===NERV本部・道場===



NERV本部内にある道場、主にパイロットの格闘訓練に使われる場所だ。
今ここでシンジが格闘訓練の真っ最中。

「・・・おおっ!!!」

バキッ!

「むんっ!」

ガッ!ドッ!

ガガッ!

「おりゃあっ!」

「はっ!!」

ダガァン!!




「そ・・・それまで!!」




「・・・嘘でしょぉ・・・・。」




審判をしていた男が信じられないという顔で声を出した。
見学していたミサトも口を開いてポカンとしている・・・何故なら・・・・・。
初めての格闘訓練、いくらシンジが白兵戦が得意だといっても相手は戦自から引き抜いたプロ、
勝てるわけわないと思っていた。だがシンジはそのプロとほぼ互角の戦いを繰り広げたのだ。
たった14歳の少年が・・・・・・驚くのも無理は無い。




「ありがとうございました。」

「あ、ああ・・・シンジ君、君は一体どこで鍛えたんだ?
その身のこなし、本当に14歳とは思えん・・・。」

「ええ、前に住んでたと所で色々教えてもらって・・・。
・・・五条ヒデキって知りません?」

「あの五条流古武術の!?彼が師か・・・どうりで。」

「なんか違う格闘技の技とかいれてて目茶苦茶になってますけど。」

「ははは、確かに・・・じゃあシンジ君今日はここまでだ。」

「はい、ありがとうございました。」

「ああ、またな。」

「ミサトさん、行きましょうか。」

「え・・・ええ。」





パシュン・・・



「・・・凄いな彼は、荒々しくも・・・動きに無駄が無い。危なかったな。」


教官が胴着の袖を捲り上げる・・・シンジの攻撃を受け止めたその腕は
真っ赤に脹れ上がっていた。




新世紀エヴァンゲリオン
〜何が為に僕は戦う〜
第五話     歌と敵意


「すごいわねぇシンジ君、流石格闘レベルはかなりのものね。」

「そんなまだまだです・・・それに射撃の腕もあまり上達しませんし。」

「でも三日前よりはかなり良くなったわよ。これならお姉さん安心して指示できるわ〜。」

「そう言われると嬉しいです。」

「ねぇシンジ君、これからどうするの?」

「ええ、弁当渡しに綾波の所に顔だそうかと。」

「シンジ君ったら毎日飽きないわねぇ〜、まさかレイの事を・・・♪」

「レイの事を?」

「またまた〜シンちゃん、しらばっくれて〜!」

バシン!とミサトがシンジの背中を叩く。
ミサトは笑顔で去っていった。



「いてて・・何なんだ?」













===NERV病院・レイの部屋===




「こんにちは、綾波!」

「ええ、碇君・・・こんにちは。」

「はい、今日の弁当。た〜んと食ってな。」

「あ・・・ありがとう・・・。」

シンジがレイに弁当を差し出す。
レイは頬を染めながら受け取った。

・・・レイの病室に来るようになってから五日程が経つ。
もうレイはギブスも取れ、包帯もほとんど無い。近日退院と言う話らしい。
それに・・・なんだかレイの雰囲気が柔らかくなったような気がする・・・

「・・・どう?」

「・・・おいしい。」

「良かったよ。」

シンジは学校でレイの話を色々と聞いた、誰とも何の会話もせず、友達も無く、笑う事すらない・・・・。
ずっと無表情でただ居るだけ・・・シンジはショックだった。
確かにそんなに口数の多い子ではない。
表情も全く変わらないので不思議な子だと思っていた。
シンジは気付いたのだ、レイがよく言う言葉「わからない」。
そう、レイが感情や、言葉・・・それらを知らない事に。

「・・・おいしい。」

「豆腐ステーキ、気に入ったみたいだな。」

「ええ・・・。」

レイは、初めは弁当の中身を全て食べれなかったが、
少しずつ食べてくれるようになっている。
今日は完食したようだ。

「お、きれいに食べたな。お粗末様。」

「おいしいから。」

シンジはこの少女に教えてあげたい、友がある喜び。
笑える楽しさ。他人が居る暖かさ。
自分では役不足かもしれない・・・だが、何もせずにはいられなかった。
これは孤児院で様々な傷を持っている子供達と接してきたシンジなりの優しさだった。





「・・・・ふぁ・・・。」

レイが小さく欠伸をする。
シンジは優しく微笑み。

「眠いの?」

「・・・・。」

レイはコクリと頷く。

「はは・・・じゃあ俺帰るよ。今度学校で会おうな。じゃあ御休み。」

「あ・・・・。」

シンジが椅子を立ち出て行こうとするが何かに引っ張られた。
・・・ギュッとレイがシンジの制服の裾を掴んでいる。

「ど・・・どうした?綾波?」

「・・・・・。」

「・・・眠いんだろ?」

「・・・・・。」

レイが頷く。

「う〜ん・・・何?言ってごらん?」

「・・・・歌。」

「歌?・・・ああ、子守唄?聞きたいの?」

「・・・・暖かいから・・・その・・・。」

レイが顔を赤くしながら振り絞るように言う。
シンジは子供を安心させるようにレイの頭を撫でながら言う。

「いいよ。さ、横になって。」

俯き加減でレイがベッドに横になる。
ふぅっと息をつき、レイの肩でリズムを取りつつ呟くようにあの歌を歌った。












サァァァ・・・・

風がカーテンを躍らせる。

「すぅ・・・すぅ・・・。」

「はは・・・ホントに寝よくてるなぁ・・・。」

シンジがレイの髪を撫でて、椅子を立つ。

「おやすみ、レイちゃん・・・って同い年の子にこりゃ無いか。」

「すぅ・・・すぅ・・・。」


プシュン・・・


病院の外に出たシンジ、シンジはジオ・フロントの集光ビルを眺めていた・・・。

「さてと・・・もう昼か。学校行こうかな・・・?」

ピピピピピピピ・・・!

ミサトから渡された携帯電話の着信音が鳴り響く。
シンジは携帯電話をポケットから取り出し発信ボタンを押し、耳に当てる。

「はい、もしもし。」

『シンジ君、非常収集だ!急いで!!』

「・・・・!ハイっ!!」




















NERV発令所、巨大モニターの中には第四使徒シャムシエルの姿。
コイツもあまりセンスが良いとは言えない。
イカのような姿にピンクのカラーが吐き気を誘う。




「総員第一種戦闘用意!!」


ミサトが覇気のある声で言う。


『第三新東京市、戦闘形態に移行します。』

『兵装ビル、現在対空迎撃システム稼働率48%!』

「・・・碇指令の留守中に第四の使徒襲来か・・・。思ったよりも早かったわね。」

モニターの使徒を見ながらミサトが言う。
その言葉にマコトが答える。

「・・・前は15年のブランク・・・今回はたったの三週間ですからね。」

「こっちに都合はお構いなしってことね。」

「女性に嫌われるタイプだわ。」

兵装ビルからの集中砲火を全くものともせず飛行するシャムシエル。
男性オペレーター・青葉シゲルが受話器を片手に声を上げた。

「葛城一尉!委員会からエヴァンゲリオンの出動要請が来ています!」

「うるさい奴らね、言われなくても出撃させるわよ。」

「・・・シンジ君、準備はいい!?」

モニターにエントリープラグ内のシンジが映る。
シンジは気を落ちつける為に瞑想中だったようだ。
シンジが静かに目を開ける。

『・・・・・・はい。』


「いい?シンジ君。敵A・Tフィールドを中和しつつパレットの一斉射。練習通り大丈夫ね?」

『はい、大丈夫です。』



「エヴァ初号機、発進!!!」



ガコン!


バシュウウ!!!


ミサトの声で初号機が打ち上げられた。









===第334地下避難所===




「ちっ・・・まただよ。」

「なにがや?」

ケンスケにトウジが話しかける。

「見ろよ、ほら。」

ケンスケがトウジに持っているビデオカメラを渡す。

「また文字ばっかし、僕ら民間人には何も見せてくれないんだ。
こんなビッグイベントだって言うのに〜。」

「お前ホントに 好っきやなこーゆーの。」

「うう〜〜っ、一度だけで良いからみたい〜今度はいつ敵が来るかわかんないし・・・・。」

「なあトウジ。」

「なんや?」

「内緒で外でようぜ。」

「あほかっ!!外でたら死ぬやないか!!」

「ここにいたってわかりゃしないさ。」

「・・・ワイは行かんで。」

「何でだよトウジ、一度だけでいいんだ。見たいんだよ!」

「ワイは何言われても行かへんで、
シンジが人守る為に死にそうになっとるところ、ワイは一度見とんねん。
一度助けられとんねん、もう迷惑掛けたくないんや。」

「迷惑なんて掛けないって、遠くから見るだけだからさ。」

「委員長!ケンスケが外出たいとかアホな事言うてますぅ!!!」

トウジがいきなり叫ぶ、委員長ヒカリはケンスケのあまりの非常識さに・・・。

「なぁぁんですってええ!!!」

怒髪天。

「バッ・・・トウジ!!何てことを!!」

「じゃかましい!大人しくしとれ!!」

「相田ぁぁぁ!!碇君に迷惑でしょうが!!」

「違う!!俺はただ・・・!」

「「じゃかましい!(おだまりっ!)」」



緊急避難命令が出たならばシェルターに非難しなければならない事など小学生でも分かっている。
無断で出たりすれば法律で罰せられるということも。
そんな中でただの好奇心で外に出たいなど笑止千万。
このカメラ少年・相田ケンスケは戦闘が終わるまで延々とトウジとヒカリからお説教を喰らった。












ガァアン!!


初号機がビルの中から姿を表す。
初号機がパレットガンを取りシャムシエルの前に出る。

「はぁ・・・ふぅ・・・・っ!!!」

バッ!!

(・・・目標をセンターに入れて・・・。)

「スイッチ!!」

ドドドドドドドッ!!

声と共にトリガーを引く。
パレットガンから放たれた弾はシャムシエルに直撃する。

ガガガガッ!!

「・・・・!」

着弾煙が上がる。シンジはシャムシエルの姿が見えなくなる前に射撃を切り移動。
そしてまたトリガーを引く。

ドガガガガガッ!!

百発百中とはいかないが弾は当たっている。
だがシャムシエルは全く聞いている素振りをみせない。
回り込むように移動しつつ射撃を続ける。

「少しは痛そうにしろ・・・っ!!」

『シンジ君、焦らないで!!』

「はい・・・・ん!?」

射撃をいったん止めるとシャムシエルが振り向く。
そして胴体から出ている短い腕のようなものからピンクに光る紐のようなモノが出てきた。

「・・・っさせるか!!」

カチャッ!

ガガガガガガガガッ!!

それを武器と見たシンジ、攻撃させる前にパレットガンで射撃する。
・・・が全く効いてない、弾に当たりながらシャムシエルは紐を鞭のようにしならせる。

ヒュウン!

「うおっ!!?」

ズガッ!

ドゴオオッ・・・!!

シャムシエルの鞭が初号機を襲う。
初号機はパレットガンを斬られ、後ろに倒れこむ。

「鞭だったのか!!」

ビュビュン!

「うわあっ!?」

ズガッ!

ガガァン!!

後ろに跳び何とか避ける。
兵装ビルが楽々切り裂かれてゆく。
かなりの切れ味にシンジが冷や汗を流す。

『シンジ君、予備のライフルを出すわ。受け取って!!』

「はい!」

ヒュウン!

「・・・っ!!」

ガギィン!

ドガガン!!!

「うぐっ・・・!近づけねぇ・・・!」

シンジはパレットガンが出ている兵装ビルに近づこうとするが、
シャムシエルは鞭を振り回す、シンジはそれを避けるので精一杯だ。

ズガァァ!

「うっ!!」

バチィッ!!

シャムシエルの鞭が初号機のアンビリカルケーブルを斬る。
発令所に警報が鳴り響く。

「アンビリカルケーブル断線!!」

「エヴァ、内臓電源に切り替わりました!!」

「なんてことっ!!」

「シンジ君、活動限界まであと4分53秒よ!早く倒さないとヤバイわ!!」

ミサトが声を上げる、シンジは舌打ちをして唇を噛む。

「くっ・・・・・。」

(このまま逃げてばっかりじゃあ止まっちまう・・・こうなったら・・・!!!)

ダダン!

ダダダダッ!

「やるっきゃねえ・・・!!」

『シンジ君!?何を・・・!!』

ダダダダダダ!!

ヒュウン!

初号機がシャムシエルに向かって突撃。
シャムシエルの鞭が初号機に迫る。

「来い・・・・来い・・・・来いっっっ!!!!!」

ビュオン!

『シンジ君!!』

「っ!!!」

ダァン!

そして鞭が初号機に直撃かと思った瞬間に初号機が空に舞う。
初号機は宙返りをしてシャムシエルの真後ろに着地。
背中を取った初号機、シャムシエルの胴体に手を回す。

ガシッ・・・!

「捕まえたぜぇ・・・うおおおおおおっ!!!」

グワァッ!

シンジが腕に力をこめる、シャムシエルの体が浮いた。
初号機はそのままブリッジをするように後ろに倒れこむ
そう、この技は・・・ジャーマンスープレックスだ。

「うらあああああっ!!」

ドガアアアン!!!

『ナイスよシンジ君!!』

「まだまだぁっ!!」

かなりの高速で頭から落とされたため、シャムシエルは地面に頭を突っ込んで動けないでいる。
シンジはシャムシエルを地面から引き抜いてから担ぎ上げる。

ヒュヒュン!

ズドン!!

「ぐっ・・・が!!!」

担ぎ上げられたシャムシエルは鞭で初号機の胴体を貫いて抵抗を見せる。

『シンジ君!!!』

「うぐっ・・・・負けるかあああっ!!」

シンジは痛みに耐えながら初号機の膝の上にシャムシエルのコアを落とす。
背骨ではなくコアを狙った超高速の逆バックブリーカーだ。

ギュオオオオッ!!!



バキィィン!!!



コアが砕け散る・・・。

ズゥゥゥゥン・・・・

シャムシエルは力なくその場に倒れた。
光を失った鞭を引き抜き初号機が立ち上がる・・・。

「はぁっ・・・はぁっ・・・!」

『シンジ君、大丈夫っ!?』

ミサトから通信が入る。

「はぁっ・・・はい。ところでどうでした?今の。」

『もう最っ高!シンジ君、すぐ迎えにいくから待ってて!!』

「はい・・・お願いします。」

通信が切れる。シンジは溜息をつき目を閉じた。

「ふぅ・・・・・・。」












===NERV・ドイツ支部===



「「「「おおおっ!!」」」」

発令所から歓声が上がった。
ここはNERVのドイツ支部。
モニターには初号機とシャムシエルの戦いが映されている。
今ドイツは夜なのだが、発令所にはほとんどの人が集まっている。

「流石だな、噂のサードチルドレンは・・・。」

「ふん・・・。」

袖を肘まで上げたシャツを着た無精髭の男・加持リョウジが言う。
横にいる赤金髪の美少女、惣流・アスカ・ラングレーが不機嫌そうに声を出して答え、
モニターを敵意のこもった鋭い目で見る。

「エヴァでプロレスでもしようってのかしら、馬っ鹿じゃないの?」

「ははは・・・でも俺は好きだな。」

「そういう問題じゃないですよ加持さん・・・。何で・・・こんな奴が。」

「第三使徒との彼の戦いを見ただろう?・・・射撃のレベルはまだまだだが・・・
接近戦は達人並だ、サードは強い。」

訓練無しで初号機を動かし、初戦で知りもしないA・Tフィールドを展開。
しかも数十秒ではあるがシンクロ率80%を記録したサードチルドレンは今や噂の的だった。
勿論アスカには面白くない。アスカはモニターに映る初号機を見て一言だけ呟いた。

「・・・・・認めない。」

そう言ってアスカは踵を返し発令所から出て行った。
自分は子供の頃からずっと血を吐くような訓練をしてきてエヴァのパイロットになった。
友人と笑い合い遊ぶ事を捨て、恋をする事も捨て、訓練のみの生活。
自分は大学を卒業している、勿論それもかなり努力した。
そしてやっと今の天才と呼ばれている自分がいるのだ、それなのに・・・。
コイツは今までの自分を全て否定するように全てを覆した。
認めるわけにはいかない・・・絶対に。




廊下を歩きながらアスカがつぶやく・・・。




「絶対に・・・認めない。」





アスカのその目には・・・敵意が映っていた。