lightning


PHASE−10 命令違反と開放


翌日、その又翌日もラーはクリスに飯を運んでいた。
何故だかはラーにも分からない。
ただ、なんとなく・・・なんとなく運んでいただけだ。
特に意味はない。
「クリス、家族は?」
「義理の両親が二人。本当の両親は血のバレンタインで死んだわ」
ラーの頭にテレビで見た光景が蘇る。
地球軍の放った核ミサイルが農業プラントに激突し数千という人間が死んだ。
「そっか・・・」
「貴方に家族は?」
「僕には父上がいるだけさ・・・母さんはなにかの実験の事故で死んだ」
「そうなの、アナタも・・・」
ラーはクリスが食べ終わるのを見て食器を持って戻った。
「結局一緒なのかも・・・人が戦う理由なんて・・・」
ラーは吐き捨てた。

「ラー!!」
ラーが自室に戻ろうとするとフィールが前から走ってきた。
なにやら慌てている。
「どうした?」
「か、艦長が・・・ラーを読んで来いって」
「艦長が?」
フィールは頷く。
ラーはフィールに礼を言うと走って艦長室に向かった。

艦長室
ラーが艦長室に来るとマイが座って頭を落としている。
入り口の近くには副艦長であるネーマルがいて同じく俯いている。
ラーは不思議に思い思わずたずねる。
「い、一体なにがあったんですか?」
マイの瞳にはラーを見て少しためらいの色があった。
するとネーマルがラーに近づいてきた。
「ラー君、言いにくいことなんだけど・・・」
ラーはその一言である可能性があることを考えた。
だが、それは同時に信じられない事だった。
「ラー君、落ち着いて聞いて・・・」
「はい」
ラーは生唾を飲んだ。
額から汗が吹き出るように出てくる。
「ドゥメイン・ハルバートン提督が・・・戦死されたわ」
自分の考えがあたった。一番考えたくない考えが!!
ラーは信じられなかった。
「うそだろ・・・父上が死ぬなんて!!嘘だ!!」
赤いラーの瞳から大粒の涙がとどめなくこぼれている。
床にうずくまってしまう。
「嘘だ・・・あの知将と謳われた父上が!!・・・・・・・戦死だなんて!!」
そのラーにネーマルが駆け寄る。
「ラー君、行きましょう」
ネーマルはもはや引きずるような形でラーを医務室につれていった。


「もう、大丈夫です・・・」
ラーは焦点が定まらない目でフラフラと立ち上がった。
それを見たネーマルは怒鳴った。
「まだ、ダメよ!!あなた目の焦点が合ってないわ!」
ラーがネーマルを見るとその顔は二つに見えた。
頭がガンガンした。
その瞬間ラーの目の前は真っ暗になった・・・。


目の前は真っ暗。
それは瞳を閉じているから・・・。
においをかぐと薬のような臭い。
医務室ということがラーに理解できた。
あのときおそらく気を失ったのだろう・・・。
「ラー、大丈夫?」
ラーが瞳を開けるとそこには心配する顔のルゥとフィールがいた。
ちょっと顔が青ざめている。
「あ・・・ああ、もう大丈夫だよ・・・うぅ・・・」
ラーが起き上がると吐き気とめまいが襲った。
「む、無理しないほうがいいんじゃ・・・」
「大丈夫だよ!!」
「わ、私先生呼んでくるよ」
ルゥはそういうと部屋を飛び出した。
ラーは気が抜けるようにベッドに倒れた。
「ラー大丈夫なの?」
「大丈夫って・・・いってるだろ・・・」
語尾が小さくなった。
ラーの瞳からは涙が出てきた。
「泣いてるわよ、あなた」
そのときラーは自分が始めて涙を流していると気づいた。
フィールは近くにおいてあったハンカチでラーの涙を拭った。
するとルゥが医師を呼んできた。
しばらく診察が続いた。
「特に異常はありません。安静にしていたら徐々に気も落ち着くでしょう」
「ありがとうございます・・・」
ラーは再び横になった。
それを見た医師は再び自分の部屋に戻っていった。
見届けたルゥは
「でも、よかった・・・何も大事に至らなくて・・・ね?」
ラーは目元を腕で隠しながら一言だけつぶやいた。
「・・・・・一人にしてくれよ・・・・・」
それを聞いたルゥとフィールの二人は黙って医務室を出て行った。


深夜皆が寝静まったころラーは起き上がっていた。
何かを飲みに食堂へと向かった。
暗くなっていてシェフも居なかったがラーはすでになれてしまった水の場所を探し出し一杯飲み干した。
ラーの頭に一瞬生前生きていたころのドゥメインの顔が思い浮かぶ。
「・・・戦争か・・・・・・バカやってんだろうな・・・僕たち・・・」
あたりに沈黙が走った。
「・・・よし!」
そのラーの瞳にもう迷いはなかった。
決意の瞳しかなかった。


ラーが向かったのは独房だった。
ここには捕虜などが囚われている。
と言っても今はクリスしか居ないが・・・。
「誰?」
「僕だ・・・生きたい?」
「生きたいって?」
「君はこのままじゃいずれ連合に殺される・・・生きたい?」
クリスは一瞬だけ連合に言いようされ殺される自分を想像するがすぐ首を振り頷く。
それを見たラーは微笑し鍵を開ける。
「行こう!」
ラーはクリスの手を取る。
そして格納庫へと走る。


格納庫に着くとラーはパイロットスーツに着替えクリスには地球軍の一般のパイロットスーツを渡した。
ラーはライトニングを起動させる。
クリスは無言でコクピットにいるラーのもとへ行く。
「どうしてこんなことするの?」
「僕は・・・僕は人を殺したくて戦争やってるわけじゃないんだ!」
ラーはコクピットハッチを閉める。
そしてライトニングを操作する。
ライトニングは出撃ハッチを緊急用の開閉ボタンを押し開く。
そのときになってようやく警報が鳴り響いた。
マイがブリッジに行くと皆揃っていた。
「何があったの!?」
「ラーがあの捕虜を連れて無許可発進したんです!!」
「な、なんですって!?」
「ラー君!!急いで戻りなさい!!」
ネーマルは無線でラーに呼びかけるがラーは一言だけ答えるんだった。
「僕は・・・・・・・人殺しをしたくて戦争をやってるわけじゃないんです!!」
「それは仕方がないのよ!!戦争だから!!」
「戦争だから人を殺していい、殺戮をしていいなどとはただのわがままです!!戦争だからって人を殺したりしちゃいけないんだ!!!」
そのラーの硬い意思はネーマルだけでなくクリスを含む今この場にいるラーの話しを聞いている者全てが驚いていた。
と同時に考えることを与えた。
フレアリットのコークス隊はライトニングの発進を察知したのかサファイアのシグーとレクのジンが出てきた。
「待て!!こちらは戦いが目的じゃない!!」
『なんだと!?ふざけたことを!!』
『待て!・・・何が目的だというのだ?』
サファイアは悪魔でも冷静だった。
「L6のアルジローレコロニーで捕虜にしたクリス・マテリアルを引き渡す!どちらでもいいから来い!!ただし一機だけだ!」
『分かった・・・私が行こう!』
『隊長!?』
『お前は戻っておけ!』
『は、はい!』
サファイアのシグーは武装をすべて外しレクのジンに渡してからライトニングに近づく。
そしてサファイアはシグーのコクピットを開ける。
『これでいいか?』
ラーはそれを見てコクピットハッチを開く。
そのパイロットを見て一人だということを確認してラーはクリスを離す。
「クリス・・・これだけは覚えていて欲しい。人は殺したいからじゃない生きたいからしていると・・・」
ラーはそういうとコクピットハッチを閉めインビシブルへと帰還した・・・。


次回予告
命令違反・・・。
それはライトニングに乗ってから軍人と認識されていたラーにとって反逆的な行為だった。
そしてインビシブルは歩を進める。
それを追うフレアリット。
再び剣を交えることになるのか・・・。
次回 PHASE−11 解き放たれる牙