第三新東京市
一人の少年が第三新東京市の駅の近くにいた。
その少年は黒髪に黒い瞳。
そして、規程のものだと思われる制服の上下を着ている。
この少年こそ『碇シンジ』である。
シンジは今まで耳に当てていた受話器を公衆電話に戻した。
「ダメか……」
一人つぶやく。
そう、第三新東京市には現在人っ子一人いない。
使徒が襲来し、特別非常事態宣言が発令されたからである。
住民はシェルターへと避難している。
「非常事態宣言か……待ち合わせは無理か……しょうがないシェルターに行こう」
そう言ってシンジは歩きだそうとした。
だが、そのときだった。
シンジの頭上をけたたましい轟音を轟かせながらミサイルが飛んでいった。
耳を塞ぎ、上を見るミサイルの飛んでいった方向を見るシンジ。
そこには、緑色の巨人使徒が国連軍の重戦闘機を叩き落したところだった。
「あ、あれは……な、なんなんだ!?」
そして、その叩き落された重戦闘機の一機がシンジの近くに落ちる。
「うわぁ!」
それが爆発する。
シンジはその爆風に巻き込まれて吹き飛ぶ距離にあったがなぜか吹き飛ばず、そこに尻餅をつくだけで済んだ。
その理由はシンジの目の前には青いアルピーヌがまるで庇うかのように急停車していたからである。
そのドアが開き、中にはサングラスをかけた女性が運転していた。
「ごめん、お待たせ」
「……葛城さん?」
「早く乗って!」
シンジは言われるがまま荷物を持ったまま飛び乗った。
アルピーヌは急発進した。
ネルフ本部
ここ、ネルフでは迫り来る使徒に対して国連軍を中心に作戦を展開していた。
「何故だ!?直撃のはずだ!」
国連軍の一人がそう叫んだ。
使徒に対してミサイル、機関銃などの攻撃を行い全ての命中したにも関わらずまったく傷はつかず倒すことは不可能だった。
「やはり、A.T.フィールドかね?」
「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」
国連軍の人間達とは離れて座っていた白髪の年配の男冬月コウゾウとサングラスをかけ、手を組んで座っていた碇ゲンドウの会話だ。
そこに一本の赤い電話が鳴った。
それを受けた国連軍の人間は相槌を数回うち、なにかを発動すると言った。
双眼鏡で遠くから使徒との戦闘を見ていた葛城ミサトにはその飛行機達が普通ではない動きをしたのが見えた。
その動きとは使徒を中心に飛行機が散開したのである。
それは、当初予定されていた物の発動を意味していた。
ミサトは叫んだ。
「まさか……NN地雷を使うわけ!?」
「伏せて!!」
ミサトがシンジに覆いかぶさる。
シンジも伏せてという声に咄嗟に頭を両手で抑え車の中でうずくまる。
音が一瞬だけなくなった。
だが、次の瞬間!
使徒の足元が光り、轟音と言う形容詞がふさわしい音が第三新東京市一体に地響きとともに響き渡った。
そして、その後には大爆発を起こし、炎筒が出現していた。
シンジとミサトが乗っていた車も吹き飛ばされる。
ネルフ本部
「やったぁ!!」
その爆発の炎筒を見た国連軍の人間の一人は椅子から立ち上がり歓喜の声とともにガッツポーズをした。
そして、隣に座っていたもう一人の国連軍の人間が離れたところにいるゲンドウと冬月に
「残念だが君達の出番はなかったようだな」
と自信満々に言った。
二人は表情を変えず黙ったまま砂嵐となっているスクリーンを見つめている。
『センサー回復します』
そのアナウスを聞いた国連軍の一人が
「あの爆発だ。ケリはついている」
と言ったがその言葉は次のアナウスにより覆される。
「爆心地にエネルギー反応!」
「なんだとぉ!?」
ものすごい形相で国連軍の一人が机に身を乗り出す。
『映像回復します』
そして映った映像に発令所の人間は驚きの声を上げる。
そこには、多少の傷は負っているものの外見からまったく変化がわからないぐらい無傷な姿をした使徒だった。
エラのようなものを動かし回復を行っているようだ。
「バカな……」
「我々の切り札が……街を一つ犠牲にしたんだぞ……」
「バケモノめっ!」
そして、その使徒の顔のようなところから光線が放たれる。
それは今までになかった攻撃方法である。
攻撃を受けたのは使徒をカメラによって発令所のスクリーンに写していた重戦闘機だ。
「機能増幅までも可能か……」
「おまけに知恵もついたようだ」
「再度侵攻は時間の問題だな」
ゲンドウと冬月はこの非常事態にも関わらず冷静に使徒の感想を漏らしていた。
そして、その後国連軍の人間はネルフに指揮権を譲渡し、去っていた。
ミサトの青いアルピーヌは横転していた。
シンジとミサトはその横転した車に寄りかかっていた。
「大丈夫だった?」
「はい、口の中が少しシャリシャリしますけど……」
「それは、結構」
二人とも車に手をかける。
横転した車を直そうとしているようだ。
「じゃあ、いくわよ……せーの!!」
二人は意気をあわせて力をこめる。
二、三回持ち上げるとついに車が音を立てて元に戻った。
「ありがとう、助かったわ」
「いえ、僕の方こそ、葛城さん」
ミサトはサングラスを外す。
「"ミサト"でいいわ。改めてよろしく、碇シンジ君」
「はい」
二人は直した車に再び乗り込んだ。
しかし、発進しない。
「あ、アレ……?」
「ミサトさん、動きませんけど……」
二人で顔を見合わせる。そして、苦笑を浮かべる。
バッテリーが切れているのである。
「ど、どうしましょう?」
ミサトが苦笑したまま言う。
だが、ミサトの目があるものを捉えた。
外にはバイクや車などが乗り捨ててある。
「ラッキ〜!」
外に出て、それらからバッテリーを調達してきてしまった。
シンジは呆然と見ていた。
そして、無事車は発進した。
ネルフへと向かっている。
「あのぅ、ミサトさん?」
シンジがミサトに話しかける。
しかし、ミサトは自分の汚れた服を見たり、表情をくずしてみたりとまるでシンジの声が聞こえていないようだ。
「あの、ミサトさん!!」
ついにシンジは叫んだ。
ミサトはシンジが自分を呼んでいることにようやく気づき
「あっ、なに?」
「いいんですか、こんなことして……」
シンジはそう言って難しい表情をして後部座席に振り向く。
そこにはさっきミサトが調達…もとい盗んできたバッテリーたちがあった。
「大丈夫!私はこう見えても国際公務員だしね。それに今は非常時だし、万事OKよ!」
いくら、国際公務員だからといって他人のものを勝手に使うことは許されないであろう。
「説得力に欠ける言い訳ですね……」
「……以外と落ち着いているのね?」
「いえ、そんなことは……さっきの大きな怪物は一体なんなんですか?」
「あれはわたし達は"使徒"と呼んでいるわ」
「使徒……」
ミサトのアルピーヌはトンネルをくぐるとカートレインと呼ばれるネルフの車を中まで運ぶ機器に固定される。
そして、それが移動する。
「あっそうだ。お父さんからIDもらってるでしょ?」
「あ、はい」
シンジは足の下に置いておいた自分のボストンバッグを開き、ここに来る何日か前に届いたネルフからの手紙を出す。
そこからIDを取り出す。
「どうぞ」
それをミサトに渡す。それと反対に分厚い本がシンジに手渡される。
どうやら、ネルフのガイドブックのようだ。
「ネルフ……」
シンジがそのローマ字を読み一言漏らした。
その言葉にミサトが反応する。
「そう、国連直属の非公開組織」
「人類を守る大事な仕事ってやつですか?」
「なにそれ、皮肉?」
ミサトが苦笑しながら言う。
そのときだった。
背景が暗いものから一気に明るくなる。
下は空洞のようになっている。
中心にはピラミッド型の建物がある。
「こ、これは……!?」
「ジオフロント。あの建物がネルフ本部。世界再建の要、我々人類の砦となるところよ」
シンジはミサトの言葉を返さず、ただその背景に目を落とすだけだった。
ネルフ本部
ゲンドウはすっと立ち上がると後ろにある台座に立ち手をかける。
冬月が振り返り、ゲンドウを見る。
「国連軍もお手上げか……どうするつもりだ?」
「初号機を起動させる……」
その言葉に冬月は目を見開き、再び質問する。
「パイロットがいないぞ?」
「問題ない。シンジが来ているはずだ」
ゲンドウの立っている台が下に下がっていく。
冬月が一言漏らした。
「三年ぶりの親子の再会か……」
シンジとミサトはネルフ本部のどこかの道を歩いていた。
ミサトは地図を持っているので迷うはずがないのだが。
「おっかしいわね……こっちのはずなんだけど……」
と唸りながらミサトは地図とにらめっこしている。
そこにシンジが一言いう。
「さっきも通りましたよ。ここ」
意外な一言にミサトは一瞬ひるむが
「大丈夫!システムは利用するためにあるんだから〜」
と言った。
シンジがその言葉の意味を分かりかねているとミサトはリツコを呼び出した。
呼び出すシステムの有効性を証明したのであった。
数分後指定されたエレベーターから白衣を着た金髪の女性赤木リツコが現れる。
「なにやってたの?葛城一尉」
といきなりミサトを叱咤する。
対してミサトはウィンクしながら手を出し謝っている。
リツコはため息をついた。
そしてシンジを見る。
「例の男の子ね」
「そう、マルドゥックの報告書によるサード・チルドレン。これがまた可愛げのない子なのよ、司令に似て」
「……私はE計画責任者の赤木リツコよ。よろしくシンジ君」
「あ、はい。よろしくお願いします」
三人はリツコの案内で第7ケイジへと向かった。
第7ケイジ
三人は真っ暗なここ第7ケイジにたどり着いた。
「足元に注意して」
リツコがそう言い、電気をつける。
そこには紫色で角がある巨大な顔のようなものがあった。
「か、顔……なのか?」
「驚いた?……対使徒戦用汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。これはその初号機。建造は極秘裏に行われた」
リツコが長々と説明をする。
驚いていたシンジだったが小さい声で言った。
「これが、父の仕事ですか?」
その言葉は思っていた以上に第7ケイジという広い場所で反響した。
そして、その答えは上から返ってきた。
「そうだ、久しぶりだな」
シンジは真っ向から上の別の部屋にいる自分の父ゲンドウに顔を向けた。
「そうだね、三年ぶりかな……」
ゲンドウは頷く。
再び、口を開いた。
「シンジ、親戚に預ける前に言ったことを覚えているか?」
「うん、いつかは分からないけど人の敵が来る。そのときまでだって父さんは言っていた。今がそのときなの?」
「そうだ、そして、シンジ。このエヴァンゲリオンにお前が乗り、使徒と戦うのだ」
シンジの目が見開かれた。
動揺しているのだろう。
「僕がこれに乗ってさっきのと戦えってのか?」
「そうなる。お前の格闘能力は知っている」
シンジは拳を強く握った。
そして、叫んだ。
「それって、勝手すぎるだろ!」
シンジの叫び声が大きな第7ケイジに反響し、より一層大きく聞こえる。
そして、その声は重みがある。
ネルフの整備士やミサト、リツコが哀れむ表情でシンジを見る。
たかが、14歳の少年が最前線の戦場に出される。
これほど勝手なことはないだろう。
「分かった、葛城一尉、シンジを頼む。冬月」
『なんだ?』
「レイを起こしてくれ、しょうがない、やってもらうしか」
『分かった』
そして、すぐにストレッチャーによって包帯を巻いた、青い髪で紅い瞳の少女『綾波レイ』が運ばれてきた。
それを見たシンジはゲンドウに叫んだ。
「待ってよ、父さん!あの娘を僕の代わりに」
「ああ、お前が乗りたくないのならしょうがない。パイロットはレイしかいない」
レイは起き上がろうとしているが肩で息をしている。
つらそうだ。
シンジはレイに走り寄った。
肩に手を掛ける。
「無茶しちゃダメだよ。そんな傷で!」
「ハァハァ…………え、エヴァに……」
そう言ってつらそうにしている。
シンジは自分が情けなくなった。
こんなに傷つき辛そうにしているのにエヴァに乗ろうとしている。
そんなレイに対し自分がちっぽけに見えてくる。
そのときケイジが揺れた。使徒の攻撃だ。
電灯が壊れそれがシンジとレイに落ちてくる。
「危ない!」
ミサトが叫ぶ。
シンジはレイを庇うようにする。
だが、それは落ちてこず何かに阻まれた。
シンジが見るとそれはエヴァの手だった。
「守ってくれたのか………父さん!!僕がエヴァに乗る!」
「いいのか?」
「僕が乗る……僕が乗るから、この娘を寝かしといてよ!」
ゲンドウは頷いた。
そして、シンジはゆっくりとレイをストレッチャーに寝かせた。
次回予告
初号機に搭乗し、初の使徒戦に挑むシンジ。
持ち前の格闘技で使徒を圧倒し、皆を驚かせる。
だが、そのとき……。
次回 第二話 初号機出撃