新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側

第拾壱話―闘い、惨劇―




俺は今、ABの指揮車に乗せられて旧東京方面に向かっている。
エヴァンゲリオンの力が要る。
とのことらしい。
エヴァンゲリオンが駆り出されることといえば俺はたった一つしか分からない。
エヴァでしか対応できないこと。
つまり、使徒が現れたということだ。
しかし、人員からしてどうやら違うらしい。
指揮を任されているのか分からないがお偉いさんっぽい人は普通の格好をしている。
しかし、それ以外の人間は特殊部隊のようなごつい格好をしている。
「少し緊張しているの?」
隣に座っている、俺と同じくABから駆り出されたらしいレンさんが言った。
その目は、手に持っている書類に向けられている。
「……別に」
俺はその質問にそっけなく一言返した。
というよりも、何故旧東京に向かっているのか知りたかった。
言い渡されたのは三日前。
俺だけにだ。
俺は窓の景色を見た。
遠くには湖が広がっていた。
そして、その湖と不吊り合いな巨大なビルも無数にあった。
旧東京はまさに、沈没した街だった。
全部が全部というわけではない。
もちろん、陸もある。だが、旧東京はセカンド・インパクト後にテロ攻撃によりその身の大部分を海に沈めることになった。
車が止まった。
「着いたわ」
レンさんがこちらに見向きもせず立ち上がり呟いた。
俺もそれに従い立ち上がり車の外に出た。



見渡す限り……とまではいかないが湖が広がっていた。
太陽の光が水面に反射してまぶしい。
ビルがその底から空に向かって四方にのびている。
「ユウキ君、エヴァに搭乗して。そろそろ始まるわよ」
「始まる?」
「説明は追ってするわ。今はエヴァに乗って」
「は、はい」
俺は半ばレンさんに押されるようにエヴァに搭乗した。
いつもとなんら変わらない居心地だが、変な気分だった。
使徒が確認されたという情報はない。
というか使徒が出現したならばこんな人員など出さずにすぐにエヴァに発進要請がかかるはずだ。
じゃあなんなのだろうか。
と思っていると無線からレンさんの声が聞こえた。
『先日、旧東京にテロ組織が入ったという情報が確認されたわ。それを沈静化するための作戦よ』
「エヴァが必要ってことは、巨大兵器でも持っているんですか?そのテロ組織は」
『いいえ、そうではないわ。エヴァの役目は戦闘支援よ。テロ組織といってもどれくらいの規模かは検討がつかないからってことで』
ということはこの巨体で小さな人間を捻り潰せということか。
抗議しようかと思ったら無線からレンさんとは別の声――男の厳しそうな声――がした。
『作戦開始』
その声とともに、銃声が轟いた。
そう、今俺の目の前の旧東京のビル群では戦闘が起こっている。
間違いない。人と人が争っているのだ。
エヴァSStypeには今回、『ハンドマグナム』と呼ばれる高威力の銃を装備している。
それで、狙い撃てと。
『SStypeパイロット。敵はあのビルに隠れている。あれを破壊してくれ』
と頼みとはとてもいえない命令が聞こえる。
俺は軍隊じゃないって、
『早くするんだ!こっちも長くは持たない!敵は予想以上に戦闘慣れしている』
俺が知るかよ。
と思ってみるも自分の所為で味方が死んでは後味が悪い。
俺は銃を構えるイメージをし、言われたビルに狙いを定める。
トリガーを二回ほど押した。
銃は正確にそのビルに向かって弾丸を発射、弾丸も正確にそのビルに風穴を開けた。
その後、すぐに下のほうで国連の特殊部隊だと思われる師団が突入していった。
銃声やら爆音やらが聞こえる。
惨い。
素直にそう思った。
争っているのは人同士。
使徒とではない。
人間同士が争うことがこんなにも醜く、惨く見えるなんて。
『次は左前のビルを頼む』
ビルを見てみるとそのテロ組織は立てこもり、上から地上の兵士たちと撃ち合いをしている。
そちらを方を向き、狙いを定める。
トリガーを押す手が自分でも分かるぐらい震えていた。
少し、狙いをずらし押した。
弾は人がいたところには当たらず、その巨大なビルの体に、大きな穴を開けたに過ぎない。
しかし、それで十分だったようで中にいた人間は慌てているのが見える。
その隙を狙い、特殊部隊が突撃した。
「……こんなの、闘いじゃない。これは、虐殺だ……」
俺はそう思い、この作戦の指揮をしている人間に繋いだ。
「SStypeはこれより、援護に入ります」
俺は歩を進め、特殊部隊の前に立った。
そして、相手のテロ組織の目の前でATフィールドをはった。
テロ組織の人間の撃つ弾はATフィールドの前で跡形もなく、消えてゆく。
後ろにいた、特殊部隊がその隙を狙いATフィールドの外側から狙い撃ったようで、足元にいたテロ組織の人間が順番に倒れた。
いや、死んだといった方が正しいだろう。
拡大しなくても血が大量に出血しているのがわかる。
あれでは、もう助からない。
すぐに、救急車や医師を呼べてもだ。
何よりもここは今、戦場。
あと数秒で戦闘が終るわけない。
この人間たちが選べるのは、死にかただけだ。
右の小部隊が大人数相手に苦戦しているようなのでそちらに向かうことにする。
見ると、かなりの数のテロ集団が集まっているようだ。
苦戦している小部隊に近づき、ATフィールドをはってやる。
『すまない。礼を言う!』
そう、無線から声がする。
倒れているビルを少々破壊し、その破片を相手のビルの前に立てかけてやる。
これでは簡単に攻撃できまい。
場所を変えようものなら、闘いのプロである国連の部隊がその隙を逃すはずはない。
その後、まもなくして戦闘は終了した。



それは、作戦が終了した帰りの車の中でのことだった。
その作戦の指揮を務めた隊長は俺に話しがあるといって同行している。
隊長は外見では年配者のように見える。
若くても45歳ぐらいか。
「君は……戦場に出たことがあるのかね?もちろん、使徒との闘い以外にだ」
あれは、戦場とはいえないな。
思い出したくない記憶がフラッシュバックしたがすぐに返した。
「いいえ」
「そうか、すまなかったな」
それを言うだけで、隊長は黙ってしまった。
一体、何が言いたかったのか。
俺には分からなかった。
なぜ、謝られなくちゃいけなかったのかもだ。

そのことを、帰った後、綾波に話した。
一応、説明しておくが学校はその作戦が終った後、ちゃんと登校した。
作戦は朝早くに始まり、十一時を少し過ぎたときぐらいに終った。
もちろん、戦闘に行ったことについては話してない。
きっと、いい気持ちにはならないだろうからだ。
だから、その隊長に偶然会いさっきの質問をされたという筋書きにしておいた。
予想していたこと――予想もなにもなかったのだが――とは大分違った答えが返ってきた。
「たぶん、その答えで安心したんだと思う」
「えっ?」
屋上は風が強い。今日は特に強い。
俺の視界に前髪がちらつく。
「どういうこと?」
「つまり、私達みたいなまだ子供が使徒戦以外の戦いに出ているかどうかを知らなくて、もし出ていなかったらっていう罪悪感もあったのよ。その人は」
綾波はこっちを向かずに、手すりから身を乗り出して、街を見ながら言った。
そんなもんなのかなぁ。
自分達大人の勝手な都合で若い人間を戦場に出したことに罪悪感を感じて、俺に謝罪をしたのだろうか。
俺は、そういうことで納得しようとした。
「ところで」
今までの、暗い雰囲気はそこで終った。
振り向いた綾波は微笑みながら言った。
「ねぇ、あの話聞いた?」
「あの話?」
「うん、ミヨコさんが夕食おごってくれるって話」
なにっ!?
そんな、話聞いてねぇ。
あの人、俺を飢え死にさせるつもりか。
まあ、一晩食わないでも死にはしないか。
「聞いてなかったんだ」
「ああ」
今日の夜、詮索してやる。
その後、詮索した挙句、今日言うつもりだったといわれるのは言うまでもないな。



おごる……というのは高級レストラン……ではなく、焼肉店だった。
何気に俺は初めてであった。
まあ、自分らで肉を焼いて食うだけなんだが。
意外にもこれが、楽しく、また肉もうまい。
おごりということもあってか、目一杯楽しんだ。
いや、腹いっぱいか。
やはり、というか大人の勝手というか、二次会と称してミヨコさんとレンさんは二人で飲みに行ってしまった。
すでに八時を回っている。
「そういえば、ユウキ君、今日学校に遅く来たけど何してたの?寝坊?」
「いいえ、ユウキさんはちゃんと起きてましたよ」
くっ、いらんことを。
エリちゃんが言ってしまった所為で俺の二つの選択肢のごまかすがほぼ無効化されてしまったではないか。
俺が、返答に困っていると不意に。
「なに?もしかして、人には言えないようなこととか?」
「ち、違うって。まあ言いにくいんだけど……国連の作戦にエヴァと共に参加してたんだ」
「私にはなんの連絡もなかったけど?」
この綾波の言葉が悪かったのだろうか。
エリちゃんが急に大きな声で驚きの声を上げた。
「ふ、二人ってそんな関係……だったんですか?」
最初の言葉が裏返っていた。
よほど、驚いたのだろう。
って、それどころじゃない!
「ち、ちょっとエリちゃんどうすればそんな発想行き着くの!?」
俺が反論しようとした矢先に、綾波がすでに質問していた。
顔が少々、赤い。
それを見た途端急に、俺も顔が熱くなったのが分かった。
「えぇ、だ、だって連絡してくれなかったってことは、つまりそういうことじゃないんですか?」
くっ、その言葉に反応したのか。
次からはもう少し言葉を選んでくれ。
「い、今のはABから私にってことよ」
「えっ?そうだったんですか」
さっきの顔が熱くなったのはどこへ行ってしまったのか。
俺は冷めた気分でエリちゃんの質問の眼差しに頷いた。
話しているとあっという間にマンションについてしまった。
綾波の住んでいるマンションはもう少し先にある。
時計を見たら九時。
もうすっかり辺りは暗くなっている。
「じゃあ、また」
「はい」
「俺、送ってくよ。エリちゃんは先に部屋戻ってていいよ。寒いだろうし」
いくら年中夏だといっても、夏は夏らしく、夜は冷え込むのである。
まあ、蒸している感覚はあるが。
「分かりました。ユウキさんがんばってくださいね」
最後は小声でかすれるように言った。
畜生、遊ばれてる気分だ。
俺にいらん声援を送るとそそくさとマンションの中に入っていった。
「行こうか?」
「別に着いて来なくてもよかったのに」
そういうと綾波は歩き出した。
俺もそれに合わせて歩を進める。
「いや、さすがに暗いし、物騒かなって」
「いつの時代の話よそれ」
綾波は俺を小ばかにするように笑った。
「不審者に時代は関係ないぞ。いつの時代にも変なやつはいる」
「まあ、そうだけどさ。あっ、話戻るけど、作戦って一体どんな?」
その言葉をきいた途端、俺を口をつぐんでしまった。
作戦、命令とはいえ、俺がやったことは人殺しとその手助け。
「どうかした?話しづらいこと?」
綾波が心配そうな顔でこちらを見ている。
「旧東京にABや今の国連に反対するテロリストが隠れてるって情報が入ってきたらしい。それを追っ払えっていう作戦だった」
綾波がそれを聞き、口数が減り、ただ「そうなんだ」といっただけだった。
「エヴァで同じ人類と戦うなんて思わなかったよ……」
俺は沈黙を破りたかった。
息苦しかったから。
「ってことは今日、昼学校で聞いた言葉ってその作戦の?」
「うん、作戦の指揮してるっぽい人が作戦が終った後聞いてきたんだ」
気がつくと綾波が住んでいるマンションに到着した。
う〜ん、うちより高価なマンションじゃないのか?
そんな、気がするほど真新しい、マンションだった。
「今日は、ありがと。送ってくれて」
「いや、別に」
「じゃ、また明日ね」
「ああ」
綾波と別れ、俺は踵を返し、歩を進めた。
……だが、すぐに後ろから声によって引きとめられた。
「ユウキ君!」
少し、距離があったので声は大きかった。
俺は振り返る。
そこには、マンション内部に続く、機械の扉の前に立つ綾波がいた。
「あなたは!……たぶん、正しいことをしたんだと私は思うわ」
それは、同じ人類と戦う作戦に出た、俺への言葉だろう。
しかし、巨大な力を持って、人と戦うのは本当に正しいことなのだろうか。
相手は悪だ、自分達多くの人間に被害を与える存在となる。
一見、そう思う。
だけど、それは戦争するときの強い側の言い分じゃないのか。
綾波の言葉には笑顔で頷いておいた。
でも、俺は本当に“戦った”といえるのだろうか。
“人殺し”や“虐殺”ではないと、胸を張って、自信を持っていえることができない。
家に帰る足取りはひどく、重かった。

頬を撫でる風がすごく、寒く感じた。


To be continued


次回予告

新型のエヴァと新しいパイロットが日本へと向かっている。
一足先に会うという名目でミヨコにつれられて、輸送船へとやってきたユウキ。
だが、そこにはユウキやミヨコのほかにある者も向かっていた。






後書き
シリアスな話は難しいです。
真面目にこっち方面の勉強しようかな。
まあ、しませんがww
そろそろ、一年が終わります。
来年もグダグダな年になりそうですww