碇親子の会話記録。
尚、これは決して盗聴したものではない。
病室には監視カメラと音声記録装置が標準装備されている。
それによる記録である。
「具合はどうだ?」
ゲンドウはその低い声でボソっと言った。
シンジは上半身だけ起こし、それに答えた。
「うん、大丈夫だよ……痛みとかもないし」
シンジは微笑みながらそう言う。
ゲンドウはそうかとつぶやくとサングラスを直すそぶりをする。
「そうか……これからはどうする?」
「どうするって?」
シンジはゲンドウの言っている言葉の意味が一度だけでは分からなかった。
まあ、"言葉不足"だったという可能性もあるが……。
「……帰るか……?」
シンジにはゲンドウがその言葉を恐る々言っているように聞こえていた。
「どこに?」
「元居た場所にだ…」
シンジは思った。
もちろん、帰りたい。
エヴァに乗り使徒という得たいの知れない怪物と戦う。
それは、もちろん危険であり、死と隣りあわせだ。
だが、シンジの口から出た言葉は違った。
「僕は……僕は、帰らない」
ゲンドウは本人と本人に詳しい者にしか分からないぐらいミリ単位で表情を驚きへと変えた。
「もちろん、帰りたい気持ちもある。あっちには暖かい皆が居るから……でも……」
「でも……なんだ?」
「…………分からないや。でも、とりあえず帰らずにここでエヴァに乗り続けたいと思っている」
「そうか……すまない、シンジ」
ゲンドウの謝罪の言葉にシンジは多少驚いたが次に響いたノックの音に耳を引っ張られた。