新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側

第八話―ささやかなる喜び―




今日は俺の特別な日だった。
年頃の子供なら喜ぶはずの……。


第4ケイジ
「これがGtypeか……」
俺がいるここ第4ケイジには修理を終えたGtypeが置かれていた。
色はメタリック・ブルーで重い感じを受ける。
「だけど、それでこそこのGtypeなのよ」
白衣を着ていつも変わらぬ表情で近くのコンピュータを弄りながらレンさんが呟いた。
"それでこそ"とはどういった意味なのだろうか。
重い印象を見る者に与えるのが好都合、いや見る者が重いと感じるのが当然という意味なのだろうか。
「Gtypeは元々防御を優先した機体でありその『G』は『Guardian(ガーディアン)』守護者という意味なのよ」
レンさんに顔を向けていた俺だったが再びGtypeを見た。
俺のSStypeに比べ少々機械的な感じの顔とボディではある。
だが、それは守護者にだけ与えられた鎧ということなのだろうか。
「パイロットは確か……」
「綾波レイよ」
後から入ってきたミヨコさんに先を越される。
少し苛立ちを覚えた。
あの後高羽さんのおかげで命令違反やら云々は全て白紙になった。
しかし、未だにミヨコさんとはギクシャクしている。



コンフォート34・坂中家
所変わってここは現在俺がお世話(?)になっている……。
いや、正しくはエリちゃんにはお世話になっているが、ミヨコさんに至っては俺とエリちゃんでお世話している感じ……の坂中家である。
何も変わることはなくエリちゃんと共にミヨコさんの出来ない家事を手伝っている。
エリちゃんとの関係は良好だ。特に言い争うこともない。
そんな時だった。
「あ、あのぅ」
不意に夕食の支度をしているときに話しかけてきた。
なんともバツの悪そうな顔をしている。
「ん?」
一体なんなのだろうか。
言うのを躊躇っているのかその眼は泳いで居る。
「……最近、なんかお姉ちゃんのこと……避けてませんか?」
と顔を見た限りでは恐る恐る俺に聞いている。
そんなエリちゃんを安心させる意味でも笑いながら穏やかに言う。
「そんなことないよ。ただちょっとギクシャクしているだけで」
「してるじゃないですか。ギクシャク……やっぱり、私の所為……ですか?」
エリちゃんが言っているのは恐らくこの前の戦闘のときのことを言っているんだろう。
確かにエリちゃんが出てきたおかげというか所為というかそれで命令無視する羽目に俺はなったのだが。
あいにく俺は命令無視をしたという自覚はないわけで。
「違うってば。俺の所為だよ多分。っていうか誰の所為でもないんだよな……責任を負うやつがいるとしたらそれは間違いなく使徒だろう」
そうだ、使徒が攻めて来たからエヴァは発進し、命令なんてもんが存在し、エリちゃんや早崎って友人が命の危険に晒されたんだ。
全部、使徒の所為ではないか。
俺が気にしていないのがわかったのかエリちゃんが前よりも少し軽い表情で夕食の支度を再開した。
そのときミヨコさんが帰ってきた。
相変わらずギクシャクしている。
しかし、それも今日までのことだった。
夕食を食べ終わった後のことだ。
いきなりエリちゃんが声を荒げた。その顔は確実に怒っている。
「いい加減にしてよ!お姉ちゃん!」
ミヨコさんも狐につままれたような表情になった。
まあ、俺も似たような顔をしていたと思うんだが。
「ど、どうしたのよ、エリ」
ミヨコさんが落ち着けといった感じでエリちゃんをなだめようとしているが本人は聞きやしない。
エリちゃんはその剣幕で続けた。
「ユウキさんは皆のために戦ってたのよ!?それをお姉ちゃんが責めることはできないはずだよ!」
瞳を潤ませ、しかし怒りをあらわにした表情で怒鳴った。
俺は、聞いてて『戦う理由』というものを考えさせらた。
エリちゃんは俺が『皆のため』に戦っていると言った。
本当にそうなのだろうか。
俺は一体何が面白くて、何のために戦っているのだろうか。
漠然と使徒が来て俺がエヴァに乗れるからという理由で乗って、戦っていたように感じる。
念のために包帯を巻いてある左肩に痛みが走ったように感じる。
エヴァの痛みはパイロットの痛み……幻痛として痛みが襲うのだが、表面的には滅多に現れない。
回路断線や切断というダメージでシンクロ率が高いと表面的にも痛みが残るらしいが。
俺はそんなことない。この包帯も本当に念のためであり、痛みもない。
ただ、痛んだように感じただけだ。
しかし、俺にはそれが"中途半端な理由で戦っていると痛い目を見る"といわれたような気がしてならなかった。
「ユウキさん、聞いてる?」
さっきとは、打って変わって俺の顔を心配そうな眼で覗き込んでいるエリちゃんが居た。
何があったんだろう?
考えごとをしていて一部始終を逃してしまったらしい。
ミヨコさんを見るとしょんぼりして、肩をすくめている。
どうやらエリちゃんに説教をされたようだ。
妹が姉を叱るのか……。
普通は逆だろう。俺には兄弟がいなかったのでそこらへんの上下関係はよく理解できないけど。
「ユウキ君、その……色々と悪かったわ」
ミヨコさんがエリちゃんから向き直ると俺にそう言った。
ポカンとしてしまったのは事実だ。
「エリの言うとおり、人類のために命を懸けて戦ってくれているユウキ君を責めるということはできないわね。すまなかったわ」
「いえ、仕方ないですよ。立場上、ミヨコさんは上司なんだから、命令違反した人間をまったく責めないというのも変でしょ?」
「ありがと」
ミヨコさんが小さい声でつぶやき、ウィンクした。
エリちゃんは笑っていた。
というのも光景が面白くて笑っているのではなく、微笑ましく笑っているという感じだ。
くっ、俺が年下みたいに感じてきたぜ。
言ってしまうとこれで俺とミヨコさんの使徒襲来が原因のギクシャク問題はこれで終了した。




夜、風呂にも入り終わり、ひとしきりミヨコさんとエリちゃんと俺で騒いだ挙句、寝ようと思い部屋に戻ったときだった。
俺の携帯が突如として震えだした。
「うるさいよ!」
俺はすぐに携帯を静まらせた。
といっても通話ボタンを押して電話に出ただけである。
「はい、もしもし」
『あっ、もしもし、ユウキ君?』
なんと、綾波だった。
綾波が俺に電話をかけてきたのは初めてのことだった。
「綾波か、どうしたの?こんな時間に」
時計を確認するとすでに11時を回っていた。
俺が起きてたからいいものの、俺が寝ていたら出ないどころか出て怒鳴っていただろう。
『う〜ん、なんとなく電話したほうがいいような気がして』
?なんじゃそりゃ。
でも、そのとき俺は少し、ほんの少しだけうれしい気持ちになった。
それは、今日が俺の誕生日であるからだ。
綾波にはもちろん、何も話していない。
だが、あっちが知らず何の気もなしに電話してきたとしても俺はうれしかった。
「綾波……その、ありがとう。電話してくれて」
俺は電話越しだが言ってて緊張した。
『どうしたの?何かあった?』
「いや、なんにもないんだけど……今度話すよ」
『わかった。こっちこそごめん、こんな時間に』
その後、五分ほど雑談した後電話を切った。
今度、話そうと思う。
生涯誰にも話そうとは思わなかった俺の誕生日を。
ん?
誰にも教えようとしなかったらなんで俺、自分の誕生日を知ってるんだ。
……。
まあ、いいや。
考えてもしょうがいないことだろうからな。
俺はそう思い携帯を机に置き、ベッドに横たわった。





その日、夢を見た。
ある少年がどこかを放浪している。
家出したのだろうか、その歩はどことなくさびしそうだ。
しかし、その表情は何故か伺うことができない。
それは俺の知らないところであり、知らない町であり、その少年は俺の知らない少年だ。
バッグを持ち、音楽を聴いているのだろうか、耳にイヤホンをつけている。
一体、なんの夢なのか。
しかも、こうやって鮮明に夢を覚えてられている。
夢を覚えているのはあまりちゃんと寝れていないということだと聞いたことがある。
正しいかどうかは分からないが。
だが、もっと変なのはその夢が妙に現実味を帯び、俺とは無関係だとは思えないからだ。
単なる疲れだったらいいのだが。




To be continued

次回予告
突如出現した複数のパターン青。
その複数の使徒による錯乱攻撃により強大な作戦の実行を余儀なくされるAB。
自ら危険な役を買って出るレイ。
揺れ動くユウキの心


後書き
第八話は本編にあたる「雨、逃げ出した後」の部分と思って書きました。
精神、心の部分ですが、いささか僕はそんなうまく書けないようですね。
そういう、ちょっとシリアスな話自体、あまり好きじゃないからですかね。
でも、やっぱりエヴァはそういうシリアスがあってこそエヴァですよね!?
感想とか批判とか待ってます。