新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側

第拾四話―予測できない、来訪者―




「ほら、さっさと走る!」
あの、夕暮さん?
一体、誰の所為で俺たちは遅刻しそうなのでしょうか?
「決まってるでしょ!あんたよ!」
では、聞きますが一体誰があなたのかばんの中に入っている国語の問題集をやってあげたのでしょうか。
俺です。
この話は昨日まで遡る。


俺が、もう寝ようと思ったそのときその悪魔は降臨した。
部屋が隣ということをいいことにその悪魔は俺の部屋にいきなり入ってきたのだ。
ノックぐらいしないか、次は俺が同じことをするぞ。
「バカなこと言ってないで、ちょっと頼みがあるんだけど」
「頼み?」
こんな人間でも人に頼るときがあるのか……。
ってあまりにも失礼か。
俺が部屋に入ったらどうだと促すと遠慮というものがないのかどうどうと入ってくる。
そして、俺にあるものを提示した。
「これよ、これ」
本人はどうしようもないといた顔をしている。
見てみると、ただのうちの中学で指定されている国語科の漢字の問題集だった。
いまさら問題集かよと思ってしまう時代になったのだが……。
国語の特に漢字の問題集だけはパソコンに予測変換という非常に邪魔な機能(漢字にとっては)が備わっているため今でも紙のものを使用している。
まあ、そりゃあそうだ。
パソコンでやったらいかにタイピングが遅くてもちゃんと入力さえすれば漢字に変換できてしまうのだから。
「で、この漢字の問題集がどうした?」
「いや、その漢字ってどうも苦手で、あっちで育ったからさ」
「なるほどって……まさか」
いやな予感がした。
「ちょっと手伝ってくれない?」
ほら、きた。
手伝ってくれというのであればお前もやるんだよな?
そのことを聞いたら
「当たり前でしょ!さすがに全部やってくれとは言わないわよ」
それなりに常識をわかっているらしい。
その後、二人で手分けしてやることになったのだが……。
俺が目をチカチカさせながらも漢字の書き取りを行っていると隣で寝息が聞こえた。
ちょっと前まで船をこいでいたを思ったらもう落ちやがった。
「おい!」
まったく起きない。
しかも、まだ半分以上残っている。
マジですか。
俺がやるんですか?
たんたんと漢字を書く作業だがいかんせんもう夜である。
眠い……。

ということである。
まったく、理不尽である。
今度、英語を手伝わせて俺が寝てやろう。
結局学校にはギリギリに到着した。
「おい!仲良く登校とはやってくれるな!」
先生、トシヤがうるさいです。
先生が来るわずか三分前ぐらいに俺と夕暮は教室に入ることができた。
おかげで息が上がって、まともにトシヤを止められん。
「で、なんで遅れたんだ?」
「寝坊だ、寝坊」
細かく言うと色々うるさそうなので適当にあしらっておく。
適当だが間違いは言ってない。


AB格納庫
ABの格納庫では思わぬ形で初陣になったStypeが運ばれて収納されていた。
目だった損害はないが戦闘を行ったということで各部のチェックがされることになった。
「これが新型のエヴァか……」
ミヨコがその鮮やかな緑色の機体を見てつぶやいた。
隣にあるSStypeと比較すると少し小柄なようである。
「正式名称エヴァンゲリオン Speed type。機動性に重点をおいた機体らしいわ」
ミヨコの後ろでコンピュータをいじっていたレンが動きを止めずにそういった。
「へぇ、やるじゃん。アメリカ支部の連中も」
Stypeはアメリカ支部が完成させた。
そのため、パイロットの選出もあちらがやっていたようである。
「でも、使徒も来ないから模擬戦、起動テスト、運用試験しかできなかったらしいわ」
「ってことは、実戦での戦闘能力はまだ未知数ってことかしら?」
「そうなるわね」
レンはそう言いながら淡々と作業をしている。
ミヨコがStypeを見上げるのに飽きている頃のことだった。
突如、格納庫の入り口の扉が開いた。
「レンさん、どう?私達のStypeは」
いきなり入ってきたのはStypeのパイロットのシズクとユメミ、そしてユウキの三人だった。
ユウキは疲れた顔をしている。
学校の帰りでABの本部に来るのは体育を続けてやるなどの理由がない限り容易である。
何かあったのだろう。
「特に問題はないわ。次の戦闘にも問題なく出撃できるはずよ」
レンはコンピュータを操作するのをやめ、シズクの方向に向き直った。
しかし、そのときだった。
急に耳が痛くなるような警報が鳴り響き、同時にアナウンスが響く。
『旧川崎方面にて巨大な移動物体を発見したとの報告あり!職員はただちに所定の部署についてください!繰り返します!旧川崎方……』
それは、使徒もしくはそれと思われるものが現れたことを知らせるものだった。
「使徒ね……」
「パイロット三名はパイロットスーツに着替え、作戦室で待機!」
ちょうど、来ていた三人はそれぞれに返事をすると急いで格納庫を出て行った。


いきなり、使徒かよ……。
オレは、パイロットスーツに着替えている最中にも夕暮(姉)に怒りを募らしていた。
それは、学校の最後の授業、例の漢字の宿題の件だったんだが……。
黙って提出すればいいものの、あいつは俺に大声で叫びやがった。
まあ、教室も授業終了五分前ということでがやがやしていたから叫び声は目立たなかったものの……内容が悪かった。
「ごめん!昨日宿題一緒にやってる最中に寝ちゃって……」
教室中が徐々に静まっていくのがわかった。
それも、みんな俺もしくはシズクを見ている。
というか、綾波からの視線が俺を死においやろうとしているぞ。
綾波はバジリスクか何かなのかと本気で思ったりしていた。
その嫌な空気から一刻も早く抜け出したくて俺は言った言葉も悪かった。
「あぁ!!し、しょうがないよ、昨夜は疲れてたからさ!」
俺は笑顔で明るく言ったつもりだった。
しかし、ある一つの単語『昨夜』というのが悪かったらしく、多数の男子(トシヤも)から反感を買うことになった。
授業が終わった後、さらに俺は進路指導の先生にシズクともども呼び出された。
このときは本当のこと(というか嘘など何もついてないのだが)を話したらあっさり理解してくれてすぐに返された。
トシヤ+多くの男子――なんでほかのクラスまでいるんだよ――から質問攻めにもあった。
『夕暮さんとどういう関係だ!』とか『一緒に住んでるのか!?』とか『夕暮さんのアドレスを教えろ!』とかいろいろ言われたんだ。
だから、こんな疲れているのさ。
そこに夕暮本人と妹のユメミちゃんが現れて俺は強制連行された。
それがまだ反響を呼びそうなんだ、これが。
「はぁ……」
俺はため息をついた。
「何、ため息ついてんの?」
そりゃあ、つきたくもなるだろ、あんなことがあったらって
俺の横にはすでにパイロットスーツに着替え終わった夕暮がいた。
「なっ、お前ここは男子更衣室だぞ!?」
俺は念のためこの位置から見える掃除用具入れを見た。
ちゃんと「男子更衣室用掃除用具」と書かれていた。
「それが、どうかしたの?」
「どうしたも、こうしたも……俺が着替えてる最中だったらどうすんだよ」
怒りを通り越してあきれてるぞ、俺は。
「別に減るもんじゃないでしょうが」
平手で俺の背中を軽くたたいてくる。
くだけた性格で打ち解けやすいやつだというのはわかっているがちょっと砕けすぎじゃないか?
っつうか平手痛いぜ。
俺は楽しそうに会話しながら作戦室へ向かう夕暮姉妹の少し後ろを歩いていた。
年が近い兄弟はあまり仲が良いとは聞かない。
だが、姉妹などは気があい結構仲がいいと俺は聞いたことがある。
目の前の姉妹を見てなるほどと思った。


作戦室
スクリーンには海から巨大な物体迫っているところを映し出していた。
あれが、使徒なのか……。
むしろ、あれは
「ヤジロベエみたい……」
ユメミちゃんがみんなの気持ちを代弁するかのように言った。
あれは間違いなくヤジロベエだな。
こう、左右にある重りでバランスを取るやつ。
考えれば、考えるほどヤジロベエにしか見えなくなる。
「あれ、足払いしてみたくない?」
耳元でぼそっと夕暮が言った。
その気持ちはわかるが場所をわきまえろよ。
少し俺も真面目に使徒を目で分析していると
「じゃ、じゃあ作戦の説明をするわよ!」
ちょっと微笑みながら言ったミヨコさんが目の前に仁王立ちしていた。
あんたもかい。
「まず、StypeとSStypeの両機はサブマシンガンを装備して使徒を迎撃。以後は命令があるまでそれを続行するように」
「わかりました」
夕暮姉妹は未だにヤジロベエについて語っていた。
勘弁してくれよ、もう。
エヴァに搭乗する前のことだった。
今回は航空隊での輸送ではなく車での移動ということでパイロットは一つの車に一緒に乗せられた。
後ろには巨大なものを運んでいるトラックが二台走っている。
SStypeとStypeだ。
「あのぅ、何でユウキさんはエヴァに乗ってるんですか?」
車の中でユメミちゃんに聞かれた言葉である。
騒ぐはずの夕暮は騒いでいない。
まあ、そういう空気でなかったことは確かだ。
「……」
俺は純粋に返答に困っていた。
以前綾波に聞いたときは『皆を守るため』といっていた。
じゃあ、俺は?
俺はなんでエヴァに乗っているのだろうか。
死と隣り合わせの戦場に赴いてまで……。
「理由なんて……ないんじゃないの?」
俺が返答に困り果てているのを見かねたのか夕暮がそうつぶやいた。
見ると、そこには珍しく無表情な夕暮がいた。
喜怒哀楽が激しいこいつにとってこんな表情は珍しいのかもしれない。
理由がない……か。
そうかもしれないな。
そのとき車が止まった。
降りる際にユメミちゃんはこう言っていた。
自分に言い聞かせたのか知れないし、誰にも言うつもりはなくただつぶやいたのかもしれない。
だが、俺と夕暮に対していったのかもしれなかった。
「理由もなしに戦っていると……死ぬよ」
と。
それは、それは暗い冷たい声で。
俺はそれに対し本気で鳥肌が立ち、恐怖感に陥ったがその後すぐにいつものユメミちゃんに戻ったので気には留めなかった。


ヤジロベエ型の7th Apostle『サリエル』は空中に浮いていた。
浮いていたといっても飛んでいるわけではない。
地上から数メートル宙に浮いているだけだ。
ゆっくり侵攻している。
体の中心には使徒戦役時、多くの使徒はその紋章を顔と呼ばれる部分に使用したもの、一見ピエロのような顔がある。
その侵攻方向に二体、人型の巨大な物体が現れた。
一つはエメラルドグリーンに輝き、もう一体はシルバーで塗装されている。
それぞれエヴァンゲリオンStypeとSStypeである。
『まっ、せいぜいこのStypeのスピードについてこられるように努力しなさい!』
シズクがユウキにそう無線で叫ぶ。
ユウキは顔をむっとさせるが戦いはもう始まっているので気を引き締めるようにレバーを握りなおした。
『来るわよ!両機、迎撃して!』
ミヨコの無線からの声を合図に両機はサブマシンガンでの攻撃を開始する。
爆煙の関係で敵の攻撃が見えなくなるといけないのでお互いに撃ち、距離を取るという動作を繰り返す。
しかし、ATフィールドがあるためサリエルはダメージをまったく受けていないようである。
『なによ、全然効果ないじゃない……』
「やっぱ、ATフィールドか……」
『じゃあ、接近してATフィールドを中和するしかないわね……』
「そうだな」
ユメミはまさかと思い後ろを見上げる。
そこには、名案が思いついたとばかりに勝ち誇った笑顔でいる姉の姿があった。
『ミヨコさん?接近戦に移ってもいい?』
『えっ、でも武器が!?』
現在接近戦い使えるのは海に沈んでいる鉄柱と内臓武器であるプログナイフのみである。
まあ、鉄柱なんて攻撃に使えるかどうかも危ういのだが。
『プログナイフで十分よ!行くわよ!ユメミ!ユウキは援護よろしく!』
こうなっては止められないとわかっているユメミはしょうがなく自分もサポートに回るべくレバーを強く握り、画面に目をやる。
「ちょ、ちょっと待て!……ったく、しょうがない」
Stypeは腰にあるプログナイフを抜き取り構える。
そして、SStypeにサブマシンガンを投げる。
SStypeはそれを受け取り二丁のサブマシンガンでサリエルに狙いをつける。
サリエルは左右に大きく開いている手のようなものからビーム砲を放った。
だが、それはStypeに当たらず見事に回避している。
それはStypeにしかできない芸当だった。
SStypeのサブマシンガンから放たれた弾丸はサリエルの顔のようなものを何度も攻撃している。
それで視界はふさがれたのかサリエルの撃つビームのような攻撃は的外れなところに飛んでいる。
『もらったぁぁぁぁぁぁぁ!!』
Stypeのプログナイフはサリエルの顔のようなものの上に位置している赤い球体に向かって振り下ろされた。
だが
『っ!?』
突如、シズクとユメミには横から衝撃とともに左半身に痛みが走る。
一体何が起きたのか。
なんと、サリエルはその針のような足を軸にして高速回転したのだ。
当然、左右大きく開いている大きな手も一緒に回ることになる。
その手がすごい勢いでStypeに激突したのだ。
さらに、Stypeを正面に捕らえたサリエルはその足を軸にして今度は逆に、つまり右に回転した。
するとどうなるのか。
今度は右手がStypeに激突する。
『うぐぅ……こ、このぉ!!』
Stypeは攻撃に移ろうとするがその瞬間にはまた逆回転したサリエルの左手がぶつかる。
その繰り返しである。
サブマシンガンで攻撃していたSStypeだったがその光景に我慢できなくなり突っ込もうとするが
『ユウキ君!ちょっと待って!』
「で、でも見殺しにしろって言うんですか!?」
止めたミヨコに当然ユウキは反論した。
だが、帰ってきた言葉は攻めの命令であった。
『軸になっている針みたいなやつに攻撃を集中させて!』
「わ、わかりました!」
ユウキは狙っていた部分を変更し、射角を下げる。
二丁のサブマシンガンで針を一気に攻撃した。
すると、それを察知したのか軸の針を宙に浮かせた。
これでは、軸にして回転などできない。
「生きてるか!?夕暮、ユメミちゃん!」
ユウキは無線で呼びかけながらサブマシンガンをサリエルのコアに向けて連射する。
サリエルは宙に浮いているときは移動スピードが遅いのか、後退してしまっている。
しかし、手からのビーム砲が絶えない。
SStypeはそれをなんとか避けつつStypeに近寄ることに成功した。
だが、エヴァが一箇所に固まったのを見てサリエルの攻撃は激しさを増した。
離れているためATフィールドを中和することもできない。
牽制のためにSStypeはサブマシンガンを連射する。
「ミヨコさん、このままじゃ!」
『わかってるわ!航空隊に連絡、援護を要請して!』
その後、要請に応じた国連の航空部隊の大爆撃がサリエルを襲った。
ATフィールド中和時にSStypeから受けた連続射撃の大爆撃のおかげでなんとか足止めに成功した。
レンやABの技術部が調べた結果によると、サリエルは自己修復中である。
簡単に言ってしまうと傷を治してる最中ということだ。
航空隊に援護を要請した後、ABのエヴァチームは撤退を余儀なくされた。
SStypeはサブマシンガンの弾が切れ、Stypeはサリエルの連続攻撃によって戦闘不能に追い込まれていた。
弾切れだけならばすぐにまた攻撃に転じれるのだがあの連続攻撃を見せられた後、二機で苦戦した相手を一機だけで倒せるとは誰も思わなかった。
エヴァンゲリオンチーム初めての敗北だった。


作戦の後、シャワーを浴び、とりあえず待機となった俺達パイロット。
しかし、待機するのはもちろんAB内。
第4新東京市の非常事態宣言は解除されたが未だに使徒は生きている。
今回の使徒は強かった。
どうしてもあの連続攻撃を考えてしまう。
果たして、どんな作戦にでるのか……。
しばし、考える。
……。
……。
「だぁああああ!!思いつくわけねぇだろ!この枕!」
俺はベッドに置かれている簡素な枕を壁にぶん投げた。
「はぁ……ふぅ」
枕は文句も言わずに投げつけられ、壁に激突。
痛そうだ。
その、枕を回収してやる。もとに戻す。
俺はもう考えるのはやめて寝ようとベッドにぶっ倒れたときだった。
コンコンとノック音が聞こえた。
誰だろう……。
ミヨコさんが新しい作戦でも考え付いたのだろうか。
それとも、レンさんが説教にでもくるのだろうか?
いや、今回の作戦で俺は何も壊してない。
俺は、疑問に思いながらもそれに応対した。
「私……」
予感ははずれた。
俺を訪問したのは意外な人物だった。



To be continued


次回予告

戦う理由を持たぬ者。
戦う理由を欲する者。
戦うことに怯える者。
戦いの結末とは……。






後書き
今回は短いというよりも文と文の間が結構あいてる。
う〜ん、量はだいたい同じぐらいの量を書いてるのですが……。
なぜでしょうかねぇ〜。
とりあえず、新年明けましておめでとうございます。
今年も神出鬼没の館とファントムをよろしくお願いします。