺が寝ようとしたベッドに腰掛けた。
なんか……デジャヴ。
「なんか、飲む?」
「あ、はいっ!お願いしますっ!」
緊張してるのか、言葉がどもっていた。
俺はこの前と同じ冷蔵庫から同じ飲み物を取り出し、同じようにコップに注ぎユメミちゃんが座っているベッドの近くのテーブルに置いた。
「すいません、気、使ってもらっちゃったみたいで……」
「いや、そんなことないよ」
夕暮と違うところは暗くなっているというよりはむしろ興奮してる感じだ。
たぶん、明日が使徒と戦う日だからだろう。
「今日は……そのぉ、ゆ、ユウキさんにお話があって!」
いきなり、少し大きな声で言うので驚いた。
それも少しのことだったのでユメミちゃんは気にせず続けた。
「驚かないでくださいね?」
急に心配そうな顔になったので俺も深刻な面持ちで聞くことにする。
「実は……私、二重人格みたいなんですよ……」
こ、言葉が出ねぇ……。
いきなり、そんなこと告白されても、ど、どうしよう……。
軽いパニックに陥ったがユメミちゃんの話の続きを聞く。
「そのぉ、なければいいんですが……急にユウキさんにきついこと言ったこととかないですかぁ?私が」
きついことね……。
う〜ん……あっ、そういえば。
俺はヤジロベエとの戦いの前にユメミちゃんに『理由もなく戦っていると死ぬ』といわれたのを思い出した。
あれがそうなのだろうか……。
「えっと……一回くらいあったような……明らかにユメミちゃんらしくない言動というか、なんというか」
俺も答えにくかったので、曖昧にごまかした。
すると、ユメミちゃんは自分の予想が当たったことにより目を見開いた。
次に申し訳なさそうな顔をした。
「ほんと、すみませんっ」
と言って頭を下げた。
それを見ると今度はこちらが申し訳なく思って来た。
「いや、いいよ。頭下げなくても本意ではないんだろ……?」
「も、もちろんですっ!」
随分気合の入った声で言われこっちが圧倒された。
「でも……もう一つの人格のユメミちゃんが言ったとしても……あの言葉は考えさせられるものだったよ」
「ど、どんなこと……言ったんですか?」
ユメミちゃんは控えめに聞いてきた。
たぶん、もう一人の人格が言ったことが俺にどんな影響を与えたのか心配なのだろう。
それとも別の意図があるのだろうか。
「『理由もなく戦っていると死ぬ』って言ってたよ」
俺がその言葉を言った瞬間、ユメミちゃんは表情を暗くし、黙ってしまった。
やはり、他人にきつい言葉を言ったということに負い目を感じているのだろうか。
「戦う理由……ユウキさんはありますか?」
純粋な瞳で俺を見つめてきた。
そのエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうな気分に陥った。
戦う理由……俺にはあるかもしれないし、ないのかもしれない。
第一、この俺がその理由を未だに見出せない。
「ただ……ただ、俺は、あ……俺が戦うことによって何か、皆の役に立てればと思って……」
「そうですか……私の、戦う理由は……」
言おうとしてやめたのが分かった。
どこを見るでもなく虚空を見ていたユメミちゃんは俺の方を向いた。
その顔はさっきまでの暗い表情ではなくいつものユメミちゃんだった。
微笑みながら
「こんな暗い話題嫌ですね!明日は決戦です!もう寝ましょう!」
と意気込むと立ち上がった。
「それでは、お邪魔しましたぁ!おやすみなさい、ユウキさん」
「あ、ああ。おやすみ……」
ユメミちゃんは微笑みながら俺の部屋から出て行った。
なんというか、空元気だったような気がする。
夕暮姉妹のその性格はまるで正反対だと思っていた。
だけど、今回この二人と話してそれが少し変わった。
どこか似ていると思った。
まあ、姉妹だから当たり前か……。
俺はそのことを消灯した部屋のベッドの中で眠りに落ちるまで考えていた。


ヤジロベエ型の使徒サリエルはその体を回復させゆっくりと侵攻していた。
おそらく、場所を固定した戦いは得意でも移動しながらの戦いは苦手のようだ。
前回戦闘を行った川崎よりも第4新東京市がある静岡県裾野市側に接近していた。
地図で言うと江ノ島あたりである。
それを、AB本部はモニターしていた。
『いいわね?作戦通りユウキ君が動きを止めるトリモチ役、レイが相手を転ばせるワイヤー役、そしてシズク、ユメミはとどめね』
「「「「了解!」」」」
四人意気の合った返事をする。
それぞれのエヴァがリニアレールにより使徒がいる江ノ島付近へ射出された。
サリエルを囲むかのようにうまくエヴァ三機が現れる。
「作戦通りにいくぜ!」
ユウキが叫び、粘着状の特殊硬化ベークライト射出機を持ったSStypeがサリエルと対峙する。
サリエルは両手からビーム砲を撃ってくる。
連射速度は大したことはなく、SStypeは左右に避けながらサリエルに接近する。
SStypeが近づくとサリエルが遂に回転を始める。
しかし、予測されていたことでありSStypeはそれ以上近づかず一定の距離を保つ。
「そこだっ!」
SStypeはサリエルを支える針目掛けて特殊硬化ベークライトを放った。
その粘着液は見事針に命中し、瞬時に硬化する。
思うように回転できなくなりサリエルの動きが鈍る。
「今だ!綾波!」
SStypeが二、三歩退き交代するかのように後ろからウィップ・アンカー――手元のスイッチを押すとアンカーのついたワイヤーが放たれる。電撃を送り込むことも可能。――を持ったGtypeがサリエルに接近する。
サリエルがちゃんと回転できていれば腕が交互に当たり、攻撃受けるところまで近づくがサリエルは回転できず思うように反撃できない。
「させないわ!ユウキ!」
「分かってる!」
ビーム攻撃を受けないように他の二機がサブマシンガンを使い、それぞれ片方の手を撃つ。
「このっ!」
Gtypeがウィップ・アンカーを横から振るい、スイッチを押しアンカーを放った。
遠心力とともに針に巻きつき、先端のアンカーは硬化したベークライトに引っかかった。
そして、思いっきりそれを引っ張る。
するといとも簡単にサリエルはその体を地面に付けた。
それを見たシズクはレバーを握り締め、ユメミもモニターを見据える。
サリエルのピエロのような顔の下に赤い球体はあった。
そこを狙いStypeは前回の使徒戦でSStypeが使用した武器と同じ槍型の武器『グングニル』を振り下ろそうとした。
「っ!?」
突如サリエルは狂ったかのようにサブマシンガンにより攻撃されている両手を無理やりStypeの方へ向けた。
すぐに狙いを変え、腕を切り落とす。
だが、もう片方の腕はまだ生きている。
Stypeは切り落とそうとするが一本切る間に発射準備が済んでしまったようである。
「うっ!」
シズクとユメミには撃たれるのが見えた。
しかし、そのとき二人は見えたのがおかしいと思った。
確実に敵のビームはStypeの頭部に命中したはずであり、それならばカメラがどこかおかしくなり、振動もあるはずだが、それがない。
「っ!やらせるかぁ!」
SStypeがサブマシンガンをGtypeに渡し、素早く身代わりになったのである。
「姉さん!早く!」
「ええ!これで終りよぉぉぉぉぉ!」
赤い球体に思いっきりグングニルの矛先を刺す。
その勢いで数秒もせずにコアはバラバラに砕け散った。


ふぅ、なんてこった。
Stypeに当たらないように手を破壊しようとしたら一歩遅かった。
おかげでStypeを守ることができたものの、うぅ、目が痛い。
幻痛とは分かっていても、やはり痛い。
「はぁはぁ……ふぅ」
だけど、こんなに静かだということはもう使徒は殲滅されたということだよな。
俺がそんなことを考えていると通信が入った。
『ユウキ、無事?』
声の高さからして夕暮だろう。
まぶたを閉じているから証拠はないが。
「ああ、まあな……使徒は?」
『もう、殲滅したわ……あんたのおかげでね』
「そっか……」
俺はそう呟き、意識を暗闇へと移動させた。



To be continued


次回予告

パイロット達に与えられる休暇。
修学旅行というイベントにより子供達の心は動くのか……。
そして、過去の遺物が現れたとき、
ユウキの心は……はたして






後書き
いつもより、長くてすいません。
なんか、随筆パワーがびびっときました。
DSを購入したんですがなかなか面白いですよ。