新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側
第四話―闘いの刻―





エヴァンゲリオンについて使徒戦役と呼ばれる戦いが終ってから、政府は正式にこれを発表した。
それが、目の前にある…これが、エヴァンゲリオン。
その後頭部と思われる部分しか見えないが、それが確かにそこにあるというのが感覚的に分かった。
「あれが、エヴァンゲリオン……」
「そうだ、そして……言いにくいことだから、覚悟して聞いて欲しい、いいかね?」
高羽さんはゆっくりとはっきりと、真剣に俺の目を見て言葉を選んで話していた。
それが、直感で分かった。
「はい」
「よし……君が、これに乗って現在迫ってきている使徒と戦うのだ」
「!?」
パニック状態になった。いや、パニックに陥ったのだと頭が判断しているからまだいいだろう。
頭の中では謎の被害妄想が爆発的スピードで脳を汚染しているし、口はパクパクして、何かを言おうとしているのにうんともすんとも俺の口は言葉を発しない。
だけど、感覚的な何かはこうなることがすでに分かっていたんだろと騙りかけてきているようだった。
「どうかね?ユウキ君」
「い、いえ、あ、あのう…ど、どうとか…そ、そういうわけじゃなくて…で、ですね」
なんか、しどろもどろで口が言葉をちゃんと外に出しているのが分かった。
何も、言わないよりはマシだが、非常にかっこ悪い。
しかし、そのときだった。
「乗っちゃ……ダメ…………!」
聞き覚えのある声+苦しそうな声が聞こえてきた。
俺が、入ってきたほうのドアだ。
「れ、レイ!」
さきほど、高羽さんの後ろにいた女性が叫ぶ。
レイって…綾波!?
俺は、入ってきたほうのドアへと振り向いた。
そこには、包帯を巻き腹部を押さえながら壁に寄りかかっている変わり果てた姿の綾波レイだった。
「あ、綾波、どうしたんだよ!?それ!」
俺は駆け寄って支えた。
全体重が俺にかかるがそんなのはまったく気にならなかった。
「彼女は先の戦闘で重症を負った」
「何故なんですか!?」
「彼女がエヴァのパイロットだからだ。W号機で出撃し、重症を負ってしまった」
綾波は明らかに辛そうであり、出歩いていいものなのかどうかさえ怪しいものだった。
俺が支えているにも関わらず肩で息をしている。
「なんで…なんで、君が…」
最大の疑問だ。
何故、綾波のような女の子が兵器の…エヴァのパイロットをやっているのかが。
「だ、だって………わ、私……は、え、エヴァに…乗れるんだからっ!………」
…………。
要はやれるならやるってことか…。
今の、綾波の言葉がその全てを物語っていた。
「俺が、乗ります!」
進んだ歩は戻れない。
だったら、直進して、敵の王将を倒すのみ。
「いいのかね?ユウキ君」
「俺の気が変わらない内に……お願いします!」
「分かった、坂中三佐!ただちにW号機発進の用意だ!」
「了解!」
坂中と呼ばれた先ほどの女性は敬礼するとすぐに部屋を飛び出してどこかへと行ってしまった。
そして、俺は黒服の人たちに促された、どうやら、エヴァのところに行けということらしい。
支えていた綾波をそっと寝かせた。
「死ぬ………わ…よ…?」
搾り出すような声で綾波は俺に言う。
死ぬということをシェルター内ではあんなに怖かったのに今は、何故か怖くなかった。
「綾波を頼みます!」
俺をそんな気分にさせた張本人、綾波に少しだけ微笑み俺は黒服の一人に促されて格納庫内へと向かった。
その笑みには八割が『どうなってもしらないぞ』という念のこもった笑みだったが残る二割は間違いなく感謝の気持ちがこもっていた。





格納庫

エントリープラグと呼ばれる物の中に俺は座らされた。
ここがコクピットと呼べるものに等しいところらしい。
しかし、なんなんだ、この感じは。
既往感とでもいうのだろうか、何か昔ここに座った覚えがあるような気がする。
『ユウキ君、大丈夫?』
さっき坂中と呼ばれていた女性が無線なのだろう、話しかけてきた。
「はい、大丈夫です。坂中さんでいいんですよね?」
『ええ、命令は私が出すからよろしく』
「こちらこそ……」
無線から声は消え、女性の声だろうか。
なにやら専門用語を並べている。
おそらく、エヴァンゲリオンの発進準備を進めているのだろう。
だが、そのとき足元からオレンジ色の液体と思しきものが上がってきた。
「うわぁ!?なんなんすか!?」
『大丈夫。LCLといって肺に取り込めば直接血液に酸素を取り込んでくれるものよ。すぐに慣れるわ』
坂中さんとは違う声色の人の事務的な声が無線越しに響いた。
そのまま、堪えていることは到底できないと思い仕方がなく口を開け、LCLと呼ばれたものを飲んだ。
「うぅ……マズい……血の味か…」
それは血特有の鉄のような味がした。
まあ、鉄を食べたことなどないのだが。
しかし、その水の中に居るような感覚はすぐになくなった。
しばらくすると、エントリープラグの壁が透けて回りが見えるようになった。
人類の科学力に俺は驚いた。
そして、またもや何か訳の分からない言葉が無線を通して聞こえる。
『シンクロ率51.2%。ハーモニクス全て正常です』
の声とともに辺りが騒がしくなった。
発進準備という大きなアナウスが聞こえた。
いよいよ、だな。
どこかにエヴァは移動し、固定されたようだ。
そして、坂中さんの発進の声でものすごいGが掛かるとともに上に飛び上がる感覚に見舞われた。
ウェ、気持ち悪くなった。



そうだ、これは一つのゲームなんだ…。
そう思えたらどんなに幸せかと、今の俺は思う。
本当に"普通"の日常を送っていたのがひどく懐かしく感じられる。
だけど、俺は自らその"日常"を非日常に変えてしまったと思っている。
しかし、後悔するなら、全て終わってからだ。
今は、目の前にそそり立っているあの、忌々しい気持ちわるい未知の生き物を倒すことだ。


W号機は止まっていた。
カタパルトから地上に射出され、後は最終安全装置を解除するのみとなった。
だが、それが解かれずにW号機は未だに最終安全装置を解除されてはいなかった。
そして、ザキエルが動き出した。
目の前のW号機を敵と見直したのだろう。
徐々に近づいてくる。
それは、確実にW号機を好意的に捕らえておらず闘争本能丸出しだった。
「おいおい……冗談だろ……?……動けないじゃないか!?どうなってるんですか!?」
ユウキはエンリープラグ内で叫んだ。
それを察したミヨコは最終安全装置を解除する命令を出した。
W号機の最終安全装置は解除されW号機は動けるようになる。
『まずは相手の出方を見て……相手は触手とビーム砲みたいなものが主な攻撃方法よ』
「……分かりました……」
W号機は近くのビルに隠れる。
ザキエルは気づいているようでそのビルに向かい侵攻する。
幸いなことに足はそんなに速くはないらしい。
「坂中さん、武器はないんですか?」
『肩にナイフが入ってるわ!』
W号機は肩からナイフを取り出す。
プログナイフと呼ばれるこの武器はW号機に唯一内臓している武器だ。
ザキエルが丁度ビルの前まで来た。
「いまだっ!」
W号機はビルに手を掛け一気にジャンプし、ザキエルの側面に立った。
「このぉ!!」
W号機はナイフをザキエルに突き立てる。
しかし、それはオレンジ色の壁のようなもので防御される。
『A.Tフィールド!?』
『データ通りね……あとはエヴァが使えるかどうかね』
レンは冷静に状況を整理した。
人類とてバカではない。
19年間何もしなかったわけではない。
使徒のデータを解析していたわけだ。
ザキエルは顔のようなものから出した触手でW号機を攻撃する。
だが、W号機はそれを横飛びで避ける。
「坂中さん、なんなんですか、アレ!?」
『A.Tフィールドと呼ばれる使徒の防御手段よ。エヴァが使えれば無効化できるんだけど……』
今度は後ろに避けながらユウキは叫ぶ。
「どうやって使うんですか!?」
『それが、分からないのよ、スイッチみたいなのもないし……』
「無責任な……うぐっ」
ザキエルはうまく触手を使いW号機に足払いをした。
見事にW号機はそれに掛かってしまい派手に転んだ。
「うぅ……あっ!?」
上を見上げるとそこには触手をうごめかせて接近してくるザキエルの姿があった。
『早く、起き上がって!ユウキ君!』
ザキエルは触手でW号機の頭を掴む。
そして、上に持ち上げる。
棒のような腕をW号機の腹部に接触させる。
『ユウキ君、避けて!』
「えっ……?」
刹那。
ザキエルのW号機に突きつけた腕の先が光った。
さらに、W号機の腹部付近が煙に包まれる。
「うぐぁ!!………」
ユウキ片手で自らの腹を抑える。
ザキエルは残酷なことに二度、三度と同じ攻撃を繰り返す。
『ユウキ君!?全神経カット!早く!』
遂にW号機の腹部に穴が開き、ザキエルのビーム砲が後ろのビルを貫いた。
腹部は大量におびただしい量の血を噴出している。
それが、ザキエルにまで飛び散っている。
『腹部破損!パイロット応答なし!』
オペレーターがミヨコにそう告げる。
『現時刻を持って作戦を放棄する!プラグを強制射出しろ!』
そう怒鳴ったのは総督であるカズヒロであった。
それを聞き一呼吸置いてミヨコが
『し、しかし、総督!使徒が未だに!』
『パイロットの安全が最優先だ!急げ!』
レンは緊急用のプラグ強制射出スイッチを押す。
しかし、それはW号機には受信されなかった。
『ダメです!信号拒絶、受信しません!』
『なんだとっ!?』



『ここはどこだ……?』
真っ白に輝く空間。
そして、優しく暖かい感じ。
まさに、癒される。
そんな、空間だった。
『これが天国ってやつなのか……』
そう思った瞬間。
目の前がある光景に変わった。
ある男二人が胸から血を流して倒れている。
そして目の前の台座には終了の合図を出すためのボタンがあった。
それはまさしく……ROE!?
『ミノハル……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』



そのときだった。
W号機の黄色く光っていた目がいきなり赤色に変わった。
そして、その閉じた口が遂に開いた。
機械的な音が静まった第4に響いた。
刹那。
空気が震えるのが肌で分かるぐらいの大きなエヴァW号機の咆哮が轟いた。
エヴァW号機は再起動した……。
『W号機再起動しました!』
『動けるはずはないのに……!?まさか』
『W号機内部から高エネルギー反応!S2機関が稼動しています!』
すると、たちどころにW号機の腹部は修復されていく。
『W号機の腹部復元しました!』
S2機関の最大の特徴は自己修復と無限稼動。
永遠のエネルギーを持ち、それを利用する再生能力を有する。
極めて強力なユニットである。
再起動したW号機はすぐさま体勢を立て直しザキエルに向かって一直線に走った。
ザキエルは触手でW号機を捕まえようとするがW号機はジャンプしザキエルの後方に回る。
『す、すごい……あんなことが!?』
そして、後ろから羽交い絞めにしようとする。
ザキエルはA.Tフィールドを展開したが
『W号機からA.Tフィールドの発生を確認!中和していきます!』
W号機もA.Tフィールドを発生させ、ザキエルと中和。
両者のA.Tフィールドは消滅する。
ザキエルを羽交い絞めにしたW号機はそのまま後方に投げ飛ばした。
奇麗な弧を描き地面にものすごい勢いで落下するザキエル。
W号機はそれにまた追い討ちをかけるごとく馬乗りになる。
両腕のビーム砲をザキエルはW号機に向かって発射しようとするが逆にW号機は両手を使いそのビーム砲の砲門を塞いだ。
その腕が暴発し使えなくなる。
なおも、ザキエルは触手でW号機を掴もうとするがW号機は触手が出ている顔の根元からそれを千切り取った。
そして、丁度ザキエルの真ん中にある赤い球体目掛けてW号機は殴る、殴る、殴る、殴る。
ガラスにひびが入るような繊細な音がするとW号機は攻撃を止めた。
『も、目標……パターン消滅しました』
発令所に一人のオペレーターの声と様々なうるさいまでの電子音が響いていた。


To be continued



次回予告
圧倒的な力でザキエルをねじ伏せてしまったW号機。
しかし、まったく覚えてないユウキ。
悪夢の鐘は未だに鳴ることを知らなかった。


後書き
初の使徒戦でした。
いや〜、普通に倒そうか暴走で倒そうか迷いましたよ。
ここは、エヴァ本編と同じにしてみました。
『おいおい、ただのパクリじゃぇかよ』といわれたら否定できません。
感想とか批判とかお待ちしてます。