エヴァStypeを輸送していた戦艦の甲板の上に立っている巨大な人型の物体がいる。
それこそが、エヴァンゲリオンStypeである。
乗っているのは夕暮姉妹である。
敵は海の中に潜んでいるらしい。
「視界が悪いわ。ユメミ、レーダーを見てて」
「うん」
エントリープラグ内は二段になっており上の段に姉であるシズクが、下の段に妹であるユメミが乗っている。
ちなみに、中の仕組み自体は二人が同時に乗ること以外、通常のエヴァとそんなに変わりはない。
『夕暮、聞こえるか?』
無線から艦長室にいるユウキの声が聞こえる。
「ええ、どうやらエヴァの中でも問題ないみたいね」
シズクも耳にマイク付きの無線機をつけている。
『ああ、敵の動きはこっちからでも船のライトだけでしか確認できないらしい。レーダーが頼りだと思う』
「分かってるわ……!?」
「姉さん!右!」
ユメミがレーダー頼りに敵の動きを見張る。
横から、水しぶきを上げ使徒『カマエル』が姿を現した。
その姿は頭のようなものは巨大で丸く、そこから触手のようなものが五本延びている。
五本のうちの真ん中の一本は攻撃用なのか、鋭く尖っている。
頭のようなものの真ん中に赤く光る球体がある。
おそらく、コアだろう。
体色はオレンジ色で生物で言うタコに似ている。
カマエルは触手を船に引っ掛け、バランスを取り、鋭い触手でStypeを襲う。
「ふふん、そんなものでこのStypeがやられるとでも!?」
Stypeは触手の長さの限界まで下がる。
船が空母ぐらいの大きさで幸いした。
通常の船では海に落ちているか、触手の餌食だったであろう。
「姉さん!船のバランスにも気をつけて!」
「分かったわ!この!」
カマエルは尖っていない触手でStypeを捕獲しようとするがStypeは腰に携行しているプログナイフで攻撃する。
触手を切られることを恐れているのか、カマエルはそのナイフをよけることを優先しているようだ。
「くっ、ちょこまかと!」
カマエルはその触手を自由自在に操り、船という足場の悪いところでもバランスを取り、攻撃を行う。
だが、Stypeには柔軟に動く手足も手足のように使える複数の触手もない。
さらに、視界も少々暗い。
時間帯そのものが敵を味方しているのである。
「姉さん、このままじゃ時間が!」
「分かってるわ。でも、これじゃ……」
諦めるなよ、二人とも!
何か、策はないのか!
俺はない頭で考える。
敵は大量の足でバランスを取っている。
それを、絶つことができれば……。
「ミヨコさん!あの足を絶つことができれば!?」
「それは、そうだけど、その方法はどうするのよ!?」
俺の案とも言えない、案はすぐに押しくるめられてしまう。
他の二隻の艦が援護射撃を放っているが、エヴァStypeと使徒は近づいたり、離れたりしているためピンポイントでフィールドを中和した後に弾が当たらない。
巨大なライトはそれでも、視界を広げるのに十分役立っているのだが。
「あんな、タコみたいな敵……どうすれば!」
ミヨコさんが舌打ちしながら言った。
タコね。
まあ、間違っちゃいないが。
タコは足が確か八本、あれは五本だ。
それにオレンジ色、味がついて売られているタコはあんな色だな。
タコ焼きが食いたくなってきた俺は緊張感ゼロだな。
「!夕暮後ろだ!」
見ると、後ろから水しぶきが上がり使徒が現れStypeに攻撃を仕掛けていた。
俺は咄嗟に無線のマイクに叫ぶ。
Stypeは最低限の動きだけで避けて、ナイフで反撃を行うが使徒は触手を軸に使い海に逃げたようである。
卑怯だな。
『あの、タコ!どうすれば!』
『姉さん、落ち着いて!』
タコか……。
ん?待てよ。
確か、タコを捕まえるにはタコ壷を使うんじゃ……。
それで、タコの足を封じて、身動きを取れなくして捕るんだな。
似たいようなことができるんじゃないか!?
考えろ……!
ダメだ……あんなでかいタコを収められる壷なんてない。
たとえ、押し込んだとしてもあの大量の足じゃすぐに引き裂かれてしまう。
「なんとか、あの足の身動きを止さえすれば……」
ミヨコさんも俺と似たようなことを言っている。
身動きを止める……。動きを止める。
抑える、縛る……こおらせる。
??縛るか。
そうか!
「ミヨコさんあの空母って巨大なワイヤーとかないんですか!?」
ミヨコさんは俺の言葉を聞いた後、艦長を見る。
艦長はそれに答えた。
「大型の荷物運搬用や、沈没船回収などのでよければあるが」
「それだ!」
「ち、ちょっとユウキ君、どういうこと?」
俺の言動に何か策があると思ったのか、俺にミヨコさんは詰め寄ってきた。
俺が考えついた策はこうだ。
さっき言ったワイヤーをあのタコみたいな使徒の足にうまく巻きつけ、少しの間身動きを止める。
その隙にStypeがプログナイフで足を切断し、安全に弱点であるコアを破壊するというものだ。
俺の作戦を聞き終わると、ミヨコさんはしばらく考えた後、艦長に
「ご協力お願いします」
と告げ、俺のマイクつき無線を貸してくれと言ってきた。
『こんな、作戦だけどどう?』
ミヨコはユウキから借りた無線でStypeに乗っている夕暮姉妹に連絡を取った。
「その作戦うまくいくんですか?」
ユメミが心配そうな顔で無線を返した。
しかし、ミヨコは
『とりあえず、今はこれしか作戦がないわ。あなた達の腕に掛かってるわ』
それしか、言わなかったミヨコだったがシズクは余裕の笑顔でこう返した。
「上等じゃん!腕の見せ所ね!」
と。
今や、戦場と化している空母の上のクレーンからワイヤーを適当の長さまで引っ張る、Stype。
それを、ぶんぶん振り回している。
まるで、カウボーイかなにかのようである。
「さあ、姿を現しなさい……こっちは準備OKよ!」
シズクはレバーを握りなおす。
ワイヤーを持っていない手にはプログナイフが握られている。
ライトがある水面を照らしたその瞬間だった。
水しぶきを上げ、使徒は現れた。
「このぉ!!」
Stypeはワイヤーを思いっきり使徒に向かって振った。
そのワイヤーは使徒を驚かせるのにも一役買い、さらにうまい具合に足にからみつく。
軸にしていた足ごと持っていかれたためカマエルは身動き取れずに甲板の上にその全身を晒した。
「よし!」
「いけるわ!姉さん!」
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ナイフを振りかざし、そのナイフは見事カマエルの攻撃用の足を引き裂いた。
カマエルがのたうちまわるが、移動用の足しかなく、その足もワイヤーによって動きを制限されているためさほど効果はない。
「このバケタコめ!潔く、材料にでもなれぇぇぇ!!」
ナイフを包丁に見立てたStypeは移動用の足を切り刻む。
その切り刻んだ、足はきれいに三枚に下ろされていた。
最も、食用どうこう言う前に海の藻屑となってしまったが。
残るわ、頭にような丸い部分だけであった。
もはや、カマエルは足がなくなったタコ同然。
身動きする動きも欠片もない。
その丸い部分のちょうど真ん中にあるコアにプログナイフが刺さる。
ひびが入る気持ちの良い音が響き渡り、カマエルは活動を停止した。
ちょうど、そのときエヴァStypeの活動も停止し、目の光が消えた。
「ありゃりゃ、ギリギリだったみたい」
「そだね……ふぅ」
夕暮姉妹はお互いに笑いあっていた。
初の実戦ということもあって疲れたのだろう。
顔には疲労の色がでており、汗が滲んでいた。
『あーあー……聞こえるか?』
無線機を返してもらったのか、ユウキがまだシズクの耳についている無線機に応答する。
「……大丈夫。ちょっと、疲れただけ」
ユウキはその一言で、姉妹が初の実戦でありそのことによって疲れていたのが分かった。
だから、あえて色々、言うのはためらわれた。
ただ、一言。
『お疲れ。よくやったよ』
「ん…………ありがと」
ユウキには最後の言葉は聞き取れていなかった。
その日の夜のことである。
俺が寝ようとしたときである。
なにやら、外で物を動かす音と人が歩く足音が聞こえてきた。
こんな、夜遅くに誰だと思い。
ドアから顔を出し、隣を見た。
う〜ん、やはり夏といっても夜は肌寒い。
「あら、あんた隣の部屋だったの」
そこには、見慣れた姿の人間がいた。
見知った、厚着ではなく、日本の気候に合わせたのか緑色のワンピースを着ている。
「夕暮……?」
「ええ、今日からここにユメミと住もうと思って」
思ってって……色々仕事が速いな、ABは。
見ると、もって来た荷物を色々、入れているところだった。
そこで、俺は欠伸を一つ。
今日は、何しろ外国まで行って、帰ってきてその途中で使徒との戦いがありともう疲れているのが自分でも分かった。
「随分、暇そうね」
「暇っていうか、後はもう寝るだけなんだけどな」
おやすみの一言でも言って、引っ込もうかと思ったそのときである。
「うわぁ!!」
またもや、聞き覚えのある声の悲鳴とともに物が色々落ちる音がした。
何かがころころと転がっている音もした。
一体、何があったのだろうか?
「ユメミ!?」
夕暮はユメミちゃんの名前を叫んだ後自分の部屋と引っ込んでしまった。
俺は、なんだろうと思い靴を履き、隣の部屋を見てみた。
……見てみると無残にもガラクタじゃなかった小さな家具をバラまきその下敷きになっているユメミちゃんがいた。
おそらく、何か小物に足を奪われたのだろう。
それを助けようとしている夕暮。
なかなかシュールである。
俺が部屋の外でそれを傍観していると
「見てないで手伝ってくれたっていいじゃない!」
とどやされてしまった。
もう、眠いんだがな。
俺はしょうがないと思いつつ手伝うことにする。
転がっている家具を適当な位置に置きつつ、他のものを片付けていく。
大量にあった家具や荷物も三人いれば、どうということはなくすぐに片付いた。
「はぁ、疲れた……ん?」
見ると、居間のソファでくつろいでいるユメミちゃんが見える。
いや、あれは……
「寝てるのか……無理もないっか」
エヴァで初めて使徒と戦った今日。
さすがに俺達中学生にはちょっと重荷だと思う使命である。
それを、成し遂げたのだ。
疲れもたまるというものだろう。
「さすがに、日本につく前に使徒と戦うなんて思わなかったわ。私も」
休憩していた夕暮がそういった。
使徒がいつ来るのかは誰にも予想できないからな。
じゃあ、なんでABはエヴァという使徒に対抗できる力を作ろうと思ったんだ?
使徒戦役のときだって……ネルフは一体どうやって使徒が2015年に現れると予知したのだろうか。
「謎は深まるだけか……って」
規則正しい呼吸が増えてないか?
見ると、夕暮まで突っ伏して寝てしまっていた。
おいおい。
俺は一体どうすればいいんだ?
とりあえず、冷えるといけないと思い寝室からタオルケットを持ってきて二人に被せる。
まったく、動かない。
熟睡状態である。
さすがに、鍵はどうにもならないのでミヨコさんに頼んで閉めてもらった。
ったく、世話の焼ける味方が現れたもんだ。
そう思ったが内心では微笑ましくもあった。
次の日。
あろうことか、姉妹が俺や綾波が通っている転校してきやがった。
いや、別にユメミちゃんはいいのだ。
普通の女の子であるから。
問題なのは姉の方だ。
うぅ、なんか嫌な予感がするのは俺の気のせいだろうか。
「あいつもパイロットなんだって?」
「ああ、夕暮のことか?そうだよ」
トシヤが休み時間に俺に質問してきたので答えてやる。
トシヤは目の色を変えた。
「へぇ、そうか!お前は、いいよな!あんな可愛い子と仕事ができてよぉ!」
と、ばしばし俺の背中を叩いてくる。
痛いぞ、加減をしろ。
っていうかやめろ、その古いリアクションは。
「可愛い子……か……」
と聞いて俺はため息をついた。
確かに外見上はそう見えなくもない。
しかし、俺には性格が少々悪いことが分かっている。
だからそんなポジティブには考えられん。
「本当にそう思ってる?」
綾波が急に近づいてきた。
少々、不機嫌そうな顔である。
どうしたのだろうか。
「本当にそう思うのだがってなんで俺の考えてることが分かるんだよ!?」
「なんでって、声に出てた」
「うぅ」
恥ずかしい。
だが、夕暮が近くにいなかったのは幸運だ。
こんなこと言うと一体なにをされるか分からない。
校庭で同じクラスの女子とバスケに励む姿を見る。
どうやら、無事友達が出来たようだ。
ユメミちゃんの方もさっき綾波と一緒に一年のところに見に行ったら特に問題はなくエリちゃんや先日の早崎とともに楽しく過ごしていた。
とりあえずは一安心ってわけか。
この安心感に俺は少しだけデジャヴを感じたのはおそらく気のせいであろう。
To be continued
次回予告
間髪いれずに現れる使徒。
その外見からは考えられない戦闘能力。
大苦戦を強いられるエヴァチーム。
いつもより、短くてすいません。
前回で少し書きすぎました。
ご了承ください。
世間ではクリスマスと呼ばれる日らしいですが知りませんね。
日本人なのでww