部屋へと入った瞬間、俺を驚かせ、同時に坂中ミヨコという女性への不満を募らせた。
それはというと
「おかえり! お姉……ちゃん? あれ、ユウキさん?」
なんと、シェルター内で一緒だった少女、エリちゃんだった。
なんでこんなところにエリちゃんがいるんだ。
ここは坂中ミヨコさんの部屋じゃないのか!?
ん? 坂中?
俺は一旦部屋を出て表札を見る。そこにはちゃんと『坂中』と書かれていた。
間違ってないよな……坂中、サカナカ……あっ!?
「君の苗字も……確か、坂中……ってこの前妹って言ってたっけ……」
病室でそんなことを言っていたようなことを微かに思い出した。
「で、でも……なんでここに?」
まあ、確かな疑問だな。
いきなり家族でもない人間が入ってきたら誰だって疑問に思うし不安を抱く。
「えっと……ミヨコさんからなんか聞いてない?」
「な、なにも……と、とりあえず上がってください」
「あ、うん」
そう言って上がったというものの何か気まずい。
早く、帰ってきてください、ミヨコさん。
俺は心の中で懇願した。
気まずいと思っている俺とは反対なのかエリちゃんは何か台所でしている。
どうやら夕飯を作っているようだ。
いい匂いがキッチンのイスに座っている俺のところまで漂ってくる。
何か手伝ったほうがいい気がしたがこの気まずい雰囲気をさらに気まずくするような気がしたのでそれはやめておいた。
そのとき、遂に俺の願いが届いたのか鍵がガチャリと開錠される音と、ただいまという声が聞こえた。
エリちゃんは手が離せないようだったので俺が玄関へ向かった。
そこには、玄関に腰を下ろしたミヨコさんがいた。
「はぁ〜疲れたぁ〜……」
なんというか……おっさん臭いな……。
「おかえり、ミヨコさん」
「あっ、どう? エリとはうまくやってるぅ〜?」
一瞬ぶん殴ってやろうと本気で考えてしまったがすぐに冷静になり事情を聞いた。
「いったい、どういうことなんですか?」
「なにが?」
本気で殴りますよ?あなた。
「なんでエリちゃんがいるんですか? 他に同居人がいるなんて聞いてないですよ?」
「あら? 言わなかったかしら? 妹が一人いるって」
「聞いたような覚えがあるようなないような……」
さっき微かに思い出した俺の記憶はどうやら間違ってなかったらしい。
まあ、別に死活問題ではないのだがな……。
「じゃあ、別にいいじゃない? 家族だと思えば?」
「はいはい、分かりましたよ」
半分放り投げる形で俺は会話を中断させた。
この人と会話しても無意味だと悟ったからである。
俺は居間に戻る。
どうやらミヨコさんも俺について居間に向かうようだ。
すでにエリちゃんは夕飯を作り終えているようである。
この匂いは……カレーか?
予想は見事的中、カレーである。
「エリ〜、今日の夕飯は!?」
ミヨコさんが慣れた口調で言う。
見れば分かんでしょうがという文句は引っ込めておく。
対してエリちゃんも慣れた口調で返した。
「カレーだけど……ダメだった?」
「全然、OK」
「ユウキさん、カレーは?」
これは好きか嫌いかを聞いているのだろうか。
それともあなたは食べるのという意味なのだろうか。
少々悩んだ末前者だと思うことにした。
こんな少女から後者のような冷徹な質問を投げかけられるなど考えたくもない。
「えっ?ああ、大丈夫だよ」
「よかった」
にっこり微笑みかけられたので微笑して返した。
なんというか、さすが姉妹って感じである。
エリちゃんが作った美味たるカレーを食った後余っていた部屋を借り、そこで眠ることになった。
うとうとし出した時だった、いきなりガラっと戸が開いた。
軽くビビって跳ね起きるとまではいかなかったがすぐに状態を起こし開けた主を見た。
なんと、エリちゃんだった。
「ユウキさん……話しておきたいことがあって」
ん? 俺なんか変なこといったかな……。
思い当たる節がないままエリちゃんの話を聞いた。
「あのぅ……実はお姉ちゃんと私は本当の姉妹じゃないんです」
「えっ……」
突然の告白で俺は目が点になり、口があんぐり開いたと思う。
「小さいころ、この坂中家に引き取られて……それからお姉ちゃんと慕うようになって……」
「ふぅん……でも、なんでそんな大事なこと俺に?」
「話しておいたほうが……いいかなと思いまして……」
そう言うとエリちゃんはおやすみなさいと言い残すと部屋を出て行った。
その後、何故部外者同然の俺にそんなことを話したのか考えに考えた。
結局答えは出ず、かなり夜更かししてしまったのは言うまでもないことだろうか。
第4新東京市・第壱中学校
学校に行けといわれたのが初登校日、当日とはなんともバカげたことである。
もっと迅速に対応して欲しいもんだ、全く。
不機嫌さ全開で俺は定められた『第4新東京市 第壱中学校』と書かれた学校だ。
この前、三対一という悲劇的なバトルを繰り広げた学校だ。
俺とこの学校とのファースト・コンタクトはバツグンだな。
「名前を呼ばれたら、入ってきてください」
そう、まだ若く、黒い髪の毛を伸ばして、目が大きい女性教師に言われたのだが……この人、オペレーターにいなかったか? A,Bの
「は、はぁ……分かりました」
あえて、聞くことはせず、ここは指示に従っておこう。些細なことさ。
中では生徒だろう、がやがやと騒がしい。
まあ、転校生が来ると聞いて騒がないというのは中学生という年頃ではいないだろう。
男の声が批判的になった。俺来ちゃいけなかったか?
逆に女子の声は少し期待的になった。
期待するな、後々減滅するのである。
「じゃあ、水島君、入ってきて!」
随分、高い大声で名を呼ばれた。
緊張するのは人間のサガだ。
ガラっとドアを開け、教室の中に入り教壇に立つ、断じて教師ではない。
「第二から越してきました、水島ユウキです。よろしく」
軽いお辞儀をする。賛否両論の声がする。気になるな。
指定された席につく。
第二のときあまり変わらない授業が始まった。
AB本部・司令室
「彼は希望だよ。我々の」
カズヒロはそう、つぶやいた。
そして、近くにいたミヨコはそれについて疑問を発した。
「希望ですか? あの少年が?」
カズヒロはミヨコに背を向けているためミヨコにはカズヒロの顔を読み取れない。
言葉を続ける。
「そうだ。誰もがシンクロできなかったあのエヴァンゲリオンW号機……おっと正式にはSStypeだったな。あれに乗り、使徒を殲滅したんだ」
エヴァンゲリオンW号機、正式名称SStypeは綾波レイ以外の人物はシンクロできなかった。
唯一シンクロできた綾波レイでさえもそのシンクロ率は起動指数ギリギリの数値だった。
しかし、ユウキはその誰もが満足にシンクロできなかったSStypeとシンクロした。
「ですが、それは彼を過剰評価し過ぎでは?」
「どういうことかね?」
「いくら、あのSStypeと完璧にシンクロして、使徒を一体を撃破しているといっても偶然かもしれません」
カズヒロは机の引き出しから何かを出し、机においた。
それは、誰もが知っているであろう一番メジャーなカード。トランプだった。
しかも、ジョーカーのそれ一枚だけである。
「ジョーカー……ですか?」
「うむ。決して他の絵柄、数字に縛られないカード。それがジョーカー。似合っていると思うんだが……」
ミヨコはその一枚を手に取る。
その絵柄は不敵に笑い、まるでピエロのような格好をしている。
第4新東京市・第壱中学校
二週間だ、使徒と戦ってから。
新しい生活にも慣れ、真面目に学校に通い、エヴァのテストを受ける。
そんな生活だと自然と友達が出来る……。
「わけ……ないはずなんだが……」
現在俺には一人の親友と呼べる男友達がいる。
俺の隣に座っていたやつで『三沢トシヤ』という。
ノリのいい奴だが頭が悪い。
「なんなんだよ、分数ってよ……二次方程式?なんじゃそりゃ」
ってな感じである。
その授業も無事終り放課後となった。
「おいユウキ、ゲーセンいかないか?」
授業が終るや否や唐突に鞄を持って俺に話しかけてきた。
お前はコンマ一秒で鞄を持てるのか……。
「悪い、今日はちょっと用があるから」
今日はエヴァの射撃訓練があるのでゲーセンで金食い虫になっている場合ではない。
「そうか、わかった。また今度な」
トシヤはこういう面で物分りがいい。
他人に深く突っ込まず用というだけで分かってくれる。
詮索などもしてこないので付き合いやすい。
俺は鞄のベルトを肩に掛け学校を後にした。
AB本部内・訓練所
俺は今エヴァW号機に搭乗している。
プラグスーツというわけの分からんパイロットスーツを着せられてな。
『ユウキ君、私の声が聞こえる?』
「よく聞こえますよ。ミヨコさん」
『じゃあ、予定通りシミュレーションによる射撃訓練を始めるわよ』
目の前にこの前戦った使徒のホログラムが現れる。
いきなり現れてもどうやればよいか分からんが。
『センターが目標を捉え標準が合うからそのとき手元のスイッチ・オン』
逆三角形が使徒を真ん中に捉える。
スイッチを押す。
「カチっとな」
持っている訓練用ライフルから弾が発射され使徒に当たる。
使徒は画面から消える。
『もう一度』
再び別の位置に使徒が出現する。
ライフルの銃口を別の位置に現れた使徒の方へと向ける。
するとセンターが使徒を捉える。
再びスイッチを押す。
AB本部付属病棟
俺は訓練を終えた後、綾波が入院している病室へと向かった。
病室についた時だった。
そこにはレンさんが病室から出てきているところだった。
どうやらレンさんも歩いてくる俺に気づいたようだ。
「あら、ユウキ君?」
「はい」
「どうしたの?もう訓練は終ったんでしょ?」
「はい、一応お見舞いに来たほうがいいかなと」
どうでもいいことだがこの人と話しをしていると心の中を見透かされてる感じがするのは気のせいだろうか。
「他意はないのかしら?」
はぁ?鯛?
う〜ん、家にもないし、スーパーぐらいにしかないんじゃないか。
というか何故唐突に鯛を?
「はぁ、まったく。見舞い以外の意図はないのかということよ」
なるほど。
他の意図ね……。
「ないと思いますけど」
レンさんは俺の言葉に落胆したのかさらにため息をついた。
そして、まるで俺に同情するような眼で
「青いわねぇ……」
どういうことか聞きたかったか「じゃあまた」という言葉に「はい」と反射的に言ってしまったため聞く機会を逃した。
まあ、気を取り直し病室のドアをノックする。
『はい?』
「俺、ユウキ」
自分の名前を名乗る。
中にいる人物は特に時間もかけずどうぞと返す。
俺は病室へと入る。
この前来たときとあまり変わらなかった。
まあ、当たり前か……。
「どうしたの?」
当の本人は微笑を浮かべ俺に聞いてきた。
どうしたではない、どうもしてないでこんなところには来ない。
「見舞いに決まってるだろ?」
「子供じゃないんだからほぼ毎日来なくたって……」
俺は、毎日綾波の病室に来ている。
理由は俺の所為で怪我したことと単純に一人だと退屈だと思ったからだ。
「……来られちゃ迷惑だったか?」
恐る恐る聞いてみる。
迷惑だったら正直困ってしまうのだが。
「べ、別にそんなんじゃないけど……迷惑だなんて」
「そうか、よかった」
俺はそう言って自然と微笑む。
綾波がちょっと頬を赤らめているが気にしないでおこう。
「訓練はどう?うまくやれてる?」
今日の射撃訓練や前回の格闘戦のことを思い出す。
まあ、怒鳴られるようなヘマはしていないつもりだ。
「まあ、順調にやっているといっていいかな。特別怒られるといったこともないし」
「ふぅん……それはよかったわ」
なんか、余所余所しかった。
だから、聞いた。
「どうした? 元気ないけど? 具合でも悪いのか?」
綾波はポカンとした表情を一回したがすぐにいつもの表情になって
「もう具合はいいんだけど……ユウキ君、疲れてない?」
「えっ?」
確かに。
俺はこっちに来てからまともな生活をしていない。
学校に通ったりエヴァのテストや訓練、体を壊さないほうがおかしいんだが……。
「なんだろうな。全然辛くもないし、疲れても居ないだよな〜」
自分でも不思議である。
「それならいいけど……そろそろ面会終了じゃない?」
俺は腕時計を見る。
「ありゃりゃ。本当だ。もうちょっと訓練の時間短くしてもらえないかな」
俺がぼやくと綾波がふふと笑う。
じゃあと言い俺はベッドの脇に置いてあるパイプ椅子から立ち上がる。
ドアを開ける前に手で会釈を交わし、俺は病室を出た。
翌日のことだった。
いつもどおり学校に通ったはいいが授業中に突如として携帯が鳴り響いた。
皆の注目を浴び、教科担当の教師ににらみつけられた。
俺は苦笑いを浮かべながら携帯を取り出すとそこには「AB 緊急」と表示されている。
さっきの苦笑いはどこへいったのやら俺は焦り
「先生、ちょっと用事で早退します!」
俺は言うな否やすぐに教室から逃げた。
なんか待てとかそんな声がしたが急がなくては。
AB本部・発令所
AB発令所
そこでは新たな使徒を確認していた。
それは地中から姿を第4新東京市付近に現した。
「発見できなかったの!?」
ミヨコが発令所に来た途端怒鳴った。
それに一人のオペレーターが答えた。
「地中から侵攻してきたようで探知が遅れました!」
ミヨコは使徒の映ったモニターを睨む。
そこには細身の使徒が今まさに地中から這い出てその全身の姿を露にしたところだった。
「総督!エヴァ発進の許可を!?」
ミヨコは振り返り一段高い場所のカズヒロを見る。
カズヒロもそれに頷く。
「うむ。SStypeを出撃、迎撃だ!」
「了解!」
別モニターでは今まさにユウキがエヴァSStypeのエントリープラグに乗り込んだところだった。
To be continued
次回予告
欠けた絵札。
それはAB、人類に対して何をもたらすのか……。
希望、破壊……それとも。
第四使徒襲来前までを書ききりました。
もう一話プラスしようかと思いましたが長々とやってもしょうがないので。
新キャラの三沢君、安心してください空気にはしないつもりです。
えっ?いえいえ、某アニメでは空気扱いなので(笑)