新生希エヴァンゲリオン未来の向こう側
第弐話―始りの前のハードル―





翌日のことだった。
やはり次の日も日本は暑かった。
市長の用意してくれた部屋で一晩過ごしたのだがやはり、慣れていないからかもしれないが寝心地は悪かった。
いや、別に俺は枕が変わったら眠れないという人間ではない。
しかし、朝は苦手である。すでに誰かが開けれてくれたのか窓のカーテンは開けられておりそこからまぶしいぐらいの光が煌々と部屋を照らしていた。
まったく、いい迷惑である。寝ているのだからカーテンを閉めたままにしてくれればいいのに。
しばらく、ベッドの上でボーっとしていたがいい加減20分もそうしているので起きた。
その部屋には洗面台やトイレ完備とさすが次期首都の市役所といったところだろうか!
支度を済ませて部屋で暇をつぶしていた。
昨日の説明で部屋にあるものは自由に使っていいということだったのでテレビを見ることにした。
この時間朝のニュースか、お子様向けのアニメしかやっていない。
しかし、案内の人とかが来てもいいような気がする。
『さて、次のニュースです…先日発表された情報によりますと今年の『Project ROE』は過去最低の5人となりました。ですが、政府はこれを黙認しているようです』
そのとき俺の奥底にある忌々しい記憶があがってきた。
『Project ROE』の『ROE』が何を意味するかは今でも分からない。
だが、あの計画は最悪の中の最悪だった。地獄の中――といっても行ったことはないけど――に狂った殺人鬼が徘徊しているようなもんだ。
頭をぶんぶん振り、その記憶を頭の隅に押し戻す。そしてテレビを消す。
プツンという音とともにテレビには何も映らなくなった。部屋の中が沈黙で一杯になる。
俺は沈黙が好きではない。だから、俺は部屋を出た。





廊下はガランとしていた。誰もいないようだ。
赤色を基調とした綺麗に装飾されている絨毯が奥の見えないところまで続いている。
廊下には窓があり、そこからさんさんと光が入ってきている。
外からは音が聞こえている。人がいる証拠だ。
現在時刻は九時。少しお腹が空いたころである。
気分転換ということもあり廊下を少し歩いきに行って再び部屋の前に戻ると綾波が立ち往生していた。
俺は普通に話しかけた。
「どうしたの?」
「えっ…う〜ん、ユウキ君起こしに着たんだけど入りづらいな〜なんて……ってぇ!?」
「俺はここにいるけどね」
ポカンと口を開けた綾波は学校で皆に配られたプリントにただ一人だけ誤字を見つけてしまった瞬間のような顔をしていた。
だが、だんだん頬が赤くなってきていた。
自分が誰もいない部屋の前で立ち往生している姿を想像したのだろう。
まあ、俺にはさっきまで見えていたのだが。
ちょっと、からかいたくなってた。
実行しろ、了解だ!
「どうした?頬が赤いぞ?」
「な、なんでもないよ!」
俺は顔を近づけた。
第三者が見ればキスする勢いだ。無論、そんなことはしない。
しかし、綾波、何故目を瞑る?しないってば。理性のHPが20減った。
自分の額を綾波の額にコツンと当てた。
「熱でもあるのか?」
「っ!?」
新必殺技『なんでもないのにおでこで熱計り』だ!
我ながら強い技を編み出した。
目の前に綺麗な紅の瞳…そしてその瞳の奥に俺の目が映っていた。理性のHPが30減った。
おまけに、この距離だと分かるが透き通るような白い肌が五センチほどの距離にある。理性のHPが10減った。
やばい、変な気を起こしそうだ。
「ない、みたいだな……よかった、よかった」
俺は理性が宇宙の果てを目指すNA○Aのロケットのように飛んでいくのかと思ったときに首の皮一枚で理性は繋がってくれた。
や、ヤバイな。あの技は封印だ。封印。理性のHP全回復。危なかったぜ。
「私は大丈夫よ!………はぁ〜……びっくりしたぁ〜」
ごめんと頭を軽く下げる。怒るかなと思ったが案外軽く受け流してくれたようだ。
まあ、まだ顔が赤いのだがな。
あれ?俺の部屋の前で立ち往生をしていたってことは俺に何か用があるからではないのか?
「ああ、そうそう、朝食だから呼びに来たの」
昨日は土曜日だったのである。そして今日は地球が逆回転などをしていなければ間違いなく日曜日である。
そして休日、学校はない。
綾波は普段着だった。気づかなかった。昨日はなぜか制服で紫色を基調としたこの時代には珍しいセーラー服だった。
まあ、セーラー服は嫌いじゃない。
話が反れた。やっと朝食か。
「朝食は食堂で取るから…案内するわ」




そこは市役所の一階にあり一般人も利用可能な一般的な食堂だった。
まず、券売機で食べたいものが書かれた券を買いそれを受付に渡す。
あとは、待っているだけだ。
出来上がったら取りに行けばよい。まあ、普通の食堂だ。
俺はカツ丼で綾波は野菜定食だった。
う〜ん、野菜で飯が食えるのだろうか。
「十分、私は食べれるけど……」
俺はムリだ。野菜は悪魔で野菜であってだな…。サラダなんかにちょこんとあるのがいいんだ。
「ふ〜ん……あっ、カツいただき!」
油断していると俺のカツ丼からカツが一切れ消えていた。
綾波はおいしそうにそれを食べている。
うぅ…不覚だったぜ。
俺は残った味付きのごはん(これがうまいんだな)とあと一切れしかないカツを口に入れ、水を一口飲み、流し込む。
「ごちそうさま…なかなか、うまいな……」
「私も、食べ終わったよ…」
「今日、俺の予定なんか聞いてるか?」
「うん、なんか見せたいものがあるから食べ終わったら来てくれって、市長が」
「ふぅん…じゃあ、行くか」
俺は食器を持ってテーブルを立ち上がり、受付に食器を返し食堂を出た。




綾波の案内で市長室まで来た。
ノックをして部屋の中に入る。
だが、そのときだった。耳をつんざくような警報音が建物の中だというのに響き渡った。
な、なんなんだ…火事か?
「ち、違う……こ、これはっ!?」
綾波が明らかおびえていた。
一体、なんなんだ…地震?それとも竜巻発生?
そのとき側面の扉から血相を変えた市長が『ドン!』という非常に大きな音を立てて入ってきた。
一体、どうしたというのだ?訳がわからない。
「大変だ!ユウキ君は急いでシェルターへ!!レイは私と!」
「はい!」
「えっ…ちょっ…シェルターって!?」
いきなりシェルターに入れといわれても地元ならともかくここは第4新東京市であってだな…。
つまり、どこがどこのシェルターか分からんのだよ!
綾波と市長はもう行っちまったし…どうすりゃあ、いいんだよ!
とりあえず、俺は市役所から出た。
外は大変なことになっていた。
あからさまに戦闘機と外見でわかるような部隊が山のように俺の頭上を飛んでいった。
このご時世に戦争か?いや、そんなことはないだろう。
ただでさえ、セカンドインパクトで人口が減っているのに戦争してどうするんだよな。
じゃあ、いったいこれは…。
『住民の皆さんは速やかにお近くのシェルターへ!避難してください!』
俺の上の今度は小さなヘリが飛んで言った。
見てみると、どこかのテレビ局のものだったらしい。
「シェルターってどこだよ……」
そのとき俺の目の前を少女が走り去った。
ん?あっちか。
しかし、俺が振り向くと少女はこちらに迫っていた。
どうしたんだろう。道を間違えたとか。
「あ、あのう…あなたは昨日助けてくれた人ですよね?」
昨日。
はて、昨日は手助けなどしただろうか…。
綾波に強引に拉致られて、中学校に行って喧嘩して…。
う〜ん、重そうな荷物を持っていたおばあさんや道を渡られないおじいさんの手助けをした覚えはまずない。
中学校といえばこの中学生っぽい。
ん?中学校…?拉致…?喧嘩…?
あっ、思い出した!?
脅されていた女の子か…?
「もしかして、昨日中学校で喧嘩したとき近くにいた」
「というか、当事者です!」
うぅ、俺の感…というか記憶は当たっていたか。
少女は俺より年齢は一つ下らしい。
今は一緒に逃げている。
否。シェルターに向かっている。
しばらく走ると、人がぞろぞろと中に入っていく場面に出くわした。
その近くには軍服を着た人間が『急いでください!!』と叫んでいる。
「あそこです!」
「ああ、ありがとう、もう、ダメかと思ってたよ」
「いえ、役に立ててよかったです」
二人してシェルターへと入る。
すでに中には結構な人が入っていた。
シェルターの中は質素であり、剥き出しのコンクリートの壁と天井、床。
横には小さくお手洗いと張り紙されたものが張ってあるところがある。
綺麗で新品のような新しさがあるがこんなところではそれは殺風景なものでしかなかった。
その中には老若男女と様々な人間がいる。
以外と第4新東京市にいる人間は多いな。
などと、天然的な考えかたをしていると
「うわぁ、人多いですね」
君もかい。
まあ、それはともかく、一体何が起こっているんだろうか。



水島ユウキが考えているほど外の状況はよくはなかった。
何故、国連軍の航空隊や戦略自衛隊の戦車などが出動しているのか。
それは…ついに始まった、『第三次使徒襲来』
その一匹目が現れたのである。
『3A−601 3rd Apostoleザキエル』が襲来した…。
国連軍は攻撃を試みるもやはり、使徒にはA.Tフィールドが備わっているのでまったく歯が立たない。
「何故、落ちない?」
「くっ、やはり前年どおりA.Tフィールドか…」
第4新東京市の地下に作られている『エンジェルバスター』本部の指令執行所には国連の上層部も来ている。
「やはり、我々には再び『アレ』を使う以外の策はないのか……」
「総督!!第三機動隊、全滅しました!」
作戦部の長である『坂中ミヨコ』は上で戦闘を眺めている国連の上層部の一人に叫ぶ。
対して、上層部は
「第二機動部隊を回せ!少しでもいい!時間を稼げ!『アレ』を起動させる…」
「し、しかし、パイロットは?」
「少々、心配だが、GtypeのパイロットをW号機に搭乗させて、出撃だ!」
ミヨコは少し躊躇したがすぐに緊迫した表情に戻り
「了解!レン、W号機の状態は?」
白衣を着た20代ぐらいの女性『矢藤レン』はモニターにコマンドを打ち込んだ。
すると、現在稼動できる状態のエヴァンゲリオンの詳細な情報が表示される。
「ちょっと、待って……今は、問題なし!すぐに起動できるわ」
ミヨコは頷き、すぐ前に座っている女性オペレーターに発進の旨を伝える。
「了解しました………坂中三佐…」
「なに?」
「W号機のパイロット候補の人はどうするんですか?」
「分からないわ、とりあえず、現状維持よ」
「分かりました、W号機を300秒後に発進させます!技術要員は急いでください!」
300秒後、全身が灰色にカラーリングされていて少し鈍い感じの印象を受ける。
顔は獣のように口がありその目は赤く塗装されている。
そして全身は人間の体系を維持するかのように細身でスリムである。
それが『エヴァンゲリオンW号機』である。
W号機は前の参号機と四号機を参考に作られた安定した能力を持つ汎用性の高い性能を持っている。
それが安置されている第13ケイジでは出撃の準備がされている。
そこにパイロットが入ってくる。
その容姿は水色のショートカットであり、紅の瞳を持っている女の子であり、綾波レイだ。
白い、スーツを着ている。
「操縦はほぼ、Gと変わりませんから」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
白い筒のようなものにレイが搭乗する。
これがエントリープラグであり、エヴァンゲリオンの後頭部に挿入され、そこから操縦を行うのである。
「パイロット搭乗を確認!エントリープラグ挿入」
エントリープラグがエヴァに挿入される。そして、LCLと呼ばれる液体がプラグを満たす。
これは、直接血液に酸素を送り込み、なおかつ、シンクロを助け、そしてパイロットを衝撃から守るものである。
電化されると透明になり、液体すらも見えなくなる。
「シンクロ率で…23%…やはり、W号機では高くありませんね…」
「構わないわ、今、戦えるのはW号機だけなんだから…起動指数に達したのがすごいわ。ミヨコいけるわよ?」
「分かったわ、レイ、いいわね?」
『はい!』
「エヴァンゲリオンW号機、発進!」
ミヨコが叫び、W号機が固定されていた射出台が上に勢いよく射出される。
激戦を強いられていた郊外に一つの巨人が現れた。
灰色の色で太陽の輝きを鈍く反射させている者。
エヴァンゲリオンW号機である。
「絶対に、負けるもんか………!」
レイはエントリープラグの中でつぶやいた。

To be continued

次回予告
『使徒戦役』時同様、圧倒的な攻撃力を誇る使徒。
選ばれた、少年。
少年の未来に待つのは幸か不幸か……。
人類は再び最大の岐路に立たされていた。


後書き
皆さんお気づきかと思いますが主人公の搭乗機はエヴァW号機です。
今言えることはそれだけですのでご理解のほどを……。
さて、ザキエルとは偽典『エノク書』に登場する『嵐』を司る天使です。
ジャ○ーズのグループとはまったく関係ありません(笑)
使徒は全てオリジナルですので攻撃方法を新しく考えるのは結構大変です。
感想とか批判とか待ってます。