ついに美優が帰ってきてしまった……。
音姫がいるから何か言われるのは確かだろう。
「お兄ちゃん、その人どうしたの?」
「……う〜ん、なんて言ったらいいのかな……同級生なんだけどエレメントビーストに襲われてたから俺が助けたんだ」
「銃もなしに?」
「音姫…ああ、いや、この女の子が持ってたからそれを使ったんだよ」
「ふ〜ん」
妹はあきらかに怪しいという目で俺と音姫を交互に見ている。
そりゃそうだ。
音姫は銃なんて持っていなかった。
倒す方法は一つ。ルガーソードで倒すしかなかった。
そんなこと妹である美優は知らないのだから嘘をつくしかない。
「着替えとかたぶん、持ってきてないからお前の貸しといてくれないか?」
「しょうがないわ。それぐらいするわよ」
「ふふ、助かる」
そのとき音姫が起き上がった。
だが、それは不幸の始まりの予兆であった。


第五話 闇の襲撃者

「音姫もう、大丈夫なのか?」
「まあね………その子誰?」
「ああ、俺の妹の美優だ。ちょうどいまさっきかえってき……!!!!」
そのとき空間上の空気の流れが変わったのを感じた。
手が自然に震える。
音姫と美優の二人を見てみると二人も同じようだった。
突如家ではなく紫色の空間が目の前に広がった。
音姫の寝ていたベッドもない。つまり音姫は地面に直座っている。
「一体何が!?」
『見つけたぞ………ナンバー7ROUMA!』
そのとき変な声とともに羽が生え腕が槍のようになっている異様な姿をした者が現れた。
「な、なに!?」
美優はパニック状態だった。
「え、エレメント・ビースト!?」
『ふっ!あんな変な愚者と一緒にするな……お前の命をもらいにきた!!』
「はぁ!?」
いきなりその槍のような腕で俺に攻撃をしかけてきた。
間一髪で回避する。
服がえぐれて腕の部分の布が少し切れる。
「な、なんで俺の命を?」
『ふっ知れたことを!!』
再び異様な姿のものが槍で攻撃してくる。
だが、今回の攻撃目標は俺ではなく狙われる意味もない美優だった。
「っ!!」
「美優!!」
俺はかばった。
そのせいで胸のど真ん中に槍が突き刺さった。
「うぐっ!!………」
血が溢れるのを見てだんだん意識が薄れてきた。
ああ、死ぬんだ俺。
美優と音姫の二人が俺に声をかけている。
ごめんな、最後まで辛い思いさせて……美優……。


――――ドクン――――
なんだろう……この感覚?
死んだら確か天国か地獄か選ばされるんだよな……。
『諦めるの?』
「君は……マナ?」
『クスクス……そう、久しぶりロウマ』
そこには紫色に光っているラティエルによると闇の管理者マナの姿があった。
腰まではある長い髪の毛がゆらゆらと揺れている。
声はこの前変に聞こえたが今ははっきりと聞こえてくる。
「俺は死んだのか?」
『そうとも言えるし……そうとも言えない…』
「はは、どっちなんだ?」
『どっちでもないつまり狭間だよ』
「狭間……間ってことか………だから意識がはっきりしているのかもな」
「――――なあ、なんで俺はエレメントハマニティなんだ?」
『それは教えられない……あなた自身で答えを探すしかないよ』
そのとき光に包まれた。
暖かい光。
ほっとする光。
闇を消し去る光。


気がついたらルガーソードが異様なものの体を貫いていた。
どうやったかなんて分からない。
ただ、気がついたら俺はルガーソードを強く握り締め相手の胸をピンポイントで貫いていた。
俺は体を動かそうとしたが動かない。
固まったままだった。
そのまま体は勝手に動きルガーソードを上に持っていき異様なものの頭らしきものを真っ二つにする。
そして横にルガーソードを動かし上半身と下半身を分ける。
ルガーソードは消えた。
おそらく心に戻ったのだろう。
気がつくと体を動かせるようになっていた。
そしてあの紫色の空間もなくなっていた。
周りを見れば見慣れたまだ新鮮さが残る家だった。
胸の部分を見ると血はなかった。
だが、血はなかったがかわりのようにローマ数字のZをかたどったペンダントが鎖で繋がれぶら下がっていた。
裏を見ると『ROUMA』と書かれていた。
俺の名前のローマ字書きだった。何故こんなものが現れたのか分からない。
分かるはずもない。
でもなぜか捨てる気にはならなかった。
「お、お兄ちゃん……だ、大丈夫?」
美優はもう半泣き状態だった。
無理もない。
目の前で家族が死んだら俺だって今の美優みたいになるだろう。
「龍真、平気?」
一方こちらは音姫だ。
泣いてはいないが少し悲しい表情をしている。
まあ、人が死んだら少しは申し訳なさそうな顔をする。
それだ、きっと。
「一体何があったんだ?」
「えっと……あなたがさっきの変なやつに刺されて気を失ったとき今度はお前たちだっていって私たちに槍を向けた瞬間……」
そこで音姫がいったん言葉を止めた。
何かを考えているのだろうか?
それとも言わないほうがいいと思っているのだろうか?
「瞬間…どうしたんだよ?」
「………あなたが突然目覚めたのよ。地面に魔法陣を表示させながらね」
「魔法陣って……高い魔法を使おうとすると発生するやつだよな?」
「うん……それが発生した途端、あの剣…ルガーソードだったかしら?
その剣が紫色の光をまぶしいぐらい出しながらあなたの手にあったのよ」
「それで気が狂ったようにあの変なヤツを突き刺したの。覚えてないの?」
「…………刺したあとからしか記憶にない。っていうか意識がなかった」
「そうなの………まあ、今はもとに戻っているみたいだから大丈夫よ」
そのとき寝息が聞こえてきた。
俺も音姫も寝てなど居ない。
ってことは美優しかいない。
「寝ちゃったの?」
「ああ、仕方ないよ。目の前で家族が死んだら誰だって泣くよ」
俺は美優を抱えると部屋に運びベッドに横にして布団をかけた。
部屋に戻ると音姫がものすごく暇そうにしていた。
そのときふと疑問がわいた。
「お前……学校に通ってないのか?」
「うん、だってだいたい勉強のことは分かるし」
「その言葉嘘じゃないな?」
「うん、嘘ついてどうするのよ」
「じゃあ、これやってみろよ。あとで片付けようと思っていた宿題だ」
俺は数学Uと書かれた教科書をかばんからひっぱりだし音姫に見せる。
「簡単ね。書くものある?」
俺は黙ってシャーペンを貸す。
するとすらすらと俺の解けない問題までやってしまった。
「す、すごい!!」
「どんなもんよ!こんなの朝飯前よ!!」
これで宿題は片付いた。
してやったり(笑)。
しかし、俺はある問題に気づいてしまった。
「寝るとこどうすんだ?余分の部屋なんてないぞ」
「そんなのここで寝ればいいんじゃない?」
ほら来た。来ると思った常識崩し。
普通女性から男性と同じ部屋で寝ればいいなんて言葉はまず出ない。
まだ、お互いのことをよく知らない時点ではまず出てこない。
そりゃあ、関係が深い恋人同士だったら逆に出ても普通だけど。
「分かったよ。俺は布団で寝るからお前ベッド使え。」
「分かったわ」


ナンバーセブン ROUMA…………。