第二話 初号機出撃



ネルフ本部

初号機の発進準備が進められる中、シンジは白い筒状のエントリープラグと呼ばれるものの中に入っていた。
これはエヴァのコクピットのようなものである。
エントリープラグがエヴァ初号機の首部分に挿入される。
『エントリープラグ挿入完了。LCL注水開始』
エントリープラグ内にオレンジ色の液体が入ってくる。
シンジはそれに驚く。
そして、叫ぶ。
「な、なんですか、これ!?」
それがついにシンジの体全体にまで浸水する。
シンジは思わず口を閉じる。
『大丈夫。肺がLCLで満たされ、直接酸素を血液に取り込んでくれます。すぐに慣れるわ』
「うぅ……血の味がする……」
そう愚痴を言うシンジにミサトが我慢しろと叱咤する。
そして、発進準備が終わり、初号機は射出台に固定された。
『初号機、発進準備完了』
「了解……司令構いませんね?」
だが、ゲンドウはここでミサトもリツコも、もちろん、冬月も予想外なことを言い放った。
「そういうことはシンジに聞くものだ。葛城一尉」
それを聞いたゲンドウ以外の発令所の皆が驚く。
あの、ゲンドウが人のことを気にしているのだ。
だが、実の息子であれば、それは当たり前か……。
『シンジ君?後戻りはもうできないわよ?』
皆の目が、耳がモニター越しのシンジに集中する。
「……皆のためにも僕は戦うことを選らぶ!」
それは答えにしては十分すぎる意味と重みを持っていた。
ミサトは頷く。
「発進!!」
ミサトの声が発令所に響く。
刹那。
初号機を乗せた射出台は勢い良く上にせり上がった。
「っ!!」
シンジにものすごいGがかかる。



第三新東京市

第三新東京市に巨大な緑色の怪物が俳諧する。
人類の敵と呼ばれる第三の使徒『サキエル』
それが、ネルフ本部を目指し侵攻していた。
だが、そこに立ちふさがる者が現れた。
紫色の巨人『エヴァ初号機』である。
サキエルも動きを止める。
『いいわね?シンジ君?』
「はい…」
『最終安全装置、解除!エヴァ初号機リフトオフ!』
肩にロックされていた安全装置が解除され初号機が自由の身になる。
『シンジ君、さっきも教えてた通り、エヴァは考えたとおりに動くことを忘れないで』
リツコが言う。
「分かりました……ミサトさん、どうすれば?」
『とりあえず前方のビルに隠れて様子を見て』
「わかりました」
シンジは小走りで前方のビルに隠れるイメージをした。
エヴァ初号機はそれどうりに動く。
発令所では動いたという感激の声が上がっている。
サキエルは突然初号機が前方から消えたので再び侵攻してくる。
「予想通り、侵攻を再開したか……シンジ君、接近して攻撃を仕掛けて!危ないと思ったらすぐに近くのビルにでも隠れて!」
『分かりました』
初号機は横からサキエルに慎重に接近する。
サキエルはまだ気づいていない。
「ミサトさん、武器とかないんですか?」
『右肩のウェポンラックにナイフが入ってるわ』
「分かりました」
初号機は肩からプログナイフを取り出した。
それを片手に握る。
「このぉ!」
初号機は後ろからサキエルに切りかかった。
サキエルは振り向くが遅く、倒れこんだ。
『いいわ!シンジ君、その調子!』
初号機はマウントポジションと取ったが、サキエルは顔のようなところから怪光線を放った。
「うわっ!」
シンジはそれに驚き、初号機は跳ね除けた。
サキエルはチャンスとばかりに初号機を掴む。
その腕がぐっとふくらみ力を増す
「い、いたい!?……うぐぁ!!」
『初号機、右腕損傷!回路断線!』
シンジは自分の右腕を抑える。
『シンジ君!しっかりして!あなたの腕じゃないのよ!』
ミサトはそう言うが今のシンジにはまったく聞こえていなかった。
だが、シンジはその痛みを我慢し反撃にうつった。
初号機は左腕で右腕を掴んでいるサキエルの腕を掴むと投げ飛ばした。
「どうだ!?」
しかし、サキエルは起き上がると顔から再び怪光線を放った。
初号機は横に避ける。
サキエルはそこにもう一撃加える。
『シンジ君!避けて!』
初号機は確実に避けられる間合いに居て、なおかつ避けるスペースがあるのに両腕でガードした。
ミサトはシンジが避けずさらには自分の命令を無視したため激怒した。
『何故、避けなかったの!?避けられたはずでしょ!』
だが、シンジはそれに答えられる余裕はなかった。
初号機はそのビルに隠れて様子を伺っている。
対して、サキエルは腕のパイルを使いながら迫っている。
ビルが崩れ始めてきた。
『何故、戦わないの!シンジ君!』
「み、ミサトさん……僕の足元に人が……!」
『主モニターに初号機の足元を出します!』
大きなメインモニターに初号機の足元が拡大されて映される。
そこには、小学生くらいだろうか、少女がいる。
発令所にいる皆は驚いた。
街には避難勧告が出ている。
しかし、初号機の足元には民間人がいる。
『構わないわ!今は避難勧告が出ているはずよ!戦闘に集中して!』
オペレーター三人は驚き、ミサトを振り向くがミサトの目がマジだった。
「そんな!?……できないよ!人を見殺しにするなんて!できません!」
初号機は尚も少女を庇っている。
そんなときにゲンドウが言った。
「葛城一尉。保安部を出せ、民間人を救出しろ」
「し、司令!?……し、しかし避難勧告はすでに発令されています!」
「このままではシンジが戦えん。聞こえなかったのか?保安部を出せ!」
「りょ、了解。日向君、保安部を出して!」
「了解」
「シンジ、聞こえたか?もう少しだ、耐えろ」
『わかった!』
初号機は使える左手を少女の盾代わりにする。
サキエルは尚も接近している。
初号機の足元に黒服の保安部が近づき少女を保護した。
『シンジ君、たった今保護したわ!使徒に接近戦を!』
「分かりました」
だが、シンジは考える。
はたして、右腕が使えない状態で無傷の使徒に勝てるだろうか……。
「エヴァでも技が使えるのか……やってみるしかない」
シンジはナイフを左手に持つと使徒の正面に立った。
左手に気を集中させる。
『初号機、左手にATフィールドに似た反応を確認!』
『なんですって?……原因は?』
『分かりません』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
初号機の左手が光る。
持っているプログナイフも光る。
サキエルはパイルで初号機を攻撃する。
初号機は横に避ける。
そして、プログナイフの刃先をサキエルに向ける。
「いけぇ!竜神破!」
プログナイフから光の光弾が発射される。
サキエルのコアに命中する軌道だったが当たる前にオレンジ色の壁のようなもので防がれてしまった。
「!?……ミサトさん、あれってなんですか!?」
『ATフィールドと呼ばれる使徒の防御手段よ!エヴァも使えるはずなんだけど……それより、さっきのは!?』
「説明は後でします!」
初号機は再び別のビルに隠れる。
「はぁはぁはぁ……通常の倍の気が消費してる……きついな」
シンジは息を整える。
シンジが使う流派逆鱗の技の大半は自らの内に秘められし力『気』を使う。
神経接続されているエヴァという大きな媒体の内に秘められている気がエヴァが生き物ではないので使うことができない。
ということは接続している人間の内の気を使うしかないというわけであり、エヴァはパイロットよりもはるかに大きい。
故に、気も自分の時以上使用するため消耗が激しい。
「ATフィールド……張り方は分からないんですか!?」
『残念ながらまだ分かってないの』
「ってことは、勝てないんじゃないんですか!?」
『エヴァもATフィールドが張れれば使徒のものとお互いに干渉し合い、中和できてお互いのフィールドが消えるの。だから』
「つまり、僕が張ることができない限り、敵は倒せないってことですか!?」
『そういうことになるわね……』
「…………無茶苦茶じゃんか」
シンジの言うとおりである。
しかし、そんなことはお構いなしにサキエルは接近している。
「いちかばちかやってみるしか……!」
初号機はサキエルの正面に再び立った。
そして突っ込む。
「このぉ!」
サキエルにタックルするがATフィールドによって防御されてしまう。
そして、サキエルは初号機にパイルで攻撃を行う。
だが、それはあるものによって阻まれた。
突如として初号機の前にオレンジ色の壁が現れる。
それは間違いなく、ATフィールドだった。
『ATフィールド……発生源は!?』
『初号機です!初号機がATフィールドを出しています!』
マヤがリツコに告げる。
『ATフィールドを中和しています!両ATフィールド反応消滅しました!』
『シンジ君、今よ、赤い球を狙って!』
「はい!このぉぉぉ!」
初号機はプログナイフをサキエルのコアに突き刺した。
すると、サキエルは動かなくなった。
『目標、完全に沈黙!』
青葉の声とともに発令所は歓喜に包まれた。

次回予告
初の戦闘で使徒を撃退したシンジ。
エヴァにのる理由、自分がここにいる理由が定められないシンジ。
そして、第四の使徒が襲来する。
次回 第三話 守られた街、守った少年


後書き
えっと、第二話を書き終わりました。
説明にも出てきましたがシンジ君が体得している流派『逆鱗』についてですがこれはサイトのどこかに僕の小説に出てくる共通資料として置きたいと思っています。
次回ではシャムシエル襲来の一歩前ぐらいまで進めたいと思います。
感想とか、批判とかお待ちしてます。