その女性はパっと見た感じ俺と同年齢に見えた。
だけど確実に放っているオーラが違う。
髪は全部紫色。服は紫色を主体としていてところどころが白い。
今死への恐怖がこみ上げてきたばかりだというのにいまさらながら安堵感がこみ上げてきた。
それは気のせいか……。
それとも。

第八話 闇の音色・開かぬ扉

「はじめましてロウマ」
その声はどこか幼かった。
顔を俺の方に向けた。
はじめてみる顔だが大人っぽく見える。
だけど幼いというのが直感で分かるっていうか…。
そんな感じで……。
とにかく幼いのが分かる顔立ちだった。
瞳の色は鮮やかな紫色。
「君は……マナ?」
もう分かっているというのに聞いてしまった。
だけどがっくりする風でもなく満面の笑みでこう言った。
「そうだよ、はじめましてロウマ」
再度確認する風にそう言った。
俺の視界には黒くうごめくエレメントビーストがいるのにすごく安らぎを感じる。
しかしすぐに険しい表情になった。
「あれはエレメントビーストだよな?」
「そうだよ……私がこの世界に降り立ったことであふれちゃったの」
マナはウィンクして舌を出した。
笑い事じゃないのは確かなんだが……。
心の中で苦笑した。
だが苦笑している場合じゃなかった。
エレメントビーストはこちらに気づいたのか一斉にこっちに向かって歩いてくる。
だけどすべてが遅い。
やはりあの地下であったエレメントビーストと同タイプだという予想があたった。
いや願いが届いたといったほうが正しいのか……。
「どうする!?」
俺は手を開きルガーソードを取り出す。
そして構える。
「それってルガーソード?」
「ああ、ってそんなこと言ってる場合じゃなくてなんとかしろよ!」
「なんとかって?」
相変わらず笑っている。
そんな笑みでもまた安らぎを感じてしまった。
ったくなんなんだコイツは!
「どうやって倒すんだよ……」
「ロウマの闇の力を増大させれば余裕だよ」
「えっ………」
俺の闇の力を増大させる?
そんなこと………。
「そんなこと可能なのか?」
「私は闇の管理者だよ?………」
そう言うとマナは手を広げた。
そのときだった。
紫色のオーラ……いや、闇の力そのものがマナの体から出てきたような気がした。
いや、違う。
この目で瞳で見えた。
闇の力……マナの闇の力が増大するのが……。
『アナタを守るのは〜』
えっ?歌?
その声はテレビなので聞く歌声とはまったく違った。
なんていうか心がこもったような歌だった。
『いったいだれなのかな〜
いつも見ていたアナタの顔を〜
もう立ち止まらないで泣かないで…これ以上私を守らないで〜
私がアナタを守るから…だから……』
その闇の増大した力がルガーソードに吸い込まれていく。
ルガーソードに力がこもるのがラティエルを通して伝わってきた。
『私を愛して……』
そのときだった。ルガーソードの中心が開き普段はプラズマ粒子だが今は紫色の闇の力があふれ出ていた。
俺の隣にはラティエルが現れた。
「この力ならあのぐらいの敵はたやすい……乗れ、龍真」
俺は頷きルガーソード片手にラティエルの背中の部分に飛び乗った。
ラテェイルはその大きな翼を羽ばたかせた。
そのときマナは俺の瞳を見て笑った。
安らぎじゃない。
力を送り込まれたような気がした。
ラティエルの翼が中に浮く。
そして溢れんばかりのエレメントビーストの真上に位置する場所で止まる。
もちろん中に浮いている。
「感じる……ラティエル……行くぞ!」
俺はルガーソードを投げる。
ちょうどエレメントビーストの真ん中に落ちた。
いや、刺さった。
そしてラティエルが紫色のブレスを吐いた。
そのブレスがルガーソードに当たったときそこに巨大な紫色の魔法陣が表れた。
魔法陣はすべてのエレメントビーストを消し去った。
「やった……」
だが、俺はそのとき目の前が真っ暗になるのを感じた。


目覚めるとそこは病院臭かった。
それは慣れることのない嫌なにおいだ。
もちろん俺もこの臭いは嫌いだ。
その臭いからそこが村雲学園の保健室だった。
「あ、起きたみたい」
そこには紫色の髪の毛をしたさっきの女性マナがいた。
となりには美優と音姫が座ってなにやら話しをしている。
しかし、さっきのマナの言葉で俺の方へ近づいてきた。
「あ、起きた?龍真」
「ああ、一応……一体何が?……ここはどこ?」
「さっき私の闇の力を送ったけどたぶん体が耐えられなかったと思う」
マナが申し訳なさそうに答えた。
俺は「そうか」としか答えることができなかった。
「だけどあんな大量のエレメントビーストが?」
「さっきも言ったと思うけど私がいた世界からこっちの世界に来たときに私がいた世界のエレメントビーストが
溢れちゃったと思う」
「えっ?マナがいた世界って………この世界じゃないのか?」
「うん、本当はこの世界に来ちゃいけないんだけどロウマに伝えたいことがあったから来ちゃった」
さっきと同じく下をペロっと出された。
悪いが可愛いけど笑っている場合じゃない。
その「伝えたいこと」っていうのがすごく気がかりだ。
「そのお兄ちゃんに伝えたいことってなんなの?」
「なんなのって言われても………」
「………大丈夫、ここにいる三人だったら信頼も置けるし、口難そうだし」
「じゃあ、言うけど……ハデスの話は知ってるよね?」
三人とも頷く。
「だったら話が早い。その謎の組織名前は分からないんだけど復活させようとしてるの。ハデスを」
「あの闇の霊獣を!?」
「ええ」
「もし復活を許してしまったらどうなっちゃうの?」
「この世界がすぐに滅びるってわけじゃないけど徐々に、徐々にハデスの魔力によって衰退し最後にはハデスの支配する
暗黒の世界になってしまうわ」
「じゃ、じゃあマナのいた世界は?」
「私がいた世界は……たぶんだけどこの世界の何倍ものスピードで衰退し暗黒の世界になって死者しかいない
世界になると思うわ」
「か、管理者たちはハデスに対抗できないのか?」
マナは残念そうに首を振った。
「無理よ、ハデスの力は闇の塊、闇そのもの。私の力を用いたところで何にもならないの」
「防ぐ方法はないのか?」
「あるにはあるけど………」
「あるけど?」
「限りなく成功確率が0%に近くてそれでそれが成功するのかも分からないよ?」
「それでも成功しないわけじゃないだろ……一応聞かせてくれ」
マナはため息を一つして説明を始めた。
「ハデスの復活には莫大なエネルギーが必要なの。そのエネルギーはすべてのエレメント属性の絶対なる力。
つまりその属性に一体はいる究極霊獣」
「謎の組織は究極の霊獣の莫大なエネルギーを採取しようとしていると思われているの」
「思われている?」
「私以外……他の属性の管理者はこのことを知っているわ。すでに対策を施しているけど……謎の組織の力は大きいの」
「何かできないのか?俺たちは」
「私がいた世界に行かないと究極霊獣も謎の組織もいないと思う。だから…私がいた世界に行けば」
『我と闇の管理者の力を使えば簡単なことだろう』
ラテェエルがいつのまにか俺の横にいた。
「でも、よく考えて一回私がいた世界に行ったら戻ってこれる保証はないの」
「期限は一週間ね。管理者たちが一週間と言っていたから」

イマ…ケツダンノトキナノカモシレナイ