『シンジ君!とりあえず歩くのよ!』

「どうすればいいんですか?」

『意識を集中して歩く事だけ考えて!考えるだけでいいのよ!』

「はい、歩く・・・・。」

(歩く・・・歩く・・・。)

ズウン・・・!

「「「「おおおっ!」」」」

「やった!」

「歩いたわっ!」

初号機が歩く、発令所に声が上がった。

「・・・・成る程な・・・考えた通りに動いてくれるのか・・・なら・・・。」

ザ・・・ザザン!!

初号機が構える。プラグ内のシンジは目の前の使徒を見据えた。

「・・・みんな・・・絶対帰るからな・・・。」







新世紀エヴァンゲリオン
〜何が為に僕は戦う〜
第二話  生きるか、死ぬか






構えたまま動かない初号機、腕をだらんと下げたまま動かないサキエル・・・。
音も無く対峙する巨人達・・・・。






静寂






「「「「・・・・・・・。」」」」



シンジがジリジリと距離をつめる。




静寂




「・・・・・・来る!」

シンジがそう言ったと同時にサキエルの手に光が集まる。

シュオオオオ!!

「それは・・・見た!」

ザン!!!

ビュウウウン!!!

初号機の顔を狙いサキエルが光の矢を放つ。
シンジは体勢を低くしてかわし、使徒の懐に潜り込む。

「・・・おおおおっ!!」

ゴガン!!

ゴッズガッ!!

ガゴォン!!!

「!!!!」

ズダアァン!!

初号機がサキエルにラッシュ、止めのソバットが使徒を吹き飛ばす。
発令所のスタッフ達はその動きに驚愕した。

「嘘でしょ・・・。」

「すごいわ・・・あんな動き・・・本当に初めてなの!?」

正面モニターでは倒れたサキエルに対して初号機が追い討ちをかけようと飛んだ。
そして初号機の跳び蹴りが使徒の顔らしき物に直撃・・・しなかった。

カッ!

「っっ!!??」

ズバアアアン!!!!!

倒れていたサキエルの顔のような物が光り、ビームのようなものが放たれた。
ビームは空中にいた初号機の防御を固めた腕に直撃、初号機は吹き飛び兵装ビルに突っ込む。

「うわあああああっ!!!!」

ドガアァン!!!!

『シンジ君!!!』

「うぐ・・・うぅぁぁっ・・・・。」

防御した初号機の腕は焼け爛れている。
シンジは激しい幻痛で腕を押さえて呻く。

『シンジ君落ち着いて!!それは幻痛よ!!』

「くっ・・・くそぉっ!!!」

『早くっ!早く起き上がるのよ!!!』

「しまっ・・・!!!」

カッ!

ドガアアアアンン!!!

またサキエルの顔が光り、ビームが放たれる。
初号機の後ろの兵装ビルが吹き飛ぶ、シンジは初号機を横に前転させ何とか回避。

ザッ!!

「この野郎ぉっ!!」

ヴォン!

ガァキィン!!

「なっ・・・!!!バリアー!?」

シンジは初号機を即座に立ち上がらせ、サキエルに突撃するが。
オレンジの光の壁に阻まれる。
発令所のリツコとミサトは目を見開いて声を上げた。

「「A・Tフィールド!?」」

「やはり使徒も持っていたんだわ!フィールドを張っている限り使徒には近づけない!」

『くっ・・・!ならどうすれば!!!』

シンジが発令所に指示を仰ぐがA・Tフィールドを解いたサキエルが初号機に襲い掛かる。

「!!!」

ガッ!

ガキン!

ゴン!

シンジも接近戦は望む所、サキエルとの格闘戦を繰り広げる。

「っ!!!」

シンジはサキエルの腕を弾き、拳を叩き込もうとするが、
サキエルはバックステップ、初号機はそれを追い蹴り込むがまたもやA・Tフィールド阻まれる。

ガキィィィィン!!

「くそぉッ!!またかよっ!!!」

ゴガッ!

ゴォン!!!

「ぐわあっ!!」

ドオオオン・・・・

A・Tフィールドを解いたサキエルに蹴り飛ばされ、初号機は後ろに吹き飛んだ。

『シンジ君!!大丈夫!?』

「うっ・・・は・・・はい、いけます・・・えっ?」


シンジの顔が見る見る青くなっていく・・・


「う・・・嘘だろ・・・。」



シンジが倒れたままふと見たビルの間の路地の中・・・


そこには瓦礫の下敷きになった少女が。



「ミっ・・・ミサトさん!!!人が!!!!」

『何ですって!?』

「くそっ・・・くそおっ!!!」

シンジは初号機で駆け寄り地面に片膝を着き、少女を下敷きにしている瓦礫を除ける。
少女は意識が無いのか全く動かない、シンジは初号機の手で拾おうとするが、
初号機の後ろにはサキエルが近づいて来ている。

「俺のせいだ・・・俺の・・・俺の・・・!!!」

『シンジ君!後ろっ!!!』

ミサトの声でシンジは顔で後ろを向く、サキエルの腕に光が集まる。

「なっ!!やめろおおおおおおっっ!!!!!」

初号機がサキエルの光っている腕を体で押さえ込む、次の瞬間。



ドシュン!!!



「ぐうぅぅぅっ・・・てんめぇっ!!!」

ガッ!ボキィッ!!!

「・・・・ふぅぅぅぅっ・・・!!」

ドゴムッッ!!!

光の矢が初号機の腹部を貫く、シンジは激痛に耐えながら掴んでいたサキエルの右腕を折り
左手を握って腰に、一歩前に出ながら姿勢良く右手を突き出す。
サキエルはかなりの距離を吹き飛ぶが、
貫かれた腹部から血のような液体が噴出す。

「ふ・・・腹部破損!!」

女性オペレーター、伊吹マヤが声を上げる。

「救助班はなにしてんの!!!すぐ向かわせて!!!!
・・・シンジ君!!お願い、もう少し・・・あと少しだけ頑張って!!
すぐ救助させるわ!!!」

『・・・・・・。』

「シンジ君!?」

『・・・・・・。』


「シンジ君!?大丈夫なの!?返事をして!!!」





『・・・・・俺は大丈夫ですから・・・あの子を・・・・・。』





「シンジ君・・・っ!」







何と言う子だろう・・・ミサト達は思った。
どこで鍛えたかは知らない。だが、いくらシンジが強かろうが14歳の子供である。
その14歳の子供が生きるか死ぬかの戦いに突然半ば強制的にほうり込まれ、
幻痛とは言え自分達が味わうものならすぐにでも気を失いたくなるような激痛。
そのような凡人なら死の恐怖で足がすくむだろうところで彼は痛みに耐え、恐怖を噛み砕き、しかも少女の盾となれるのだ。
ミサト達は何もできずに少年を無理やり戦場に駆りだすことしかできない自分を呪った。
今にも涙が・・・溢れそうだった。




サキエルが起き上がる。
初号機は腹部から血を流しながらも一歩ずつサキエルに近づいていく。



「・・・・・ここより向こうには行かせない・・・!」



サキエルの顔が光る。




『シンジ君、避けてぇっ!!!』


ミサトが悲鳴のような声を上げる。
シンジは動かずに両手を広げ叫んだ。



「止まれええええ!!!!」





キイイン!

ドガアアンン!!!




ビームは・・・初号機の前にできた光の壁に阻まれる。




「初号機、A・Tフィールドを展開!!!」

「何ですって・・・そんな!!??」

「えっ?・・・う・・・嘘・・・。」

マヤがかなり驚いた様子で手元のモニターを見つめる。

「どうしたの!?報告しなさい!」

「せ・・・先輩。初号機、シンクロ率80%を越えています!!」

「「う・・・嘘でしょ!!?」」

発令所は小パニックだ、無理も無いが。






「・・・・マジで出せたよ・・・・。」

シンジ本人が一番驚いているようだ。
勿論シンジはA・Tフィールドの展開方法を知らない。
だがミサトやリツコ達の会話でエヴァも張れるかもしれないと思った、それだけだ。
まさに・・・賭けだった。

そのまま耐える初号機・・・。
来させないという強い意志がサキエルの攻撃を全て阻む。






そのままの状況が少し続いた後、男性オペレーター、日向マコトの声が上がる。

『民間人を無事回収!!!』

この声を聞いたミサトはガッツポーズを取りシンジに言う。

『よっしゃあ!!シンジ君、反撃開始よ!!!』



「ハイッ!!!」



片手しか使えない相手の懐に入るなど容易い事、
初号機は高速でサキエルの懐に入り、いかにも弱点ですって感じの光球、コアを殴りつける。

ガキィン!!

少しコアにひびが入った、シンジは見逃さない。

「それかあっ!!!!」

ドガァアン!!

ゴガアアアァァン・・・!!

初号機の蹴りがサキエルのコアに直撃、
コアの亀裂が大きくなりサキエルが吹き飛びビルに突っ込む。

『シンジ君!!止めっ!!!』

「了解!!」

ダンッ!!!



初号機が夜の空に舞う・・・そして寸分の狂い無くサキエルのコアに前宙をしながらの踵落としを叩きこむ。

「らああああああっ!!!!」

ズガアアアッ!!

ガキイイイイン!!!!

サキエルのコアが砕け散り、コアから光が漏れる・・・
サキエルは十字架のような光を上げ爆発した。

ドゴゴゴゴォォォォォォン・・・・・

発令所のモニターでは爆発の光で何も見えない・・・。
誰もが言葉を忘れている。
爆炎が晴れる、そこには・・・悠然と歩く初号機が。

「初号機、パイロット共に生存確認!!回収班出動して下さい!!」

マヤの声で発令所が動き出す。

「・・・・・・・。」

『シンジ君!!大丈夫!?』

プラグ内のモニターにミサトが映り通信してくる。
シンジは微笑んで親指を立てて答える。

「・・・はい、大丈夫です。任務完了、帰還しま〜〜す!」


「「「「「ワアアアアア!!!」」」」」

シンジが明るい声でそう言った瞬間、発令所に歓声が上がる。




『そうだ!!!』

シンジのいきなりの大声、発令所は何事かと静まり返る。

『ミッ・・・ミサトさん!!あの子は・・・!?』

「安心して、ちゃんと病院に搬送したわ。」

『ありがとうございます!!良かった・・・!良かった・・・!』

そう言うシンジの笑顔は本当に嬉しそうだ・・・。
発令所の人々は、そんなモニターに映る心優しき少年を微笑み眺めていた。

「もう・・・この子は・・・感謝したいのは・・・こっちだってのに・・・。」

ミサトは涙を目に溜め・・・震える声で・・・そう呟いた。







===エヴァ初号機、ケイジ内===

バシュウウウ・・・!

初号機からエントリープラグが抜かれる。
シンジがアンビリカルブリッジに降り立った。

「・・・ふぅ・・・何か妙に疲れた。・・・それに何かベタベタする。」

「シンジ君!!」

「あっ、ミサトさんだ・・・お〜い。」

ガバッ!

「うぶえっ!」

走ってきたミサトにいきなり抱きしめられる。
シンジは意味がわからないままミサトの胸の中。

「ふがふが・・・ぶはぁっ!ミ・・・ミサトさん!?どうした・・・。」

「うっ・・・うっ・・・。」

「ミサト・・・さん?」

「シンジ君っ・・・!」


ミサトは・・・泣いていた。
セカンドインパクトで親を失い、それの原因とされていた使徒を憎み。
復讐の為に・・・父親の仇を取る為にNERVに入ったようなモノだった。
その為ならどんな手段も厭わない、そう考えていた。
14歳の子供を無理やり戦場に送ろうが心は痛まないと・・・そう思っていた。
だが、涙が出た。傷ついた少女を守る為に戦地に立ち、
逃げ遅れた少女の為に自分を盾にし、激痛に耐え戦う少年を見て。
「ありがとう」・・・自分が真っ先に言いたい言葉を彼は自分に言ったのだ。
自分が情けなかった、憎しみで戦っていた自分が。

「ごめんなさい・・・ごめんなさいシンジ君。」

「・・・・・。」

「私は・・・最悪だわ・・・。アナタのような子を・・・あんな事に・・・!」

「・・・・ミサトさんは・・・違いますよ。」

「・・・違わないわ・・・!」

「いいえ違います、だってミサトさんは・・・こうやって僕を抱きしめて、泣いてくれてるから。
暖かいです・・・ありがとうございます。」

「ううっ・・・くっ・・・。」

「あらら・・・。」

どうやらいっそう泣かしてしまったようだ。



・・・2人はしばらくそのままでいたが。
シンジはゆっくりとミサトを離す。

「泣かないで下さい、ミサトさん。」

シンジはミサトに微笑む、ミサトも微笑んだ。

「シンジ君・・・ありがとう。」

「どうもいたしまして。」

バシュッ・・・

その時ケイジ内の自動ドアが開き、ゲンドウが入ってくる。
シンジはミサトから視線を離し・・・ゲンドウを見る。

「・・・・・・。」

「・・・碇指令。」






「シンジ、話とは何だ・・・。」

「ああ・・・そうだったな。」

シンジがゲンドウに近づく。

「・・・シンジ、私は忙しい。」

「そうあせんなって・・・少し話したいだけだよ。」


カッ・・・

シンジがゲンドウの目の前に・・・止まった。




「・・・俺はあんたを恨んでた。母さんを死なせて、俺を捨てた。
今日は、ホントは来る気はなかったんだけどさ。でもトワコさんが行ってみろって言うから来てみたんだ。」

シンジが拳を握る。

「・・・やっぱり来ないほうが良かったよ・・・こんなあんたを見たくなかった。
許せると思ってた・・・でもやっぱり許せない、アンタだけは。」

ズドムッ!

「ぐっ!」

シンジの拳がゲンドウの鳩尾にめり込んだ。

ガッ!

バキィッッ!!

「うっ・・・!」

ズザアア・・・

下がった顎を膝でカチ上げ、顔面に渾身の右ストレート。

「シ・・・シンジ君!」

駆け寄ろうとしたミサトをシンジが振り向き手を上げて制する。
シンジが倒れているゲンドウに向き直る。



「・・・・でも・・・これで許してやるよ。
このままアンタを憎んだままここに居るってのは・・・嫌だから。」
            
「ほら・・・立てよ。」

ゲンドウの手を取り立たせるシンジ。

「・・・俺の話はこんだけ。殴ったりしてゴメンな、父さん。」

「・・・・・ふん。」

立ち上がったゲンドウは何も言わず・・・自動ドアの向こうに消えていった。

「ちぇっ・・・無口な奴。さてと、ミサトさん!」

「なっ・・・なにかしら!?」

「あの、レイって言ってたかな?その子と戦っている時にいた女の子とのお見舞いに行きたいです。
案内してほしいんですけど駄目ですか?」

「え〜っと・・・。別に構わないんだけどね。シンジ君、今真夜中よ?」

「あれ、そうだったか・・・。どうしよう。」

「疲れてるでしょう?今日は休んで、明日行けば?」

「そうですね・・・わかりました。で、俺の家は?」

「ええ、本部がアナタの為に用意した個室があるの案内するわ。」





===NERV本部内・シンジの個室===

「ここよ、シンジ君。」

「はい、ありがとうございます。」

「明日迎えに来るからねん♪んじゃ、おやすみなさい。」

「はい、お休みなさい。ミサトさん。」

シンジが自動ドアのカードスリットにI・Dを通す。

ピッ

シュン・・・。

その部屋はかなり広く綺麗な部屋だった、
そこらのホテルよりかはかなり設備等は充実している。

「うわっ!凄い部屋だな、どうなるんだろうな〜俺。」

「ね・・・寝るか・・・な?」






===司令室===

「・・・いいのか碇、ゼーレのシナリオとは違うぞ。」

「・・・問題ない。」

「・・・・くくっ。」

「なんだ冬月。」

「そんな顔を見て笑うなと言うほうが無理だろう?碇。」

「・・・・・ふん。」

「だが、シンジ君は変わったな。報告書とはまったくの別人じゃないか。
とても見てて気分がいい少年になったな、碇。」

「・・・・・ふん。」

「素直に悪かったといえばいいものを・・・不器用な男だよ・・・お前は。」

「・・・・・。」



半ば呆れながらも微笑む冬月、
・・・ゲンドウはその顔に作られた腫れが引くまでトコトン冬月に苛められそうだ。



NEXT・・・・・