新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側

第拾弐話―緑光の巨人、ここに現る―




ヴ〜、ざみぃぃぃ。
日本はセカンド・インパクトのおかげか、所為か年中裸でもいても大丈夫なくらい常夏状態である。
だが、他の国は違う。
俺の感想からも分かるとおり、年中極寒という国もある。
つまるところ、俺は今日本にいないのである。



事の発端は今日の朝。
っていうか、行くその日に行くという情報を教えるなよ。
いつものように、朝食をミヨコさんとエリちゃん、俺の三人で食べているときだ。
ミヨコさんがそれを唐突に言い出した。
「今日の午後、アメリカに行くから。寄り道しないで帰ってくるのよ?」
……。

絶句した。
首をかしげた。
動いていた箸が止まった。
動かしていた口も止まった。
なにを言ってるんだこいつはといった顔で俺はミヨコさんを見ていただろう。
というか、そういう気持ちを込めながら見ていた。
いきなり、アメリカへ旅立ち宣言されて驚かない人は少ないと思う。
俺が呆気に取られていると横からエリちゃんが呟いた。
「お姉ちゃん、昔からいきなりものを言う人だから……」
と、苦笑しながら言っている。
そのとき、ふと考えた。
元々エリちゃんはミヨコさんの坂中家ではない、養子だとこの前言っていた。
ということは昔からと言っても長くて10年……ぐらいか?
そんな、引っかかりが俺にはできたが、目の前で繰り広げている言い争い(他から見れば姉妹漫才)をしていたので気にしないことにした。
「あっ、そうそう。レイは来ないわよ。戦闘待機だから」
漫才を中断し、味噌汁をすすりながら言った。
行儀が悪いな。
「戦闘待機って……使徒が来てるわけでもないのにですか?」
使徒が来ていたらこんなゆったりと朝食を取っていないだろう。
そもそも、家にいるはずがない。
「使徒はいつ、どこに現れるか分からないからよ」
それもそうだが。
綾波の方が専門的なことも色々分かるような気がするのだが。
少なくとも俺よりはエヴァや使徒には詳しいはず。
「男の子の方が適任よ」
とウィンクしながら言う。
なんのこっちゃ……。



そして、冒頭に戻る。
男の方が適任とはどういうことなのだろうか。
ヘリの中で考えていた。
力仕事なのだろうか。
それとも、女性禁止の場なのだろうか。
いや、それならミヨコさんが行けないことになる。
「着いたわよ」
「ん?」
ミヨコさんが俺のいる後ろの座席に振り向きそう言ったので俺が下を見ると広大な大地が広がっていた。
降りようとしているところはどうやら港のようである。
巨大な空母と言っても過言ではない大きさの船が……三隻ほど視認できた。
今は夜らしく、まったくもって寒そうである。
少し身震いした。
俺とミヨコさんが乗ったヘリはその、港付近に降りたようだ。
少々、出るのを躊躇った。
何故ならばヘリの窓ガラスが濡れていたからである。
つまり、このヘリの中は少なくとも外よりかは暖かいということだ。
思わず聞いてしまった。
「ミヨコさん、俺も降りるんすか?」
「当然」
当たり前のような答えが返ってきた。
分かっていたがやはり落胆した。
仕方なく、外に出た。
いや〜、寒いこと、寒いこと。
しかし、真面目に考えるとここが寒いのではなく、日本が暑すぎなのか?
うん、やはり寒い。
出てくる言葉は寒いだけしかない。
日本の気温を比べると天と地ほどの差があるな。
(悪魔で俺の主観だが)
「こんなところに、来てどうするんすか?」
こんな寒さにも平然とした態度のミヨコさんに質問した。
う〜ん、寒いはずが息が白く見えん。
思いのほか寒くないのか。俺が寒がりなのか。
分からんな。
「この船で日本に戻るのよ」
来た意味は?
「もちろん、あるわ!新しいお仲間とご対面よ?」
新しい……仲間?
ということはエヴァが増えるってことか……。
「その通りよ」
「でも、なんでアメリカに?」
「その子達がアメリカ人だからよ」
「えぇ!?」
うぅ、いきなりチームワークの自信がなくなった。
俺の英語能力は、アメリカ人と意思疎通ができるほど素晴らしくないからな。
「大丈夫よ。その子達、日本生まれだから。日本語は、たぶんあんたよりうまいわ」
……。
俺、日本に住んでる、日本人ですが。
くっ、次は絶対国語だけは5を取ってやるぞ。
密かにこのとき燃えた。
「その子達はもうこの船に乗ってるわ。わたし達も乗りましょう」
俺とミヨコさんはこのバカでかい船に乗った。いや、空母か。



中は結構暖かく、上着は脱いでも大丈夫なようだ。
俺は上着を脱ぎ、片手に持つ。
そんなことをしていると、ミヨコさんは通路をとっとと行ってしまった。
やばい、迷子になったらいろいろ面倒そうだ。
俺はすぐに後を追う。
その後、艦長に色々な通達を行ったあとのことだ。
どうやら、いよいよパイロットと機体とのご対面ということらしい。
いつの間にか船が動き出したようだ。
ちなみに、乗ってきたヘリはこの空母に乗せてあるらしい。
動き出したのを体で感じた後、俺とミヨコさんは兵士に連れられて食堂へと向かった。
人がいない食堂だった。
日本を発ったときは確か午後四時ぐらいだったはず。
アメリカとの時差は確か十四時間かな……。
だと、すると、えっと……。
ここでは、役に立たない日本の時計が内臓している腕時計を見た。
「午前二時でしょ」
「あ、そうだな……って」
誰だ今の。
呆れたような声だった。
そして、聞きなれない声だった。
ということは、ミヨコさんではない。
っていうか明らかに声色が違ったな。
女性のものだと思われる声だ。
聞こえたほうを見ると、そこには茶色いコートを持ち、赤いパーカーのような服を着た俺と同じくらいの歳と思われる女性がいた。
顔立ちは綺麗で、瞳の色はエメラルドグリーン。
赤みがかかった茶髪は、ひとまとめにされている。
ポニーテールというのだろうか。
なんでこんな空母、しかも国連(だと思う)のに乗ってるんだ?
まあ、答えは一つしかない。
ちょっと、考えたくないが。
「もしかして、パイロット?」
俺は、恐る恐る聞いてみた。
恐る恐る聞いたのは間違いではなかったらしく、俺の質問にその女の子は良くない気分になってしまったらしい。
顔は怒っている。
「そうよ」
ぶっきらぼうにそう答えた。
俺の質問にへそを曲げてしまった女の子は不機嫌そうな目で俺を見る。
ファースト・コンタクトは失敗――そんなことは考えてもいなかったが――に終った。
見かねたミヨコさんが俺にその女の子を紹介した。
「この子が、エヴァStypeのパイロットの夕暮(ゆうぐれ)シズクよ」
さっきの不機嫌はどこへ行ったのか、明るい表情で手を差し出してきた。
「よろしく」
元気で明るい。
こっちも、さっきの気分を変えて握手に応じた。
「エヴァ四……じゃなかった。SStypeのパイロットをやってる水島ユウキだ。こちらこそ、よろしく」
「ふ〜ん、あなたがあのSStypeの……」
ジト目とでも言うのだろうか、そんな目で見られた。
「聞いてるわよ。使徒をすでに三体も撃破しているとか」
確かに、三体ほど撃破している。
A.Bのサポートと三体目は綾波の支援があったからこそ倒せたと、俺は思っている。
まあ、褒められるのは嫌いではないが。
「まっ、その連勝記録もこれまでね。私が来たからには使徒なんて飛んで日にいる夏の虫よ!」
すごい、自信だな。
ちょっとは楽できそうだな。これで。
この俺の勝手な考えは後に泣きを見ることになるなんて知らなかった。
「すいません、遅れましたぁ!」
いきなり、横から声がした。
女性の声である。
俺はそっちの方を向いた瞬間!?
口の中に血の味が広がったと思うと、俺は床に倒れた。
目線の先には天井がある。
何故、倒れたのか。
理由は簡単、ぶつかったのである。
いまさら、ぶつかった前頭部と床に打ちつけた後頭部に痛みが広がってきた。
尻の痛みともあいまって痛さ倍増である。
「イテテ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
俺は、少しふらつきながら立ち上がる。
ぶつかってきた少女は立ち上がり、前頭部を抑えている俺の顔を心配そうな顔で覗き込んだ。
「だ、大丈夫だよ……」
まあ、こんぐらいの痛みならすぐに和らぐだろ。
その娘は夕暮シズクと、髪の毛の色と瞳の色が同じであった。
まさか……ね。
「ちょっと、大丈夫?」
夕暮シズクはぶつかった俺……ではなく、俺にぶつかった娘に駆け寄っていた。
その顔はさきほど、俺と話しをしていたときより優しい表情だった。
「私は、大丈夫だよ。姉さん」
予感的中。
誰か、賭けしないか。
今の俺なら余裕で大金を稼げそうだぜ。
「彼女が、エヴァStypeのもう一人のパイロット、夕暮ユメミよ」
「へっ?もう一人?」
どういうことだ。
予備?サブ?
「まっ、そのうち分かるわ」
何故か、得意げな顔をしている夕暮(姉)に言われた。
気になるな。
「ユメミ、これがこの前話してた、SStypeのパイロットらしいわ」
「へぇ……」
夕暮(姉)にこれ呼ばわりされたあげく、らしいって。
そりゃあ、ないぜ。
俺が自己紹介する前に勝手に紹介されてしまったので俺はやることがなくなってしまった。
「は、はじめまして。夕暮ユメミです。よろしくお願いします」
これは、ご丁寧なあいさつで。
いや、しかし、こんなに変わるもんか姉妹で性格が。
「君の姉さんが今、ものすごく簡潔に紹介してくれたように、俺がSStypeのパイロットの水島ユウキだ。よろしく」
握手のつもりで右手を差し出した。
だが、その娘はそれに応じてはくれなかった。
なぜだ。
悲しくなってきた。
アメリカでは握手をしないのか。誰か教えてくれ。
「ああ、この娘ちょっと男性恐怖症の気があるのよ。ごめんね」
夕暮(姉)は本当に申し訳なさそうに俺にそういった。
なんか、拍子抜けした。
妹のことになるとこんなに態度が変わるのか。
「いや、全然気にしてないから」
俺は笑顔で答えてやった。
「まっ、そうだろうと思ったけどね」
宣言撤回。
やはり、性格は悪そうである。
「あ、そうそう。Stype見せてくれないかしら?色々、レンから確認しろって言われてて」
今まで、黙って俺達のやり取りを見ていた、ミヨコさんが不意に言い出した。
夕暮(姉)は笑顔で「いいわよ!」と答えた。
まるで、これから自慢でもするかのようだ。
この俺の予感は当たっていた。
本当に、誰か俺と博打でもしてくれ、焼肉おごってやるぞ。



寒い中、船の甲板に上がり、ヘリで新たなエヴァを輸送しているという、他の二隻よりも大きい戦艦に向かった。
大した距離ではなく、すぐである。
ヘリから降り、また暖かい艦内へ。
ふぅ、しかし、昔の日本もこんな寒さがあったとは。
考えただけでも震えてしまう。
「さぁ、こっちよ!」
俺の寒さへの感想を聞くまでもなく、俺以外の三人はそそくさと艦の奥へと向かってしまった。
女性って寒さに強いのか。
これも、誰か教えてくれよ。
通路を抜け、広い、大きな部屋に到着した。
そこには、上に巨大なハッチがあった。
その理由は目の前にある巨大な物体が物語っていた。
何か、人型のものが寝かされている。
「これが、Stypeよ!」
そのエヴァンゲリオンは俺の乗るSStypeと比べると少々小柄のような気もする。
鮮やかなエメラルドグリーンでカラリーングされ、所々に白や黄色がカラーリングされている。
顔はSStypeのように凶悪そうな顔ではなく、よりロボットっぽい顔となっている。
「へぇ、これがStypeか……」
「現存するエヴァの中で、最も移動スピードと反応速度が速いのよ!」
夕暮(姉)がそう説明した。
ん?
ちょっと待てよ。
いくら、SStypeより小さいからといってもスピードとエネルギーの燃費を考えると……。
割りに合わないような。
「確かに、あんたやGtypeと比べて内臓電池が持つ時間は少ないわよ。でも、そんなのほんのちょっとの違いでしかないわ」
やっぱりか……。
そして、さっきからの疑問であったことを俺はこのとき質問した。
「なんで、パイロットが二人いるんだ?」
「ああ、そんなこと。それは……」
夕暮(姉)が続きを言おうとした瞬間、突如船に振動が響き渡った。
なんだ、地震はないし、津波だったらもっとやばいし。
氷山にでもぶつかったのか?
『前方にパターン青を確認!』
「パターン青!?使徒が現れたの!」
夕暮(姉)はそう叫んだ。
その放送を聞いたミヨコさんは
「とりあえず、私は艦長室に行って来るから、皆はここを動かないで!」
言うが早いか、ミヨコさんは駆け出した。
ここを、動くなって言ってもなぁ。
カタカタと音がすると思うと近くのコンピューターのキーボードを弄っている夕暮(姉)の姿が映った。
「お、お前、なにやってんだよ」
「決まってるでしょ!Stypeの初出撃よ!」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
俺とユメミちゃんは一緒になって叫んだ。
対する夕暮(姉)は
「あんたが驚くのは分かるけど、なんでユメミが驚くのよ。それに、ここは海の上よ、この三隻で使徒を倒せるとでも思ってんの?」
「そ、そりゃあ、そうだけど。応援を待つとか。本部まで飛んでいくとか」
「飛んでいくってこのエヴァを飛んで運べるものは大きな、爆撃機くらいのものよ。応援も使徒のATフィールドを破れないからあまり変わらないわ」
うぅ、言ってることが正論すぎる。
俺が、返答に困っていると夕暮(姉)は俺の元にやってきて
「あんたに頼みがあるわ」
「な、なに?」
「エヴァの起動準備を頼むわ」
「ちょ、ちょっと待て。俺は無理だって」
「大丈夫よ。無線で指示出すからそれどおりにやればOK」
「お前は、分かるのかよ?」
「私を誰だと思ってるのよ」
今日、会ったばかりじゃ分かりません。
俺にはもう用が済んだのか、無線機を俺に手渡し、ユメミちゃんの元へ向かった。
対するユメミちゃんは少し震えていた。
「ユメミ、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫!これに選ばれたとき、ちゃんと決めたから!」
これというのはおそらくエヴァのことを差してるのだろう。
エヴァに選ばれる前に一体どんなことがあったのだろうか。
俺みたいなことがあったのだろうか。
そうだとしたら、ひどいもんだ。
一層のこと、ABに抗議してやろうか。
慰めている姉と慰められている妹を見ているとそんな気持ちになってくる。
俺は、無線機を耳に引っ掛ける。
「夕暮、任せろ。起動、必ず、成功させる」
「うん」
夕暮(姉)はこちらを向き、頷くと二人で更衣室へと向かった。
プラグスーツへと着替えるためであろう。
二人が着替えている最中も無線による起動準備は進んでいた。
俺は、慣れない手つきでコンピュータを操作する。
『非常用拘束具を解除して』
「了解っと」
人気がして、横を向くと着替えが終ったのか夕暮姉妹がStypeと同じく、淡いエメラルドグリーンのプラグスーツを着て現れた。
さっき、再び聞きそびれたことを質問してみた。
「なんで、パイロットが二人いるんだ?」
「それは、このエヴァは初のWエントリーだからよ」
「だ、ダブルエントリー?」
「要するに二人で乗るってことです」
ユメミちゃんが夕暮の後ろから答えた。
二人で乗るのか。
待てよ。
二人で乗るってことは神経接続してるエヴァは一体どうなるんだ。
考えることをあわせたとしても完璧にあわせるってのは無理だと思うんだが。
「それを、あわせるのが私達よ!」
ユメミちゃんも頷いている。
ほぉ、これは見物だな。
お手並み拝見。
エヴァ首の後ろにあるエントリープラグに二人で乗り込む。
エントリープラグの中の形状もどうやら二人乗りということで少々違っていた。
「行くわよ!ユメミ!」
「うん!」
エントリープラグが閉まり、エヴァStypeの目が灯る。
ふぅ、無事起動には成功したようだな。
『ハッチ開けて!』
「えっ、お、おう」
見るとOPENのボタンがあるので押してみた。
すると、おお!
天井の巨大なハッチが開いた。
ふぅ、よかった。天井のハッチのボタンで。



『エヴァンゲリオンStypeの起動を確認!』
艦長室には起動したことが筒抜けであった。
それに驚いたのは艦長だけではなく、ミヨコも同然だった。
「な、なんで起動してるのよ!」
しかし、その艦長室にはヘリで移動してきたと思われるユウキが来ていた。
「ちょっと、ユウキ君!これはどういうことなの?」
ミヨコがユウキに詰め寄る。
その両手をユウキの肩をこれでもかとぐらぐら揺らしている。
「お、落ち着いてください!あ、あいつらはこの戦艦三隻だけではATフィールドを持つ使徒を倒せないと言って」
艦長の眉がピクっと反応した。
ミヨコもその発言はまずいといった顔をした。
だが、艦長はこの現状について
「確かに、通常兵器では役に立たない。少年よ、彼女らに任せられるのか?」
使徒の攻撃か、再び艦が揺れた。
ユウキは耳に引っ掛けている無線機からのびている口元付近にあるマイクに
「聞こえてたか?」
『もちろん、まっかせなさい!』
「……任せろと本人達が言ってますが」
艦長はユウキのその言葉に苦笑し、全艦にエヴァの支援をするように命令を出した。
エヴァを輸送していた戦艦の甲板には今まさに、被せられていた布を取り払ったところだった。
少々暗い、太平洋上にエメラルドグリーンに輝く、巨人が姿を現した。



To be continued


次回予告

エヴァStypeは初の水上戦闘に苦戦する。
武器も、時間も限られた闘い。
そんな中、ユウキはある作戦を思いつく。






後書き
やっと新たなエヴァが出てきた。
予想以上に長くなってしまいました、申し訳ない。
次回は戦闘シーンが主となる予定です。