まるで春のよう……いや、夏のような暑さだった。
ただ、じっとしているだけで汗はたらたら流れてきやがる。
セカンド・インパクトにより夏は年中夏状態になってしまった。
もう、45年も経つというのにそれはまだ解決がされていない。
いや、もう解決されることはないだろう。
それこそ地球を一から始めるようなもんだ。
俺は今第4新東京市駅にいる。
しかし、駅とは名ばかりの殺風景な場所である。売店はおろか自動販売機も数えるほどしかない。
まあ、駅だからといって自動販売機がたくさんあるわけでもないが。
ここで市長が迎えを寄越すと紙には書いてあった。
待ち合わせまでまだ10分はある。
俺は近くのベンチに座った。
しかし、新たな首都予定地といわれているけど大して人はいなかった。
これならまだ第二東京の中心地の方が活気にあふれている。
う〜ん…何故人がこんなにもいないのだ。
ちょっと、怖くなってきた。
ほら、アレだ。
皆こっちにいるだろうと思って待ち合わせ場所に行ったとき自分の他に誰もいなくて、来てないのか、俺が遅かったのかっていうちょっと一人でも気まずい気持ちだ。
しかし、そんなのは杞憂でしかなかった。
黒い車が俺の前に止まった。
自転車一つない駅前にその黒い車は目立っていた、というかこの場にそぐわないというか。
いや、別に変ではないのだ。
ただ、なんとなく、この現代科学を推移を集めて作りましたといわんばかりの街に謎の黒い車がポツンと一台…。
「水島ユウキ様……ですね?」
俺の思考を破るように低いしかしいい響きという声が聞こえた。
その問いかけにマジメに答えてしまう。
言葉にはそれ相応の威圧感というべきものがあった。
「はい…」
「市長がお待ちです……どうぞこの車へ」
出てきたのはこりゃあ、また黒い服を着た老人だった。
サングラスをしており、なんか、外見で判断するとギャングのような雰囲気の持ち主だ。
それでも老人と分かったのは白い髪の毛がちりじりになっていたからだ。
俺は促されるままにその車の後部座席に乗り込んだ。
その車の中は綺麗に掃除が行き届いており、リムジンに乗せられている感覚に襲われた。
乗るとその車は走り出した。見ると速度は40…通常の街の制限速度は30であったはず…。
第4新東京市の制限速度はもしかすると、自由なのだろうか!?
などと、俺は自分でも意味不明な事を考えていた。
しばらくして俺は運転している先ほどの老人にいきなり、失礼だと躊躇したがここは質問することが常識に勝ったようだ。
「あの……どういったご用件なんでしょうか?」
バックミラーで見えたのだがそのとき確実にこの老人は表情が変わっていた。
ちなみに、さすがに危ないと思ったのか、サングラスははずしている。
この炎天下、別にサングラスをしていても大丈夫だとは思うが。
「それは……市長にお会いしていてからということで…」
その言葉は大量にある言葉の中から選出されたように、よく、選んで発した言葉のようだと俺は思った。
バックミラーで見えたが口を開いては躊躇してという動きをしていたからだ。
「そんなに重要な件なんですか?」
「ええ、まあ」
さすがに、俺は心配になってきた。
迎えが話さないということはそれだけ重要な件だということだ。
そう老人が言った瞬間車が止まった。急なことだったため心拍数が少しだけ上がったのが分かった。
着いたのかと思い俺は前を見るとただの赤信号だった。
青信号になり車は発車した。安定した、心拍数は急発進によりまたもや少しだけ上昇した。
第4新東京市内はまったく活気がなく、まるで死んだ世界のように静まり返っていた。
なんなんだろう……この違和感。
人っ子一人いない町なんて……。
そう、思うと自分が禁断の地にいるような間隔に陥り身震いした。
「つきました。お降りください」
老人がそう言うと勝手にさっきの右側のドアではなく左側のドアが開いた。
俺は条件反射のように車の外に出た。
さっきまでクーラーの効いていた車の中にいたので外の温かい空気の中に出ると暖かさと同時に安心感が俺の心に現れた。
すでに車は屋内に入っていたようでどこかの駐車場のようだった。
「こちらでございます…」
そこはエレベーターのようなものだった。
俺と老人はそれに乗る。
どうやら最上階へと向かっているようだ。今、昇っている階を示すランプは1、2、3、と事務的に書かれた階数をともしているだけである。
デパートのように二階にはあれがあり、三階にはこれがありといった案内のようなものは一切なかった。
ドンッ…という振動とチンという音とともにエレベーターのドアが開いた。
しばらく、長い廊下が続いた。
だが、それだけだった。廊下の合間に通路はなく、また左右に小部屋もない。
そして、少し大きく、豪華な装飾がなされた扉が目の前にあった。
老人がその扉を開く。
俺はその部屋に入る。
そこは市長の部屋のようであり奥には長くて大きな机があり、そのまた奥に市長だろうか…中年の男性が椅子に座っていた。。
「来たかね……待っていたよ…水島君」
俺はまず、最初に疑問に思っていたことを正面からぶつけた。
「一体、本日はどういったご用件で…?」
「実際の件は明日なのでね……今日は適当に街を見物してくれて構わんよ。荷物はそこの者に預けてくれて構わん」
「は、はぁ…」
俺は少し拍子抜けした。
市長が直々に人を呼ぶってことは結構重要な用件だと思ったのだが…。
街のことについてなのだろうか…。
まあ、いいか、いや、よくはないのだが。
明日まで待ってやるさ。今強引に聞いても相手に悪い印象を与えるだけだ。
せっかく見物していいと言っているんだから素直に見物することにしよう。
次期首都予定の街も見てみたい気もする。
おっと、その前に
「あっ、一つ質問してもよろしいでしょうか?」
俺は一つだけ気になったこと――というか呼ばれたことについても気になっているのだが――質問した。
「なんで人っ子一人居ないんですか?」
「ああ、そのことか……今日は休日で人が少なくなっているだけだ」
「ああ、そ、そうですか…わ、分かりました…」
なんだ…他に何か重大な理由が隠されているのかと思ったが違ったか…。
いや、違ってよかった…。
俺は内心ホットしたがそのとき市長の横にある側面のドアが勢いよく開かれた。
軽くびっくりした。
それはもう、扉が壊れるぐらいに。実質、金具が『キィ〜』という音を立てて開いた反動で元に戻ろうとしていた。
「ったく、一体なんなのよ!」
シ〜ンと静まりかえっていたこの部屋に、一つ大きな音…いや、声が響いた。
その声の発信源となっていたのは水色の綺麗な髪の毛をショートカットにし肌は透き通るような白色の俺と歳が同じぐらいに見える少女だった。
学生なのだろう、水色を基調としているセーラー服を着ていた。
だが、その瞬間頭の中に何かがひっかかるようなものがあった。
一瞬デジャヴだとか、前世の記憶かとも思った。
それだけ、印象強かった。
だが、そんな考えは捨て、勘違いだろうと思い特に気にも留めなかったが。
「どうしたんだ?レイ」
市長が多少慌ててレイと呼ばれたその女の子に問い掛けた。
レイ……れいどこかで聞いた様な名前だ…。
「あいつらまた下級生をいじめてるのよ!ったく……恥というものを知らないんだわ!…………ん?」
そのときその女の子の目線が俺を捕らえた。
その瞳は日本にいる人間としては珍しく…というかいるのか分からないが赤かった。いや、カラーコンタクトなのだろうか。
でも、すべてを見透かされているような目で綺麗な瞳だった。
その瞳に少しだけ見とれていたんだがすぐに近寄ってきて俺の顔を見るなりこう怒鳴った。
追加しておくが、その瞳は多少『いいこと思いつきました』という色がなかったでもなかった。
「あなた喧嘩経験は?」
「はぁ?」
俺は気の抜けたような変な声を発していた。
いきなり喧嘩の経験を聞かれたら誰だってびっくりするだろ?
「まあ…人間として一回や二回ぐらいは…」
この言葉が原因となったのだろう。
でも、まあ実際は顔と女子生徒に人気があるって理由だけで絡まれていて明け暮れているとまではいかないが喧嘩回数は常人より多いと感じていた。
いきなり手をグイと引っぱられてどこかへと連れて行かれた。
市長が『案内もしてあげなさい』と女の子に叫んでいるが聞いちゃいないね。俺が市長の声を聞き取れたのも奇跡に近い。
っていうかそこの黒服の人、客人が拉致されるのを何故助けないのだ!?
そこは俺が奇跡的にコンマ一秒のタイミングで正門に書いてある名前を見ることができたので『第壱中学校』ということが分かった。
この子の学校なのだろうか。
そこには男三人で男二人と女子一人をいじめているような現場だった。
「アレよ……なんとかならないのかな?」
いや、俺を無理やり連れてきて無計画ではないか?
っていうかあの凄みがどこいったのだろうか?
「どうせ、ああいういじめはただの暇潰しだからすぐに終ると思うけど……」
俺はレイという女の子の顔を見た。
その顔、その瞳はあきらかに俺になんとかしてくれと頼んでいるような瞳であり少々潤んでいた。
いや、そんな眼で頼まれて断れる男はゲイぐらいです。
俺の『そのまま見ている』という選択肢は10秒懸からずにキャンセルされ人間として勇ましい、『助ける』という選択肢が選択された。
案の定、頬を一発、腹に二発、ぐらいのダメージを受けたが全員をノックアウトさせた…。
「さすがに……ハァハァ…一人で三人はきつかったな……手伝ってくれればよかったのに」
俺は女の子、綾波レイを見る。
ちなみに綾波レイは俺が男三人とバトルを繰り広げている間に下級生と共に逃げたらしい。
白状な人だ。
「アハハ…ごめんね。でも、私女だし…いると足手まといになりそうだったから。とりあえずこの第4新東京市を案内してあげる!って手当てしなきゃまずいかな?」
「当たり前だ……腹はなんとかなりそうだが頬がちょっと……ッ!!!」
頬が痛い。なぐった男はきっと鍛えてるやつだ。
うん、そうに違いない。
「じゃあ、市役所に戻ろうか?」
「あ、うん、そうしてくれるとありがたいよ」
綾波レイが携帯を取り出してどこかに電話した。
たぶん市役所だろう。
何故、市役所が車を出してくれるのか分からなかったが俺がいたからだろうとこのときは思っていたんだ。
少し待っていると黒塗りの車が止まった。
俺をさっき駅から市役所に運んだ車と同じものだった。
俺たちは後部座席に座った。
綾波レイが俺に質問したのは車が発進してからすぐだった。
「ねえ、まだ名前聞いてなかったよね?私は綾波レイ、よろしく」
綾波レイ…?
…アヤナミレイ……あやなみれい…って…ちょっと待て!
「綾波レイってネルフにいたエヴァパイロットの?」
「ち、違うわよ。皆そう言うんだけど私は別人。正真正銘、同姓同名なだけだから。第一、本人なら残党狩りで殺されてるでしょ」
「そっか…ごめん。俺は水島ユウキ、俺、ユウキでいいから。よろしく」
俺は右手を差し出した綾波も握り返してくる。
握手だ。
まあ、同姓同名であって当然なのだ。
ニュースによるとネルフ及びエヴァンゲリオンは解体、破壊されたはずだから。
もしも、ここにいるのが本物ならこんなところにいられるはずがない。
ネルフは人類にとっても危険な存在とされ現在そのネルフに所属していた者は全員指名手配となっている。
しばらく車が走っていると市役所へと到着した。
市役所についてからは結構ごたごただった。
まず客人である俺が被害にあったと市長は思い込み俺を治療室に呼び出し綾波には説教するというちょっとしたいざこざがあった。
治療といっても腫れた頬にシップを張ってもらったということだけなのだが。
「ごめんね、私の所為で」
「これぐらい…それにあんまり悪かったとも思ってないだろ?」
「へへっ、バレたか」
綾波はそう言ってクスリと笑う。
うぅ…その微笑みは禁止ですね。破壊力バツグンです。
などとふざけたことを考えつつも俺は本題を述べる。
本題と言ってもさっきから何で俺が第4に呼ばれたかというのは教えて欲しいんだが明日になれば分かるということなので違うことを言う。
さっき綾波も言おうとしたことだ。
「第4新東京市を案内してくれない?日帰りでもないみたいだしさ」
「そうだね…じゃあ、行こう」
俺と綾波は第4新東京市へと再び出た。
昼ごろになるともう人も増えてきていた。
そこら中にはサラーリマンが汗を流し、若者が携帯をいじりながら下を向いて歩いていて、車が地球に悪影響を及ぼすガスを勢いよく吐き出している。
第二でも見慣れた光景だった。
いや、第二のほうが栄えているがな…。
「どう?賑やかでしょ?第4は」
「まあな……でも、まだ第二のほうが賑やかかな…もっとうるさいぞ、あっちは」
「ふ〜ん…今度案内してよ?」
「うん、いいぜ」
そんな雑談しつつこの街一番という商店街へとつれてこられた。
そこは人がごった返している…なんてことはなかったが人は多くスーパーや商店も左右に余すところなく敷き詰められている。
「住民は、大抵ここで物を買うのか?」
「うん、まあね……でも、やっぱりいろんなものがそろってるデパートに行っちゃうことが多いかな」
「へぇ…」
第二は一旦、街に出ればありとあらゆるもの(とはいかないが)が手に入る。
昼に出ればウザイ人ごみが、夜に出れば怪しい店が何軒もありネオンが暗く、しかしはっきりと光っている。
「やっぱり、夜は怪しい店があるのか?」
一応、聞いておくことにする。
大意はない。
「う〜ん…良くは知らないけど……たぶん」
「そ、そうか…やっぱりこんぐらいでかい街になると変わらないのか…」
「じゃあ、次行きましょ!」
『次、次!』と俺の腕を掴みひっぱられる。
結構強引だな…。
次に案内されたのは学校だった。
どこにでもあるような普通の学校であり、さっき俺がいじめの三人組をKOした学校だった。
俺のさきほどの目は間違っていなかったようだ。
正門にはちゃんと『第壱中学校』と書かれている。
「私の通ってる学校なのよね〜」
「へぇ……」
軽くさきほどの頬が痛み出したのはこの際伏せておこう。気のせいということにしておこう、うん、そうしよう。
そして次で最後というところに案内された。
そこはこの第4新東京市が見渡される公園だった。
展望公園という名前だ。遊具はあまりなく座るためのベンチが四つと、自動販売機、噴水、トイレなどしかなく自然公園のようでもあった。
まぶしいぐらいに光っている太陽がこの公園を照らしている。
今は昼だから見晴らしいいぐらいだと思ったが同時に夕方になるときれいになるだろうと思った。
「すごいでしょ?お気に入りの場所なんだ…」
そう言って綾波は第4新東京市を見渡していた。
無礼かと思ったが横顔を見てみた。
そのときだった。
その光景に何かの光景が重なった気がした。
幻覚だと思い頭を振り目を瞑る。
もう一度開けると元に戻っていた。
綾波の水色の綺麗なショートカットの髪の毛は風に少しだけなびき綺麗に揺れていた。
こう言うと恥ずかしいがものすごく可愛かった。
結構長い間といっても10秒ぐらいだったと思うが綾波が俺が見ていたことに気づいたようだ。
「どうかした?」
「い、いやぁ……な、なんでもないよ」
ちょっと声が裏返ってしまった。
頬が赤く、熱くなるのを感じる。
さっき殴られたからではなさそうだ。
そのときカチっと俺の腕時計の昼時を告げる普通とはちょっと違う大きめな効果音が俺の耳に入った。
「十二時だ……」
昼飯時である。
「そろそろ、戻ろうか…?」
「うん、お腹も空いたしね…」
俺たちはまた他愛のない雑談をしながら市役所に戻った…。
To be continued
迫りくる使徒…。
対抗しうる兵器エヴァンゲリオン…。
対使徒対策組織『Apostle Buster』
人はまた、過ちを繰り返そうとしていた…。
後書き
えっと、まず一言。
対使徒対策委員会『Apostle Buster』のApostleは猫神さんの作品『The World To Redo』とは一切関係ありません。
いや、ただ使徒って意味がエンジェルじゃありきたりかなと思いまして……。
それに伴いプロローグの方も改変させていただきました。
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